8. キラキラしてる
「うーん。どうしよう」
変異魔石から作ったステータス向上薬の前で悩む。
前回は僕が使ったから、今回は他のメンバーに譲ろうと思ったんだよ。だけど、みんな口を揃えて僕が使えって言うんだ。せっかくのパワーアップチャンスなのに、あまり興味がないみたい。
うんうん唸ってると、そばで丸くなっていたシロルがのそりと頭を上げた。くわぁと大きな欠伸をすると、呆れた目で僕を見る。
『まだ悩んでるのか? さっさと使えばいいと思うぞ?』
「でも、貴重なアイテムだからね。僕が独り占めするわけにもいかないよ」
『そういう不思議アイテムは、トルトの担当って、みんな言ってたぞ!』
「ああ、うん」
そうなんだよね。ハルファなんか「私たちが使っても面白い結果にはならないから、トルトが使うべきだよ!」って言ってた。別に面白さは求めてないんだけどなぁ。
『貴重って言っても、二個目だぞ。それなら、きっと三個目もあるんじゃないのか?』
「そう言われれば、そうかも」
二度あることは三度あるって言うしね。変異魔石さえあれば、もう一度作ることはできる。そう考えると、また手に入れる機会もある気がするね。
まあ、みんなが使わないっていうなら僕が使うしかないんだけど。収納リングで眠らせておくのはもったいないから。僕が新たな能力を獲得したら、今以上にみんなを助けることができるかもしれない。そう思って、僕が使うことにしよう。
そうと決まれば、善は急げ。向上薬の蓋をきゅぽんと開けて、勢いよく
『どうなんだ? 新しい料理は作れそうか?』
わくわくとした表情でシロルが僕を見上げる。やけに勧めてくるなぁと思ったら、そんなことを考えていたの?
「ちょっと待ってね」
鑑定リングでステータスを確認してみるけど、ぱっと見た限り特性に変化はない。
「……あれ? 何も変わってない?」
『そうなのか? ん……んんん? のわぁ!? トルト、いったいどうしたんだ!?』
「え、何が?」
首を傾げる僕。一緒になって首を傾げていたシロルが急に素っ頓狂な声を上げた。
『絶対、何か変わってるぞ。なんか、こう……キラキラしてるぞ!』
「キラキラ……?」
『もう一回鑑定して見るんだ! もう一回だ!』
シロルに言われて、もう一度鑑定リングで自分を覗いてみる。表示されたステータスに特におかしなところは……あっ。
「創造力が創世力に変わってるね」
『おお! それは……なんだ?』
「さぁ?」
正直、よくわからない。特性の説明を見ても、創造力とあまり違いがないように思える。
『むぅ。たぶん、トルトがキラキラしてるのと関係あると思うんだけどなぁ』
「そのキラキラって何なの?」
『キラキラはキラキラだぞ。あれだな、ラムヤーダス様みたいな感じだ!』
廉君みたいな感じ? なんだろう、全然意味がわからないけど。
とりあえず、みんなにも報告しておこうと思って、部屋を出る。ちょうど、全員マジックハウスにいるみたい。リビングで経緯を話すと、ハルファとスピラは首を傾げた。
「特性が変化したんだ。でも、キラキラって何かな。スピラちゃん、わかる?」
「うーん、特に見た目は変わってない気がするけど……」
ローウェルやプチゴーレムズも同じ反応だ。
『ぬぅ? こんなにキラキラしてるのに、みんなわからないのか? ガルナはどうだ?』
同意が得られずシロルは不満顔だ。賛同者を得ようとガルナに話を振るけど、その彼女は何故か僕を見て固まっていた。
『その存在感は父様の? いや、そんなはずは……』
何事か呟くガルナ。微かに聞こえたのは“父様”という言葉だ。ガルナが父様というのは、この世界を生み出した神様だよね。だけど、その神様はあの銀の教団――ユーダスが言うには、異界に乗り込んで力尽きたって話だ。
「ガルナ? どうしたの?」
『あっ、いや……何でもないのじゃ』
呼びかけると、ガルナは何かを振り払うように首を振る。
『創世力じゃったか。聞いたことのない特性じゃな。まあ、正体不明の特性が増えたところで今更驚かんが……』
ガルナの言葉に、みんながうんうんと頷いた。僕自身もあんまり驚きはない。確かに、今更って感じだね。
『違いがわからないと言っておるが、おそらく、強い力が宿ったはずじゃ。……私やそこの白いのからすると、トルトという存在が大きく変わったと感じられるからのぅ』
『ほらな! キラキラしてるんだ!』
『言うならば、存在の格が上がったという感じじゃ』
あまり自覚はないけど、そういうことみたい。それがシロルにはキラキラとして感じられるんだって。
それってつまり……?
「トルトは神様になっちゃったの?」
僕に代わって、ハルファが知りたいことを聞いてくれた。みんなの視線がガルナに突き刺さる。それを受けて、彼女は眉を下げた。
『そんなはずはないんじゃが……』
ガルナが言うには、いくら力をつけたところで、神になれるわけではないみたい。他の神々から認められ、この世界の運営に関する何らかの役割を与えられてはじめて、神格を得るに至るとかなんとか。つまり、創世力というスキルを得ただけで、神様になったりはしないってことだね。
「結局、この力って、何なのかな?」
『私にもわからん。ラフレスに向かうのならば、そこで他の神々にも見極めてもらう必要があるのぅ』
中立国ラフレス。もともと、冒険者ギルドの本部を訪ねるつもりではあったけど……またひとつ訪問する理由ができたね。
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