バッタリ遭遇
パンドラギフトは無事入手できた。今の時間なら、山猫亭の夕食の時間に間に合いそうだ。あとは寄り道もせず真っ直ぐ帰るだけ。そう思ったんだけど……。
偶然にも見つけてしまった。
とある冒険者たちを。
鉱人の盾使いバルドッグ、弓使いの女ラベリア、痩身の短剣使いアロック、そしてリーダーで魔術士のルドヴィス。
違法奴隷として僕を買い、ダンジョンで囮にした冒険者たちだ。
柄の悪い連中だったから、ここにいてもおかしくはないけど。まさか目撃しちゃうとはなぁ。
幸い、向こうが僕に気がついている様子はない。もしかしたら、僕のことなんて覚えていないかもしれないけどね。
それにしても、改めて思う。
彼らは僕みたいな子供をダンジョンにつれていって何がしたかったんだろう。囮として使ったんだと思ってたけど、本当にそうなのかな。荷物持ちとしても大して役に立たない子供の奴隷なんて、囮として使う前に足手まといじゃない?
僕自身が少しレベルアップした今ならわかる。それなりにレベルアップした冒険者とただの子供では身体能力の差が大きすぎるんだ。囮に使うにしても、ダンジョン内を連れて歩くデメリットの方が大きい。
当たり前だけど、大人の冒険者と同じペースで歩けるわけがないから探索のペースは落ちるし、隠密行動なんていうのも無理だから魔物にだって見つかりやすい。階層によっては、広域の罠を発動させてしまうリスクだってある。
そう考えると合理性に欠ける気がするんだよね。まあ、戦えない奴隷が無力に死んでいくのを見るのが好きなだけ、っていう最低な理由かもしれないけど。
それと気になることがもう一つ。
彼らがここに来た目的。僕は記憶が戻ったばかりの混乱と奴隷として売られたショックで当時の記憶は曖昧なんだけど、僕が彼らに買われたのも、今みたいに夜で、ここみたいに人で賑わう場所だった気がする。
正直にいえば、彼らのことは憎い。
だけど、復讐したいかというとそうでもないんだよね。だって、今は十分に楽しく生活できてるから。だから、関わり合いになりたくない気持ちが強いかな。
ただ、ちょっと気になるんだよね。また僕みたいに違法奴隷を買うんじゃないか。そして、ダンジョンに連れて行って、また……。
気がつけば、僕は彼らの後をこっそりとつけていた。もし仮に、違法奴隷の取引の現場を見つけたとしても、僕にできることなんてないのにね。
予想通り、彼らの目的はやはり違法奴隷だったみたいだ。奴隷商人らしき男が連れてきたのは、僕と同じくらいの年の女の子。背中に一対の白い翼があって、まるで天使みたいな姿だ。翼人……なんだろうか。そんな種族がいるって話は聞いたことがある。見るのはこれが初めてだけど。
僕はただ彼女が売られていくのを見ていることしかできないんだろうか。いや、それはそうだろう。ここで僕が出ていっても即座に取り押さえられ、殺されるか違法奴隷に逆戻りするだけだ。それはわかっている。だけど――
思わず体が動きそうになったときだった。
やや遠くからざわめきが起きたんだ。
ざわめきは止むこともなく、一気に広がっていった。すぐに怒号が混じりはじめ、中には慌てて駆け出す人もいる。
「衛兵の臨検さ。違法品を取り締まるための、な」
不意に背後から声をかける。振り返ると、そこにはドルガさんが立っていた。
「ドルガさん!? なんでこんなところに?」
「ま、臨検の手伝いだ。前もって潜入しておくなら、冒険者のほうが都合がいいだろ?」
なるほどね。確かに冒険者なら、闇市の会場にいても違和感はない。どういう伝手なのかよくわからないけど、衛兵隊に協力を要請されたみたいだね。闇市の開催日時や場所を知ってたのもそういう理由かな。
「おっと、話している場合じゃないな。奴らが逃げるぞ」
そうだった!
突然の騒ぎでルドヴィスたちのことを忘れてた!
視線をルドヴィスたちに戻すと、ドルガさんの指摘通り、状況を察して逃げようとしているところだった。ルドヴィスが翼人の女の子に何か指示を出そうとしている。
僕は咄嗟に収納リングから石を取り出し、それをルドヴィスに向かって思いっきり投げた。僕の投げた石は狙い通りにルドヴィスのこめかみ付近にぶつかる。衝撃で奴が少しふらついた。
「やるなぁ。俺も少しは働かないとな」
そういうとドルガさんが猛スピードで駆け出した。あっという間にルドヴィスの目前に迫る。ドルガさんの右腕が動いた。逆手に握った短剣の一撃だ。
だが、それはバルドッグの盾によって防がれてしまった。短剣使いのアロックも近くで様子を伺っている。ラベリアの姿が見えないけど、あいつは弓使いだ。狙撃のチャンスをどこかで伺っているに違いない。
多勢に無勢だ。流石のドルガさんも四人が相手では劣勢であることは否めない。
だけど、その状況にもすぐに変化が訪れた。衛兵たちが突入してきたのだ。これで数的不利はルドヴィスたちの方になる。
それを悟ったのだろう。ルドヴィスたちは即座に退いていった。翼人の女の子は連れて行かれずに済んだようだ。
「トルト?」
良かった良かったと安心していたら、最近聞き慣れてきた声が僕の名前を呼んだ。振り向くと、そこにはレイがいた。ミルとサリィもいる。気がつけば『栄光の階』が闇市で大集合だ。
――――――――――――――――――――――
20220415
読んでくださってありがとうございます!
昨日はどういうわけかpvが急増し、
フォロワーさんの数も倍増しました!
おかげで週間の総合ランキングにも
ちょこっと浮上したようです。
読んでくださるみなさんのおかげです!
今後もおもしろいと思っていただけるように
精進しています!
これからもよろしくお願いします!
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