筋肉焼き再び

『トルト、タコがもう少しで無くなるぞ!』

「もう? 収納リングにも在庫はないよ。たこ焼き屋台はおしまいかな」

『なんだとぉ!? じゃあ僕の食べる分がないじゃないか! すぐに取りに行くぞ』

「ああ、うん。また今度ね」


 巨人が大暴れしたあの日から、今日で一週間が経つ。

 被害範囲はそれほど広くはないけど、巨人が踏み荒らした場所はまさに壊滅状態だった。こういう非常時に対応してくれるはずの導師会は何故か沈黙して動かない。アイングルナの街は大きな不安に包まれていた。


 それをどうにかしようと活動を始めたのがグルナ戦士団の人達だ。彼等は街の人達を励ますためと称して筋肉焼き屋台を再開した。それをきっかけに筋肉焼きブームが再燃。屋台が設置されている広間は連日お祭り騒ぎのようになっている。もしかしたらこの騒ぎは街の人達が不安から逃れるための逃避行動なのかもしれない。だけど、ふさぎ込んで何もできなくなるよりはいいんじゃないかと思う。


 筋肉焼きの人気に対抗心を燃やしたのがシロルだ。元祖筋肉焼きの真価を見せてやると一人で盛り上がっている。しかも、自分で作るんじゃなくて、僕に作らせてるし。まあ、みんなも手伝ってくれるし、楽しいからいいんだけどね。


 僕の作るたこ焼きはすぐに人気が出て、今では一番人気の筋肉焼き屋台となっている。それはありがたいことなんだけど、この手の料理の総称が筋肉焼きに定着していることはちょっぴり気に食わない。なんでこんなことになってしまったんだ……。


「あいかわらず、盛況だニャ~」

「ラーチェさん! お疲れ様です」

「お疲れさんだニャ」


 タコも切れるし、そろそろお店を閉めようかというところで、ふらりとラーチェさんがやってきた。ラーチェさんは少し疲れた様子で屋台裏に回ると、そこに置いてあったたこ焼きを食べ始める。


『なぁ!? 何で勝手に食べてるんだ! 僕のだぞ!』

「そうだと思ったから食べてるニャ。うまいニャ~」

『うわぁ、やめろぉ!』


 それはいつの間にか、シロルが自分用に確保したものだったらしい。二人はぎゃあぎゃあ言いながら、たこ焼きを奪い合っている。


「ラーチェさん、お仕事はいいんですか?」

「書類仕事ならレイモンに任せてるニャ。アタシは書類仕事から解放されるし、バッフィーも仕事の効率が上がって喜んでいるニャ。良いことづくめだニャ」


 完全にレイモンさんの意志が無視されているけどね。ただ、ラーチェさんも遊んでいたというわけではないみたい。


「ゴドフィーの尋問をしてきたニャ。まったく話が通じないから大変ニャ」


 巨人化していたゴドフィーは少しだけ衰弱していたけど命に別状はないみたいだ。今は冒険者ギルドで拘束されている。どうやら、彼は特殊個体によって洗脳されたわけではなく、正体を隠していた邪教徒だったみたい。クリーンで浄化してもガルナラーヴァへの信奉はかわらなかった。


「特殊個体を使って邪教の信奉者を増やすのまではガルナラーヴァの指示だったみたいだニャ。だけど、そのあとトルトの命を狙ったのは独断だったようニャ。お前に色々と邪魔されて自棄やけになったっぽいニャ」

「そうですか」


 まあ、それはそうなんじゃないかと思っていた。世界に試練をなんて行っているわりに、どう考えても僕たち個人への直接的な攻撃が多かったものね。まあ、邪神と運命神は真っ向から対立しているわけだし、それは仕方がないことだ。


「まあ、これでゴドフィーの扱いが失踪者じゃなくて造反者になるニャ。さすがにギルド本部も、正式なギルドマスターを派遣してくるはずニャ~。そうなったら、ようやくアタシもお役御免ニャ」


 ラーチェさんはあくまで臨時ギルドマスター。ゴドフィーが失踪という形で不在になったので、後任人事を保留していたけれど、今回のことで後任が決まるとラーチェさんは嬉しそうだ。


「そういえばギルド本部って、どこにあるんですか?」


 冒険者ギルドは国を超えた大規模な武力組織だ。あんまり気にしていなかったけど、それを統括する本部が一国家に所属していたら、国家間の力関係がめちゃくちゃになりそうなものだけど……。


「本部は神界にあるらしいニャ。アタシも詳しいことは知らんニャ」


 神界!?

 冒険者ギルドって、神様関連の組織だったの?


 ラーチェさんの話によると、運営自体は普通に人間がやっているみたい。だけど、一国に肩入れしたりしないように、上層部たちは神の見守る神界で仕事をしているんだとか。抑止力としては非常に強力だね。なんだかプレッシャーが大きそうだけど。


 本部自体は神界にあるけど、そこに至るためのゲートは大陸中央の中立国家ラフレスにあるみたい。


「へえ、そんな国があるんですね。いつか行ってみたいです」

「ラフレスにかニャ? 話に聞く限りあんまり面白いところじゃなさそうニャ。それよりも浮遊都市だとか面白そうニャ」


 それからしばらく、ラーチェさんが行ってみたい場所の話を聞いて過ごした。ラーチェさんはほとんどアイングルナから出たことがないらしいけど、余所から来る冒険者たちから話を聞いているみたいだ。おかげで、色々と面白い話が聞けた。アイングルナでの騒動も一息ついたみたいだし、そろそろ違う国を見てみるのも面白いかも知れないな。

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