16. 緊急の知らせ

 ダンジョン作りに関わりたいと思っているのは太陽神様と職業神様だけじゃないみたいで、どこからともなくやいのやいの声が聞こえてくる。訓練ダンジョンはひとつじゃなくてもいいわけだから、それぞれが作ればいいのにと思っていたのだけど……それは甘い考えだったかもしれない。


 だって、聞こえてくる声が想像以上に多かったんだ。各々が勝手に作ったら、この世界はダンジョンだらけになってしまうかもしれない。あとは作る順番でも揉めそうだ。ダンジョン作成にはガルナの力も必要なので、同時進行で複数作ることができない。この神様たちがお行儀良く順番を待つ、なんてことができるかな。


『この話はいつまで続くんだ? 僕はお腹がすいたぞ!』

「そうだね。もう帰ってもいいかな?」


 てしてしと僕の足を叩くシロルの右前足をひょいと捕まえながら、その意見には同意しておく。だって、どう考えても僕らには関係のない話だもの。ハルファとスピラは関係ないお喋りをしてるし、ローウェルは目を瞑って直立不動だ。寝てるわけじゃ……ないよね?


 呆れ顔で傍観している廉君に一声かけて、帰らせてもらおう。そう考えたときだった。あれほど騒がしかった声がピタリと止んだんだ。


「え……どうなってるの?」

「神域に呼びかけがあったんだ。緊急事態かな」


 僕の呟きに、同じく小さな声で廉君が教えてくれた。


 緊急事態という言葉に少しドキリとする。どういう意味かと尋ねる前に、太陽神様が口を開いた。


「何事ですか?」


 その声色にさっきまでの緩い雰囲気はなかった。威厳たっぷりのその問いは、僕らに向けられたものじゃない。きっと、呼びかけてきたという誰かに向けたものだろう。


 職業神様が用意したスクリーンに表示されている映像が切り替わる。どうやら、神域の外――僕らが入ってきた部屋の様子を映し出しているみたい。そこには跪いている一人の男性の姿があった。見覚えのあるその人は、冒険者ギルドのグランドマスターであるローゼフさんだ。


「異界の先兵の姿が確認されました! しかも複数の地域からほぼ同時に報告が上がっております!」


 異界の先兵。つまりは銀の異形たちが現れたみたい。


 こうなると、呑気にダンジョン作りの話をしている場合じゃなかった。アイツら、侵蝕して仲間を増やそうとするので、見つけたらすぐに駆除しないと厄介なんだ。


「現状、異界の侵略者に対してあなたたちほど的確に対処できる者はいません。協力してくれますか?」

「もちろんです!」


 太陽神様からの協力要請には当然頷く。神様になるつもりはないけど、この世界を守りたいって気持ちは僕にもあるからね。


 早速、ローゼフさんの執務室に場所を移して異形たちへの対処について相談することにする。


「全てをあなたに委ねるという話でしたが……何か対処策はあるのでしょうか?」


 不安げな顔でローゼフさんが切り出してくる。


 ここにいるのは、僕らのパーティとローゼフさん、ラングさん、そして秘書っぽい男性一人だ。ただ、この会談が始まる前に数人の職員が飛び込んできた。彼らが知らせてくれたのは銀の異形に関する続報だ。どんな手段か知らないけど、ギルド本部は支部とのやり取りができるみたい。被害状況や確認されている異形の詳細が届く中、別の地域からも出現報告が入ってくる。このままじゃ埒があかないってことで、一旦、執務室への報告は止めて、アイツらへの対処を優先したってわけ。


 そんな状況で、神様たちから対策を委ねられたのが僕らだ。見た目の問題もあり、頼りなく思われても仕方がないとは思う。とはいえ、僕らほど、異形と戦った経験がある冒険者はいない。安心してもらうためにも、さくさく話を続けよう。


「今のところ確認されているのは、下っ端……というか、魔物に憑依しているヤツだけなんですよね?」

「そうですな。以前からレブウェールのギルドからたびたび報告があったタイプと同じです。あれも、トルト殿たちが退治したとか」

「はい。全部かはわかりませんが」


 銀の異形が最初に報告されたのは、草原の国レブウェールのギルドだったって話。といっても、出元はアルビローダのエルド・カルディア教団だと思うけど。


 そのときは数件の報告があっただけで、それほど大きな騒ぎにはならなかった。だけど、後日、神域からのお告げでそれが異界からの侵略者であると知らされたんだって。それを受けて、ギルド本部から全支部へと警戒するように通達していたみたい。


 その甲斐あって、発見と報告は早かったのだけど、残念ながら対処策を講じるまでには至っていなかった。


 異形に侵された生き物は、多少の傷だとすぐに塞がってしまう。しかも、下手に傷つけるとどんどん銀化が進んでいくんだ。修復が間に合わない速さで依り代の体をズタズタにすれば倒せはするけど、肝心の異形は逃げてしまう。それでは犠牲者が増えるだけだ。


「現状では手の施しようがありません。発見しても手出しを控えるようにと通達しておりますが、ヤツらの方から都市に近づいて来た場合は迎撃せざるを得んのです。トルト殿はいったい、どうやってヤツらを倒したのですかな?」

「普通の方法では無理です。僕には特殊な……浄化の力があるので消滅させることができますが」

「なんと、そうでしたか! しかし、そうなるとどうしても対処が遅れますな……」


 ローゼフさんの表情は微妙だ。きっと、浄化の力が僕にしか使えないと思っているんだと思う。今回は当時多発的に異形たちが出現したから、逐一僕が出向いていたんじゃ時間がかかりすぎるってことだね。


 でも、安心して欲しい。付与魔道具にすれば、誰にでも簡単に使えるから。


 以前から異形対策にコツコツ作ってあるので、数はそこそこ揃ってる。下っ端異形兵なんて、ぱぱっとお掃除できちゃうからね!

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