19. 降ってくる声
『コレの邪気を起点とし、私の力の一部を呼び出す。私の使徒は、そうやってダンジョンを作っていたはずじゃ……』
ガルナの口調には苦々しさが滲んでいる。
「その場合、ガルナにはダンジョンが作られたことがわかるの?」
『当然じゃ。使われるのは私の力なのじゃから』
だけど、このダンジョンのことは把握できていない。つまり、似たような……しかし別の方法でダンジョン化されたってことだろう。ここに、銀化したパンドラギフトが転がっていると言うことは――……
「異界の力でダンジョン化してるってこと?」
顔を歪めてハルファが言った。スピラもローウェルも同じように嫌そうな顔をしている。たぶん、僕も。
『……まあ、そういうことじゃろうな』
ガルナから否定はなかった。それは、エルド・カルディア教団が異界の存在から力を引き出してダンジョンを作っているということに他ならない。幹部の体の一部が銀化してるって話を聞いてから嫌な予感がしてたけど、思った以上に厄介な状況だったみたいだ。
「でも、なんで教団はそんな方法を知っていたのかな?」
それが疑問だった。パンドラギフトでダンジョン化するっていうのは、アイングルナのダンジョン研究所でも検討されていたけど、大量に使っても実現できないという結論だった。本来なら、ガルナの力で増幅しなければ実現できないような手段だったはずだけど。
『教団との関わりはわからんが、異界とダンジョン作成方法とが結びついたことについては心当たりがないこともない……』
ガルナが言う心当たり、それは一人の使徒のことだった。
ガルナは、以前からセファーソンの東部――異界からの侵略者が現れた場所を気にしていたらしい。デムアドさんの前にも、何人かの使徒を送って、状況を確かめていたみたい。
数年前のことだ。状況確認のために送ったひとりの使徒が消息を絶ったらしい。僕らもそうだけど、使徒になったからといって特別に強くなるわけじゃない。魔物に襲われて死ぬことはあるし、特にガルナラーヴァの使徒は邪教徒として処罰されることもある。だから、使徒との繋がりが途絶えたからといって、ただちに危機感を覚えることはなかったそうだ。だけど――……
『思えば、そのときにはすでに、あの異形らは現れておったのかもしれん。そして、奴らは、こちらの生き物の体を乗っ取ることができる……』
つまり、ガルナは消息を絶った使徒が、銀の異形に乗っ取られたのではないかと言っているんだ。その使徒がダンジョン作成方法を知っていて、それを利用したのだと。
ひょっとしたら、その使徒がエルド・カルディア教団に合流したのかもしれない。そして、ダンジョンの力を手に入れた教団がバンデルト組にすり寄って力をつけた……?
面白くない状況に僕らはみんな黙り込んでしまった。いや、みんなじゃないか。僕らが黙ったのを話が終わったと判断したのか、バディスさんがおずおずと尋ねてきた。
「……で、結局、このダンジョンは、これだけしかないのか?」
どうも、予想外に小規模だったせいで、がっかりしているみたい。初めてのダンジョンでワクワクしてたら、魔物の一体すら出ずに最奥部に辿り着いちゃったわけだからね。気持ちはわかる。
「そうみたいですね。でも、こんな小さなダンジョンで一体何をするつもりだったんだろう?」
『作りかけなんじゃろう。その途中でゼウブロスに殺されたんじゃ。おそらくはな』
「なるほど」
用途が不明だと思ってたけど、作りかけだったというのなら納得できる。僕がうんうんと頷くと、なぜかバディスさんも一緒に頷き始めた。しかも、その顔を輝かせて。
「どうしたんですか?」
「ん? 作りかけってことは、これから完成するんだろう?」
「え? ああ、そういうことですか」
なるほど。完成を期待しているのか。
考えてみれば、ここにダンジョンを作るのは悪い考えじゃない。
エルド・カルディア教団が作るダンジョンの力で、バンデルト組の支配地の人々は豊かになった。まあ、それはバンデルト組が力をつけるためのおこぼれを貰っただけにすぎないけど。じゃあ、最初から人々のためのダンジョンを作ればどうだろうか。アルビローダの人々が豊かに暮らせるようになるんじゃないかな。豊かになれば、周辺国から無理に略奪する必要はなくなる。
元々、僕らは異形対策に、冒険者を鍛えるダンジョンを作ろうと考えていたわけだし、ここで実験的に作ってみるのはいいかもしれない。ガルナの力があれば、ダンジョンを作り替えることはできないわけじゃないだろうし。
問題は異界の力を受け継いだこのダンジョンに干渉することができるかってことだけど。
『それは、トルトが浄化すればよいじゃろう。この規模なら、おそらくはなんとかなるはずじゃ。問題は、作り替えるほうじゃな。私の力は制限されておる。力を十全に発揮するには他の神に力を借りる必要があるんじゃ』
これが、ガルナに課せられた罰みたい。自分だけじゃ、本来の力を発揮できないようになっているんだって。まあ、それは仕方がないのか。
「じゃあ、廉君を呼ぶ?」
『む……、奴か。いや、まあ仕方がないか』
和解したとはいえ、廉君とはあまり仲が良くないのか、ちょっと渋っている。けど、僕は運命神の使徒だからね。呼びかけるとしたら廉君になる。それとも、スピラに精霊神様を呼んで貰おうか。
と、思ったときだった。
『そういうことなら、私が』
空から、声が降ってきたんだ。そちらに視線を向けると、キラキラとした光とともに、緑の髪の女性がゆっくりと降りてくるところだった。たぶん、普通の人間じゃないだろうね。幽霊みたいに半分透けているから。
見たことがないけど……神様の誰か、かな?
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