箱 in 箱
そういえば、ハルファは運命神様の巫女とか言われてたっけ。どういうことなんだろうと思ったら、こんな風に神託とか授かる役割なのかもしれない。
今回はしっかりとした神託を授かったってことは、逆にいえば今までのトラブルは運命神様の関与はなかったってことかな? 違うか。シロルはパンドラギフト以外に干渉はないって言ってたから、パンドラギフトを介した干渉はあったわけだ。とはいえ、パンドラギフトでアイテムが出たからって想定通りに行動するかどうかなんてわからないんだから、ずいぶんと緩い干渉だなぁ。いや、干渉されたいわけじゃないんだけどね。
さて、肝心の神託はというと――
「この近くにガルナラーヴァの干渉を受けたダンジョンがあるから壊して欲しいんだって。ダンジョンが壊れたら、ダンジョンの魔物も一緒に消えるって言ってたよ」
ハルファが友達からの噂話のように話してくれた。
あれ、神託だったんだよね?
もっと厳かな感じなのかと思ったけど……?
どうやら、運命神様はやたらフレンドリーな神様みたい。神託を授かっていた時間はごく短い間だったけど、ハルファの主観ではそれなりに長い間、神様と対面していたようだ。神託というと一方的に言葉を授かるイメージだけど、ハルファが言うには神様の家に招待してもらってそこでお喋りをしていたらしい。
「私が無事だってことは、お母さんたちには伝えてあるみたい」
おお、そうなのか!
さすがは神様だね。翼人の郷ともやり取りできるのか。
「それなら、ハルファの故郷の場所もわかるんじゃない?」
「ああ、うん。だけど、せっかくだから、このまま旅をしてみたらって。どうしても見つけられなかったら教えてくれるって言ってたけど……」
そう言って僕を上目遣いで見るハルファ。
なんだろう? 一旦、郷に戻った方がいいって言われると思ったのかな?
ほんのちょっとそう思わないでもない。無事だって言われても、家族からすれば実際にあって確認したいだろうからね。でも、神様からの提案だし、ハルファが納得しているなら僕としては反対するつもりはない。
……いや、違うかな。
本音を言えば、このまま旅を続けられるならその方がいいと思っている。郷に戻ったらハルファとお別れになってしまうかもしれない。ハルファ自身は誘ったらついてきてくれそうだけど、彼女の両親に反対される可能性はあるからね。
「そっか。それなら、まだハルファと一緒に旅を続けられるんだね」
「うん!」
ハルファがニッコリと笑って頷いた。
翼人の郷を探す旅は続くけど、今までと違って焦る必要はない。純粋に旅を楽しめばいいと思えば、ずいぶんと気が楽になるね。あとは、スピラの薬さえ用意できれば完璧だ。
そのためにも、運命神様の要望を処理しなければならない。
ダンジョンの位置についてはハルファがわかるみたい。規模はごく小さく、核も隠されていないような急造ダンジョンなので攻略は難しくないってことらしいんだけど……問題はキラーエイプたちをどう躱してダンジョンへと入るか、だよね。
道案内としてハルファは必要だけど、キラーエイプたちに見つからないように進むのはシャドウハイディングを使った僕くらいにしかできない。
さて、どうしたものかと考えて、編み出された解決策が――おんぶ作戦だ!
いや、作戦名そのままなんだけどね。
僕がハルファを背負った状態でシャドウハイディングを使うと、ハルファも含めて存在感が希薄になるみたいなんだ。ちなみに手を繋いだ状態じゃ駄目だった。効果範囲が狭いってことなのかな。背負ったら装備品扱いになるとかじゃないよね?
ともかく、どうにか隠密行動できそうなので、おんぶ作戦を決行することになった。冒険者になって体力も筋力も増えたので、ハルファを背負った状態でも平常時とほぼ変わらずに動ける。とはいえ、移動はあくまで慎重に。物音を立てるとシャドウハイディングが解けてしまうからね。
周囲を徘徊している猿たちの目をかいくぐり僕たちは進む。ときおり、ハルファが僕の耳を引っ張るのが方向修正の合図だ。シャドウハイディングを維持するためにも声を発することはできないからね。引っ張られた耳の方向に向きを変えることで、確実にダンジョンへと向かうことができるんだ。耳は痛いけどね……。
ハルファの誘導に従ってたどり着いたのは、山肌にぽっかりとあいた洞窟。ハルファの反応からも、この洞窟がダンジョンで間違いなさそうだ。光源がないので中は真っ暗だけど、さすがに灯りをつけるとキラーエイプたちに気付かれてしまう。危険かもしれないけど、灯りなしで進むしかない。事前に暗視能力を付与するナイトヴィジョンをかけておくべきだったなぁ。
洞窟に入ってしばらくの間じっとしていると、目が慣れてきて内部の全貌がわかった。そう全貌が、だ。ここは洞窟というよりも、巣穴と言った方がいいかもしれない。内部の全長が10メートルもない。加えて天井が低い。僕たちは立って歩けるけど、ローウェルは無理だね。おんぶした状態だとハルファも頭を打ちそうだったので、今は下ろしている。
そりゃあ、こんなダンジョンならキラーエイプたちも外に出たくなるよ。
「ハルファ、核はどこ?」
僕は小声で尋ねた。シャドウハイディングはハルファを下ろした時点ですでに解除されているから、無言でいる必要はないからね。
「えっと……、これだね」
ハルファが指し示したのは、何かの頭蓋骨。これが核なのか。本当になんでもありだね。貫きの短剣で突き刺すとほとんど抵抗もなく、核は真っ二つに割れて消えた。これで目的は果たせたのかな?
しばらく様子を見ていると、洞窟が揺れ始めた。崩壊の予兆だ。逃げないといけない。
だというのに、このタイミングで部屋の隅に宝箱を見つけてしまった!
ダンジョンクリアの報酬なのか、それとも暗くて気付かなかったのか。どちらかわからないけど、せっかくの宝箱を逃すなんてもったいない!
「トルト、早く逃げないと!」
「宝箱、見つけたんだ! ハルファは先に行ってて!」
「えぇ!? もうっ、早くしてね!」
ハルファには先に逃げもらおうと思ったんだけど、どうやら僕を待つみたいだ。だったら、なおさら急がないと。
うーん、暗くてよく見えない。でも、ディテクト・マジックに反応があるから魔法罠だね。
だとしたら、話は簡単。ルーンブレイカーをちょこんとぶつけるだけで罠が解除できるんだ。ルーンブレイカー様々だね! あとは解錠だけ。宝箱の解錠はお手のものだ。暗くたって手に伝わる感触だけで解錠できるくらいには熟達している。ほら、開いた!
宝箱の中に入っていたのは、ひとつの箱だった。もちろん、マトリョーシカというわけじゃないよ。鑑定するまでもなく見覚えのあるこの箱は――パンドラギフトだ!
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