嘘か誠か
気がつけば洞窟内はぐらぐらと揺れが多くなっている。これはまずいかもしれない。パンドラギフトを回収して大急ぎで洞窟を脱出すると、ドドンと大きな音がして背後にあるはずの洞窟が完全に消滅していた。
危なかった……!
ギリギリだったみたい。もう少し罠解除に手間取っていたら、ぺしゃんこになっていたかもしれない。いや、明らかに洞窟がなくなっているから埋まっているというよりは別次元にとらわれちゃうのかな? なんにせよ無事ではすまなかっただろう。
「もう、トルト! 危なかったじゃない!」
「ごめん。宝箱があったからつい……」
ハルファに叱られてしまった。まあ、これは仕方がないよね。
言い訳になるけど、遺跡ダンジョンの崩壊時間を考えたら宝箱を開ける時間くらいは十分にあると思ったんだよね。でも、想定よりも崩壊が早かったんだ。もしかしたら、崩壊までの時間はダンジョンの大きさに比例するのかも。
ちょっと油断しすぎてたね。でも、危険を冒したかいはあったと思う。なにせ久々にパンドラギフトが手に入ったからね! さてさて、何が出るのかな?
おっと、ひとまずはローウェルたちと合流しないと。周囲にキラーエイプの姿はない。どうやら、運命神様の言ったとおり、ダンジョンの崩壊とともに消滅したみたいだ。
『おーい、トルト!』
ハルファと一緒にもとの場所に引き返していると、向こうからシロルを先頭にローウェルとパールさんもやってきた。大猿の消滅を確認できたから、シロルたちも僕たちと合流しようと動いていたみたいだ。
「ダンジョンの方は片付いたんだな?」
「うん。あとは悠久の夢見花を見つけるだけだね」
「ああ、何事もなければいいんだがな……」
ローウェルの懸念はもっともだよね。ダンジョンからキラーエイプがたくさん這い出してこの辺りを占拠していたんだ。何らかの悪影響があったとしてもおかしくはない。とはいえ、さっき手に入れたパンドラギフトがあるから、僕としては気が楽だ。
と思ってたんだけど――
『おお、そうだトルト。パンドラギフトが手に入ったんだろ? 開けてみるといいぞ!』
いきなり、シロルがそんなことを言い出した。
うーん、もしものときのために取っておきたいんだけど。いや、シロルがそう言うってことは、今がそのときなのかな?
僕は悩みながらも、収納リングからパンドラギフトを取り出した。それをパールさんがぎょっとした表情で見ている。
「はあ!? 正気かい? いくら運がいいと言ったって、博打にもほどがあるよ。悪いことは言わないから止めときな?」
パールさんの反応は至極真っ当。彼女には僕のスキルについて話していないんだから、無理もないね。一方、ローウェルには話をしておいたから、比較的冷静だ。もちろん、話だけ聞いて信じるかどうかは別なんだけどね。
『トルトなら大丈夫だぞ! というかラムヤーダス様の干渉があったから、問題ないぞ!』
「またそれかい……。あんたたちが運命神と関係があるのは間違いないみたいだけど……」
パールさんが胡乱なものを見る目で僕たちを見ている!
まあ、いきなり運命神様から神託があったとか、パンドラギフトに干渉があったとか聞かされても戸惑うよね。でも、その神託に従った結果、猿たちも消滅したわけだから、信じ切れないまでも疑っているわけではなさそうだ。
一応、僕のスキル【運命神の微笑み】について説明すると、妙な唸り声を上げながらも納得してくれたみたいだ。代わりに、そのスキルさえあれば禁忌とされている調合ももしかしたら……なんて呟きが聞こえてきた気がするけど、聞こえていないことにしておく。
何はともあれ、パンドラギフトを開けてみないと始まらない。干渉があったというからには、悠久の夢見花をどうにかしてくれるアイテムが出てくるのかな?
いつものように箱を開けると、出現したのは何かの小瓶と紙切れ……?
小瓶は何となく貴重品っぽい雰囲気。中身がちょっと不思議で、液体とも違う何かよくわからないものが充填されている。実際に光っているわけじゃないんだけど、明るく温かみのある何かがそこにあると感じられる。そんな不思議な小瓶だ。たぶん、これが今回の状況を打開するアイテムなんじゃないかな?
では、この紙切れはなんだろうか。見た目は二つ折にされた普通の紙切れ。とりあえず、開いてみると、紙切れにはなにやら文字が書いてある。
一行目に記されていたのは――
『転生したら運命神だった件について』
……えええぇぇぇ!? 運命神様って、もしかして転生者!?
なにこれ、本当なの? それともイタズラなの?
どういうこと!
正直、運命神様が転生者だとしたら、腑に落ちることもあるんだよね。使命もないのに色々と手助けしてくれるのって何でかなって思ってはいたんだ。パンドラギフトのアイテムを操作して僕の行動を誘導しているのかとも思ったけど、それも偶然性が高すぎる気はしていた。でも、ひょっとしたら、ただ単純に僕を助けてくれていただけなのかもしれない。前世で同郷だったよしみとでも言うのかな。そういう懐かしさが理由じゃないかって気がしてきた。それに、ハルファたちの故郷の食文化がやけに地球に似ているのって、運命神様の影響なんじゃない?
いや、でも運命神に転生したのっていつの話なのかな。少なくとも数百年前には、運命神という存在はこの世界にいたはずだ。でも、時間の流れが違ったり、歪んだりしている可能性はあるか。
……もう、わからないことだらけだ!
残念ながら転生にまつわる内容は最初の一行だけで、あとは一緒に入っていた小瓶の説明だった。何でも、土地の精霊気を高める薬剤みたい。
悠久の夢見花は、土地に宿った精霊気を吸い上げて、宿した力を花として咲かせるという特性を持っているようだ。精霊気とは精霊の力の源。自然が生み出すエネルギーのようなもの……らしい。
一方で、ダンジョンのモンスターは邪気と呼ばれる力で構成されているみたい。邪気はガルナラーヴァが統べるエネルギー。精霊気を減衰させる性質があるらしい。
ダンジョンモンスターに占拠されていたこの場所は、精霊気が荒れている状態なんだって。それほど長い間侵食されていたわけじゃないから影響は一時的なものだけど、悠久の夢見花の品質には悪影響を及ぼしているようだ。だけど、この『精霊気の封瓶』を使えば、土地の精霊気をたちどころに回復させることができるらしい。
うん、きちんとした対策アイテムだ。こんな風に状況に応じたアイテムを与えてくれるのはありがたい。だけど、手紙の最初の一行目が衝撃的すぎて混乱しちゃってるよ。
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