45. たぶん大丈夫

 アイスゴーレムがいなくなったことで、石鎧たちに余裕が戻ってきたみたい。これまでの攻撃でボロボロだった体はすぐに元に戻ってしまった。


『ぬはは! 存外に手強い!』

『最早、油断はせぬ。全力で叩き潰すのみ』


 言うなり、ドムダンとダムロスは雄叫びを上げた。


『見ろ! アイツら、デカくなってるぞ!』


 シロルが石鎧たちの変化を指摘する。もう十分に大きいせいで変化がわかりにくいけど、土を吸い上げてますます巨大化しているみたい。


 シンプルだけど効果的な強化だ。大質量になると、文字通り攻撃は重くなる。どれだけ巨大化するのかはわからないけど、放置すれば手がつけられなくなりそうだ。


「不味い。下手をすれば街が壊滅するぞ!」


 ローウェルが叫ぶ。それも頭痛の種だ。石鎧たちは、すでにそこらの建物よりも巨大化している。さらに大きくなれば、拳ひとつで都市壊滅なんてこともあり得るかもしれない。


「トルト、何か策を考えてくれ! 俺は時間を稼ぐ」


 そう言うとローウェルは石鎧に猛然と斬りかかった。少しでもダメージを与えようってことだろう。修復に力を使えば、損傷を与えれば巨大化を妨げることができるからね。


「ローウェルの旦那に続け!」

『僕もやるぞ!』


 プチゴーレムズとシロルも石鎧へと突撃していった。プチゴーレズはともかく巨大化したシロルの攻撃力は凄まじいはず。体当たりと雷撃で、石の鎧をガリガリと削っていく。


 けど、それでも石鎧たちの巨大化は止められないみたいだ。少しずつ、ヤツらの体が大きくなっていく。


「トルト、どうする?」

「また、氷を作ろうか?」


 僕のそばにハルファとスピラが寄ってきた。マナ切れなのか二人とも顔色が悪い。スピラは自然回復するだろうけど、ハルファにはマナ回復ポーションを手渡しておこう。


 さて、どうしようか。今のところ、じわじわ削っていくくらいしか対策が思いつかない。とはいえ、ショックボイスとアイスゴーレムを投入しても削りきれるかどうか。マナの消耗が激しいから、長期戦になると厳しい。


『瑠兎』


 考えていると、いつの間にか目の前にホログラムみたいな廉君がいた。ガルナも一緒だ。


「どうしたの?」


 尋ねると、ガルナがぴょんと僕の肩に飛び乗った。


『私が協力を願ったのじゃ。あやつらの言葉が真実ならば、神々にとっても無視できない事態だ』

『そういうこと。まあ、アイツらは侵略だから、もともと無視なんてできないけど、脅威度がさらに上がるってわけ』


 廉君が渋い顔で頷く。


 石鎧たちが言う“世界の理を支配する”という力。それが本当なら、確かに神様たちのような能力だ。神様たちにとっては自分たちの存在を揺るがしかねない事態なんだろうね。


『率直に言えば、アイツらの言うとおり、銀の異形の大本……異界の神はこの世界に干渉する力を一部とはいえ手にしてしまったみたい』


 今は神様たちが総出で、銀の神から支配権を取り戻そうとしているところらしい。だけど、一度奪われた支配権を取り戻すのは簡単ではないんだって。現状では、さらなる侵蝕を防ぐのが手一杯みたい。


『特に大地への干渉力が大きく奪われているようじゃ。アーシェラスカの眷属が一部取り込まれてしまったからの』


 ガルナが補足する。


 なるほど。石鎧たちが土を自由に操れるのは、大地神様の力を取り込んだかららしい。


「アイスゴーレムも砕かれたけど、それは何で?」

『土だけが飛び抜けてるけど、奪われた支配権は広い範囲にわたっているんだ。どうも、ヤツら銀化の力で少しずつこの世界に侵蝕しているみたいなんだよね』


 本当に困っちゃうよ、と廉君が軽い調子で呟く。いや、そんな呑気に構えている場合じゃない気がするけど。


 この世界で銀の異形たちが支配権を奪うにつれて、僕らには抵抗する手段がなくなっていく。今だって、僕のゴーレムは無害化されてしまった。攻撃手段はそれだけじゃないけど、巨大な相手には巨大なゴーレムで対抗するのが効果的だ。それが封じられたのは結構痛い。


「どうしよう。アイツらの修復能力を越えるほどのダメージを与えるなら、やっぱりゴーレムが一番なんだけど……」


 最終的に破壊されるとはいえ、ヤツらもアイスゴーレムには手間取っていた。効果的なのは間違いない。だけど、それでも石鎧を削りきるには至らなかった。何か、アイツらにも無効化できない素材があればいいんだけど……。


『ああ、それなら別に難しくないと思うよ。瑠兎なら』


 本気で困ってるのに、廉君がそんなことを言った。やっぱり軽い調子だ。状況のわりに焦りがないと思ったら、何か考えがあるみたい。


「どういうこと?」

『アイツらには、この世界の物質を操る力がある。それなら、この世界のものじゃない素材を使えばいいんだよ』

「……え?」


 言っている意味がよくわからない。


「この世界のものじゃない素材? そんなもの、僕、持ってないよ?」

『何言ってるんだよ。パンドラギフトでアパートみたいなの出してたじゃない』

「え? あれって、この世界の物質じゃないの?」


 見た目はともかく、素材は特別じゃないと思っていたのだけど。


 戸惑う僕に、ガルナが教えてくれる。


『あの建物はともかく、お主にはこの世界の理から外れたモノを生み出す力があるのは確かじゃ。例の調味料が良い例じゃな。あれはやはり、この世界のいずれの神の影響も受けていなかった』


 例の調味料。クリーングリーンカレーを作るときに使った魔法の調味料だね。たしか、新種のアイテムだって騒いでたっけ。よくわからないけど、あれはつまり、この世界の理の外にあるアイテムだっていうことらしい。


 あれはパンドラギフトから出てきたアイテムだから、僕が生み出したなんて言われてもピンとこないけど……要は、そういうものをパンドラギフトから出せばいいってことだね。


 よし、そういうことなら早速やってみよう!

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