ガロンドへの帰還

 運命神様が転生者という可能性が出てきて混乱してるけど、考えてわかるものじゃないからとりあえず保留しておく。ちゃんと知らせる気があれば、運命神様から何らかのアクションがあるだろうしね。


 とにかく、今優先するべきなのは悠久の夢見花だ。パールさんの記憶を頼りに探してみたら、花が咲いているものが見つかった。白い花弁がときおり淡く煌めいて、幻想的な雰囲気を作り出している。


 僕が見た感じは綺麗に咲いているように見えるけど、パールさんがいうにはちょっと元気がないらしい。なので、精霊気の封瓶の出番だ。使い方は簡単、封を解いて放置しておくだけだ。精霊気が馴染むまでには少し時間がかかるので、ミランダ山で一晩を過ごす必要がある。かなり冷えるけど、パールさんがテントを温風魔法で暖めてくれたので、意外と快適に過ごせた。


「よぉし。これなら大丈夫そうだね。採取は私の方でやっとくから、あんたたちはそこら中に転がってる魔石でも拾っておきな」


 翌朝になると、精霊気が戻って悠久の夢見花も採取できるようになったみたい。採取はパールさんに任せて、僕たちは魔石拾いを頑張った。もちろん、キラーエイプの魔石だ。ダンジョンが崩壊したときに消滅した魔物の分も魔石が残っているみたいで、本当に大量の魔石が石ころみたいに転がってるんだ。一体、どれだけのキラーエイプがいたんだろうか……。魔石の他には毛皮もそれなりに手に入った。冒険者ギルドで引き取ってもらえるなら、それなりの収入にはなるかもしれないけど……、どうなんだろう。


「さてと、目的の花はちゃんと採取できたよ」

「そうか。これで後は竜の素材だけだな」


 パールさんによる採取も無事終わった。ローウェルの言うとおり、あとは竜の素材が揃えばスピラの薬が作れる。そのためにも、料理コンテストを頑張らなきゃね。


 帰りにはちょっと寄り道をして貰った。王都への帰路からは少し外れるんだけど、酪農場があるんだよね。そこで牛乳や卵が買えるんだ。牛乳は王都でも市場で並んでいるのを見たことがない。だから、直接買うのが一番だ。卵は市場で並んでいるけど、量は買えないからね。ハンバーグ作りに卵は必要だから確保しておきたい。実は、チーズも作っているらしいんだけど、基本的には卸す先が決まっているみたいで、買うことはできなかった。


 ちなみに、牛乳は前世と同様に普通の牛のものだけど、卵は鶏とは違う大きめの鳥の卵だ。大きいけど大人しくて家畜には向いているみたい。鶏みたいにたくさん卵を産むことはないけど、代わりに卵が大きい。ひとつで鶏卵五個分くらいはありそうだ。


 そこから王都に戻りながら魔物を狩る。狙い目はラッシュブルという牛型の魔物。今はオークの謎肉で代用してるけど、やっぱりハンバーグといえば牛でしょ。オークの謎肉だと素材が切れたときに、簡単に取りに行くのが難しいからね。近場で狩れる魔物の方が便利なんだ。


 食材については、だいたいこんな感じで準備できたかな。そんな感じで寄り道をしながら王都まで戻ってきた。王都を発ってから二週間近く経っているから、色々とやることがたまっている。





 ミランダ山までの遠征の翌日。

 僕はザルダン親方の工房にミンサーの試作機を見せてもらいにきた。


「おう、ばっちりだぜ!」


 親方がそう言って見せてくれたのは、試作機一号、二号……たくさん!


「なんで、こんなにたくさん作ったんですか……?」

「そりゃあ、もちろん、うまいテリヤキバーガーを食べるために決まってんだろ? この試作機がクオリティを左右するとなりゃあ、張り切りもする。弟子たちも競って性能を高めたから、いい修行にもなったな!」


 ザルダン親方が大きな声で笑う。

 僕としてはありがたいんだけど、工房としては採算取れているんだろうか? まあ、今回に関してはこの試行錯誤は工房のためにもなるんじゃないかと思ってるんだけど。もし、想定通りにテリヤキバーガーに人気が出たら、ギルドにレシピを売却するつもりなんだ。すると当然、ミンサーが必要になってくる。その場合、僕はザルダン工房に製作委託するつもりだ。


 さらに、もし親方が武具コンテストで竜の鱗を獲得したら、ミンサーの製造販売権と引き替えに譲って貰うつもりだ。親方はテリヤキバーガー100個でいいと言っていたけどさすがにね……。ミンサーの製造販売権は将来的には竜の鱗以上の利益をたたき出す見込みだから、ちょうどいいくらいの取引なんじゃないかと思う。まあ、全てはテリヤキバーガーの人気が出るかどうかに掛かっているけどね。


「どれがオススメですか?」

「そうだなぁ。コンテストで大量に売るつもりなら、これだな」


 親方が紹介してくれたのは、大型のミンサー。なんと魔道具になってた! 魔石をセットしておけば、肉を自動的にひき肉にしてくれる優れものだ。場所を取るのが難点だけど、あらかじめ大量にひき肉を作っておいて、収納リングに仕舞っておけばいいので、僕にとっては問題じゃない。


 結局、その大型のミンサーと、小型の手回しミンサーを受け取った。


「それじゃあ、報酬のテリヤキバーガーを頼むぜ!」

「ああ……、そのことですけど……」


 ウキウキの親方には悪いけど、いきなりは用意できない。まずは、このミンサーを使ってひき肉を用意しないといけないわけだしね。だから、工房の方から、ちらちらこちらを見ている職人さんたちをなだめて欲しい。


 ひとまず、テリヤキバーガーの引き渡しは一人2個の30個で手を打って貰った。それとは別に報酬を支払う。親方たちの見積もりでは頼りにならないので、事前にルランナさんに妥当な金額を聞いておいた。とはいえ、基本的には職人と依頼者との間の交渉になるから定まった金額があるわけではないみたいだ。優秀な職人のオーダーメイドとなると、やはりそれなりに高額になる傾向はあるそうだけど。今回は将来的に製造委託することも踏まえて、金貨1枚ほどになった。


 親方には、経緯なども含めて説明したんだけど――


「お、そうなのか? まあ、そういうことなら受け取っておくぜ! それより、テリヤキバーガーはなるべく早く頼むな!」


 と、あまり興味がなさそうだった。絶対に会計を担当する人を雇った方がいいと思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る