木材集めも討伐で
今日は第二十階層の探索。移動にはもちろん転移扉を使った。マッソさんが話を通していてくれたみたいで、ローウェルが簀巻きにされることは免れた。
第二十階層は第十階層と同じく森林エリアだ。とはいえ、様相はかなり異なる。第十階層は密林という感じだったけど、こちらは暗闇の森。一日中夜というわけじゃないんだけど、昼間でも不思議な闇に覆われて薄暗いんだ。
この階層に来た目的は色々あるけど、一番の目的は木材の確保。アレンたちの等身大ボディの材料として使うために必要みたい。全身鋼鉄製でもボディは作れるんだろうけど、それだと重くなりすぎて俊敏性が損なわれるそうだ。材料さえ手に入るのなら、できるだけいいボディにしてあげたいからね。
どの道、レベルを上げたり、ステータス向上薬用の魔石を手に入れたりするために深い階層に挑戦するつもりだったから、ちょうど良かったかもね。
森林地形なので、木はそこら中に生えているけど、それらを伐採しても意味は無い。特別な採取ポイント以外のダンジョン生成物は、形が崩れた時点で消失してしまうからね。逆に言えば採取ポイントでは木材も取れるわけだけど、今日の狙いは別のもの。フィアトレントが落とす木材がターゲットだ。
「あれが人食い草で、その足下で咲いているのが誘香花かな」
「そうそう! トルトもだいぶ、見分けがつくようになったね!」
「うん。でも、まだ歩きながら素早く見極めるのは無理かなぁ」
冒険者ギルドで地形踏破のスキル講習を受けたから、少しだけ地形トラップの区別がつくようになった。とはいえ、ダンジョン罠と同じ精度で発見するのはまだ難しい。そもそも地形踏破のスキルは発見より対処に重点を置いたスキルなんだよね。悪影響を軽減することはできるけど、発見はあくまで本人の観察力頼みだ。知識は増えたから、どんな場所に地形トラップが発生しやすいかはなんとなくわかるようになったけどね。
幸いなことに、森林地形ならスピラという優秀な教官がいる。この階層で経験を積めば、スキルレベルも上がるだろうし、発見精度も改善されていくんじゃないかな。
「みんなストップ! 魔物だよ!」
『ぬぉ!? あの木か! 気付かなかったぞ!』
薄気味悪い森の中を歩いていると、ふいにスピラが制止をかけた。魔物……らしい。とはいっても、僕にはどこにいるのかさっぱりわからない。シロルでさえ、言われるまで気付かなかったみたいだ。シロルがわふわふと吠え掛かっているのは、正面右手にある木だ。何の変哲も無い樹木に見えるけど、シロルとスピラの反応から考えるに、あれが魔物なんだろうね。
こちらが気付いたことを察したのか、木に擬態していた魔物がのそりと動き出した。樹皮の一部がぐにゃりと歪んで、不気味な老人の顔へと変化する。フィアトレントだ。Bランクの魔物で耐久力が高く、見かけによらず機敏だ。僕らはスピラのおかげで防げたけど、木に擬態した状態からの奇襲攻撃が凶悪だという話。移動速度はそれほどでもないので、逃げることは難しくないんだけど。
まあ、今回は逃げるという選択肢はない。あいつから木材を確保しなくちゃいけないわけだからね。
「って、待った待った! アレンたち、戻って!」
戦いが始まるというところで、プチゴーレムズがフィアトレントに突撃していった。それを慌てて止める。人形ボディになってから、プチゴーレムズはどうも好戦的だ。格好に性格が引っ張られてるのかな?
影響があったのは性格だけじゃない。たぶん、動作や思考なんかにもボディの影響が出ている。アレンやミリィは動きが機敏になった。シャラは指示に対する判断が的確になった気がする。ピノは……あんまり変わりがないけど。
とはいえ、手のひらサイズのボディでフィアトレントに挑むのはあまりに無謀だ。ボディの材料となる木材を自分たちで手に入れたいのかもしれないけど、ここは我慢してもらうしかない。作業用ボディに換装することもできるけど、あれも戦闘用ってわけじゃないしね。
プチゴーレムズには退いてもらって、あらためて戦闘開始だ。フィアトレントの攻撃手段は刃物のような葉を飛ばす遠隔攻撃と根っこを槍のように地面から生やす中距離攻撃、そして太い枝を腕のように振り回す近接攻撃だ。なかなか隙の無い魔物だね。
とはいえ、僕たちも強くなっている。Bランクの魔物が相手でも一体なら十分に渡り合えるだろう。
「わっ!」
初撃はハルファのショックボイス。飛んできた葉っぱを衝撃で散らしつつ、フィアトレントにダメージを与える。グゴゴゴと重く軋むような音はフィアトレントの悲鳴だろうか。頭を振り乱して、妖樹が身を捩る。それに合わせてばさばさと葉っぱが落ちた。効いてるみたい。
『ぬおお!』
続いて、シロルの雷撃。だけど、これはあんまり効いてないね。フィアトレントの樹皮は属性魔法への耐性があるらしいから仕方が無いかな。シロルも一応試してみただけみたい。すぐに雷撃は止めて、突進攻撃に切り替えていた。
僕は火の鳥型ゴーレムで攻撃してみた。属性魔法に耐性があるとはいえ、木だし燃えるかなと思ったんだ。でも、駄目だね。フィアトレントに触れた瞬間にかき消えてしまった。
ただ、炎属性が有効なのは間違いないみたいだ。それはローウェルが証明した。フィアトレントの枝振り回し攻撃をかいくぐり、その枝に斬りかかったんだ。そして、樹皮を引き裂いたところで魔法剣を発動したんだろう。枝をばっさり切り捨てたローウェルの剣には、赤々と燃える炎が宿っていた。
ローウェルを最大の脅威と見なしたフィアトレントが、彼に攻撃を集中させはじめた。葉と根と枝の波状攻撃に晒され、さすがのローウェルも攻撃に移れない。
「お兄! あたしが引き受けるよ」
これに対して、スピラが樹属性の防壁で対抗。根と葉の攻撃はほぼ無力化された。そうなれば、フィアトレントにローウェルの攻撃を止める術はない。炎の魔法剣は次々とフィアトレントを焼き切り、その存在を消滅させた。
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