17. 魔道具説明会
会議室には厳つい顔のおじさんたちがずらりと並んでいる。あ、いや、前の方に座ってるおじさんの圧が凄いから目につくけど、よく見れば女性や若めの人もいるか。
とはいえ、その人たちも含めて、みんな風格があるね。さすが、冒険者ギルドの支部を任される人たちだ。
彼らは、各地のギルドマスター。グランドマスターからの招集を受けてラフレスに集まってくれたんだ。といっても、地道に歩いて集まったわけじゃないよ。ギルドマスターは緊急時に、支部と本部を行き来できる魔道具が貸し与えられているんだって。
移動先が限定されているとはいえ、とても便利な道具だね。当然ながら、その価値は高い。数を揃えるどころか、普通なら一つ手に入れるだけでも困難だ。それを支部長全員分揃えるなんて、流石は冒険者ギルド……と言いたいところだけど、組織力で集めたわけではなく、神様に授けて貰っただけみたい。
ともかく、彼らは急遽集められた。その目的は、銀の異形対策として、僕の付与魔道具を配布するためだ。配るだけなら集合する必要はないんだけどね。ローゼフさんから魔道具の説明をしてくれって要請を受けたんだ。使い方は難しくはないんだけど……まあ、万が一にも失敗しないようにってことなのかな?
というわけで、僕は今から、このやたらと迫力のある大人たちに付与魔道具の説明をしなくちゃいけない。薄情なことに、ローウェルたちはいない。やることがないからって、みんなは自由行動。僕一人で説明することになった。まあ、確かにその通りなんだけどね。
会議はローゼフさんの挨拶から始まった。
「忙しい中、集まってもらって感謝する。すでに聞いていると思うが、幾つかの支部で異界からの侵略者が確認された。ヤツら……仮に、粘銀種と呼ぶことにしようか。粘銀種は生き物に寄生する危険な存在だ。寄生された生物を殺しても、粘銀種はしぶとく生き残るので消滅させるは困難である。だが、ヤツらを消滅する手段があるとわかった」
ローゼフさんが反応を見るように言葉を切った。けれど、会議室は静寂に包まれている。小さな声すら上がらなかった。
反応がなかったわけじゃない。多くの視線が、傍らに立っている僕に集まった。彼らの目は鋭い。前列に座っているおじさんたちは特に。幼い子が見たら泣き出しちゃうレベルだね。事前にギルドマスターだと聞いてなかったら、危ない人だと思ところだった。
「なあ、ローゼフさんよ。その手段とやらは、まさかそのガキが考えたとか言うんじゃないんだろうな?」
恫喝するような声で言ったのは、この中でもトップレベルに厳つい顔のおじさんだ。喋ってる間も僕を睨んでる。どうやら、ずいぶんとご機嫌斜めみたい。
「ふざけるなよ。知っての通り、こっちは危機的状況だ。粘銀種とやらが増えて、手がつけられねぇ。冒険者にも被害が出てるんだ。そんな中呼び出されて、ガキの遊びに付き合えってか? 馬鹿にしてんのか!」
なるほど。このおじさんは、銀の異形――粘銀種の被害がある地域のギルドマスターなんだね。有効な対策がとれず焦っているってところかな。そういう人にこそ話を聞いて欲しいんだけど……困ったな、この様子じゃまともに取り合ってくれないかも知れない。
どうしようかと思っていたら、救いの手は意外なところからもたらされた。
「落ち着け、ドーソン。まずは話を聞こう」
そう言って宥めたのはおじさんの隣に座ったおじさんだ。おじさん率が高いので、個体識別が難しいよね……。
でも、あれ?
この人、どこかで見たことがあるような……?
「何言ってるんだ、マドルス! お前だって、ガキ発案の作戦のために集められたって聞いて、キレてたろうが!」
「それはそうだが……その子供なら別だ。その子を普通とは思わない方がいい。少なくとも、話くらいは聞くべきだ」
「あぁん?」
ガラの悪いおじさん――ドーソンさんが、訝しげに隣のおじさんを見る。僕も、よく観察して……何となく思い出してきた。
「もしかして、キグニルの?」
「ああ、そうだ。久しぶりだな、トルト」
曖昧な記憶を頼りに尋ねてみると、正解だったみたい。良かった。
キグニルといえば、僕が冒険者登録をした街だ。ギルドマスターのマドルスさんとはシロルの従魔登録や、黒狼騒動の件で何度か顔を合わせている。とはいえ、よく僕のことを覚えていたね。
それにしても、普通とは思わない方がいいって、凄い言い草じゃない? あの頃はそこまででもなかった……いや、そう言えばルーンブレイカーとかポイポイ出してたら、呆れられてしまったような記憶があるね。うん、そのことに触れるのはやめておこうかな。
ともかく、マドルスさんの説得もあって、ドーソンさんもひとまずは話を聞いてくれることになった。
というわけで、早速魔道具の説明に入る。と言っても、説明するようなことはほとんどないんだけど。
「これが粘銀種に対する切り札! その名も、お掃除棒です!」
心の中でばばーんという効果音を鳴らしながら、取りだしたのは浄化の付与魔道具だ。量産性を考慮して、材料はその辺りにあった木切れを使っている。二本揃えると箸にちょうどいいくらいのサイズだ。
「どんな汚れもこれ一本で、たちまち綺麗に! 使い方は簡単で、お掃除したいところに向けて“綺麗になれ”と念じるだけです。しつこい粘銀種もこれでこそぎ落とせますよ。一度で浄化できなければ、追い打ちでもう一回使ってくださいね」
以上、説明おわり!
とてもシンプルでわかりやすいと思うのだけど……何故か、全員が理解不能って顔だ。
ドーソンさんは頭を抱えている。
「な、なんだ? 俺は今、何を聞いてるんだ。普通じゃないって、こういうことなのか? 確かに普通じゃねぇ。異界からの侵略者対策のはずが、何で掃除用品の説明を聞くことになってんだ」
ローゼフさんは遠い目をしていた。
「やはり、こういう反応になるよなぁ。神々が信頼を寄せている彼が勧めるアイテムである以上、有効なのは確かだろうが……儂にはみなを説得する自信がなかった。太陽神様よ、不甲斐ない儂を許してくだされ」
マドルスさんは険しい表情で、眉間を指で押さえている。
「油断するな。油断するなよ! きっと、何かまた飛び出してくるぞ。あれがただの掃除用具なはずがない……!」
いやいや、ただの掃除用具だよ。生活魔法の〈クリーン〉がかかってるだけだし。ついでに銀のうねうねも綺麗にできるけどね!
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