15. お断りします
太陽神様の言葉に驚いてしまって、即座には反応できなかった。代わりに噛みついたのは廉君だ。
「プロミナ! その話はしないって言っただろ!」
眉をつり上げ、珍しく声を荒らげている。まあ、少年の姿だから、威圧感にはなくて、ちょっと微笑ましいくらいだけど。
太陽神様も怯みもしない。代わりに、変わらずのニコニコ顔で少し首を傾げて見せた。
「ですが、世界の維持に創世の力は必要ですよ。
「それはわかってるよ! でも……今じゃなくていいじゃない。せっかく、手にした自由なんだよ……」
太陽神様の言葉に廉君が項垂れる。
状況はわからない。ただ、この世界を維持するために僕の持っている【創世力】が必要みたいだ。廉君もそれは否定していないから、きっとそれは事実なんだと思う。
ただし、廉君は反対している。転生前、病弱で自由に生きられなかった僕のために。ありがたいことだね。
僕は前世に比べると遙かに恵まれた人生を送っている。自由に好きなことをして、どこへでも行ける。素敵な仲間もいて、毎日が楽しい。神のトップになるというのがどういうことかわからないけど、今みたいな暮らしができるかどうかはちょっと怪しいよね。だから、僕としてはそんなものになりたくはない。
だけど、それも世界が無事であってこそ。僕の力がなくては世界が維持できないというなら、協力すべきなのだと思う。
「トルト……」
いつの間にかそばにいたハルファが、僕の外套の裾をちょこんと握っていた。何だか久しぶりの仕草だ。
不安にさせちゃったかな。でも、心配することはないよ。
外套に伸ばされた手を握る。気持ちが伝わったのか、ハルファの顔にはすぐに笑顔が浮かぶ。それを確認してから、太陽神様に返答した。
「あ、お断りしますね」
我ながら軽いなぁと思うけど、まあ、問題ないよね。
太陽神様の言葉をそのまま受け取れば、今すぐ世界が消滅するような事態ではなさそうだ。しばらくは神様たちで世界を維持できるはず。あまり余裕はないって口ぶりだけど、それはあくまで神様の尺度だしね。
たぶん、人間の感覚で言えば、まだまだしばらくは大丈夫だと思う。少なくとも、僕が天寿を全うするくらいは。
「残念ですが、仕方ありませんね。うーん、時期尚早でしたか」
予想通り、切迫した状況にはないみたい。太陽神様はほんの少し眉を下げただけで、あっさりと引き下がった。とはいえ、「気が変わったら教えてくださいね」と言っているので、諦めたわけじゃなさそうだけど。
「まったく、プロミナは本当に余計なことをするね」
「余計なことって何ですか。大事なことですよ」
ぶつくさ言ってる廉君に、ゆったりと調子で言い返す太陽神様。何はともあれ、話はついたみたい。もう戻ってもいいかなと考えていたら、猫耳ガルナがちょいちょいと僕の肩をつついた。
「ついでじゃ、訓練ダンジョンについても話を通しておけ」
「え、うん。わかった」
そうだった、そうだった。僕らがラフレスまで来たのは、冒険者を鍛えるためのダンジョン作りを提案するためだった。
試練神であるガルナが、邪神と呼ばれるようになった理由。それは各地に災厄をもたらしたから。でも、それは世界を滅ぼしたかったからじゃない。やがてくる異界の神の侵攻に対抗するために人々を鍛える試練を与えたかったからだ。
明らかにやりすぎで、逆効果になってしまったけど、異界の襲撃に備えて鍛えておくという発想は悪くないと思う。致命的な危険はないけれど、冒険者の成長を促せる。そんなダンジョンがあればいいなと思うんだよね。すでに、銀勢力の侵攻は始まっているから事前に備えるって状況ではないけども。
勝手に作るのはよくない……っていうか、周知や管理の問題もあるから、ギルドの本部に相談して作ろうと思ったんだ。まあ、ラフレスに到着早々神様たちに呼び出されることになったから、まだギルドの許可をもらえてないんだけどね。
そう考えると、神様たちに話すのはまだ早い。でも、神域まで来ているわけだし話を通しておいた方が面倒はないかな。ガルナが絡んでいる以上、ラングさんやグランドマスターが反対すると思えないし。
神様たちへ話を通すのは許可を貰うというより協力して貰うため。ダンジョン作りは試練神であるガルナの権能だけど、今は神々からの罰で力を制限されているから自由には使えない。新たなダンジョンを作ったり、既存のダンジョンに手を加えるには他の神々の補助が必要なんだ。
そんなわけで、訓練ダンジョンへの協力をお願いしたのだけど、思いの外強い反応が返ってきた。
「なるほど、ダンジョンですか! 話には聞いていますよ! それなら、私が……」
「抜け駆けはよくないな、プロミナ。お前には取りまとめの役割があるだろう。ここは私が」
ノリノリで立候補しようとする太陽神様。それを却下し、自ら名乗り出る職業神様。そうはさせじと、姿の見せない神様たちも次々に声を上げた。各々好き勝手に話すので収集がつかない。
「待て待て、一斉に話すのではない! 話を聞くのじゃ」
ガルナがぶんぶん手を振って、騒ぎを収めようとする。少し落ち着いてきたところで、ニヤリと笑みを浮かべた。
「お主たちに手を煩わすわけにもいくまい。ここはひとつ、私の力の制限をとっぱらっては……」
「「「却下!」」」
「なんでじゃー!」
ガルナは、どさくさに紛れて、力の制限を無くしてもらうつもりだったみたい。でも、その結果は満場一致で却下だった。まあ、仕方ないよね。罰なんだから、もうちょっと反省しないと。
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