7. お菓子屋さん in 妖精界
試作プリンの大盛況もあって、ますます冒険者や街の住人が集まってきた。たこ焼きだけじゃなくて、甘い物を欲しがる人も多かったので、ハルファとスピラはソフトクリーム屋さんに変更したみたい。もうタコパなのか何なのかわからなくなったけど、イベントとしては盛り上がったので問題はないね。
そうそう。今回のイベントでたこ焼きを知って、自分たちでも作ってみたいというモルブデン組の人がいたんだ。僕としては大歓迎。作り方は難しくないし、材料はダンジョンで揃う。新たな料理として広まればいいなと思って教えてあげたんだけど……問題は名前だ。
僕はたこ焼きとして説明するつもりだったんだけど、スピラが「モヒカン焼きだね!」と口走っちゃったんだよね。この世界にモヒカンって言葉はないんだけど、僕がうっかり漏らしちゃった言葉を覚えてたみたい。気づいたときには定着してたから、訂正するのはもう諦めたよ。
アイングルナでは筋肉焼き。アルビローダではモヒカン焼き。同じたこ焼きなのに、別の名前がついちゃった。回転焼きとか今川焼きとか、色んな呼び名がある例のあれみたいだね。いつか、派閥ができて呼び名に関する論争が起きる……かもしれない。
プリンの作り方については、ちゃんとハルファとスピラに伝授した。冷やして固める工程があるから、屋台とかで売るにはあまり適してないかと思ったけど、二人はあまり気にしていないみたい。事前に作って収納リングに保存しておけばいいね、と相談していた。
そんな二人のプリン屋さん。記念すべき最初の出店は、妖精界となった。
「待ってたのよ~! これが新しいお菓子ね!」
「ロロちゃん、いらっしゃい」
「とっても美味しいプリンだよ」
ハルファとスピラは、アルビローダ滞在中にこうやって妖精界でお菓子屋さんを開いている。妖精たちからは大人気だ。ロロを筆頭に、大勢の妖精から詰め寄られながらも笑顔でプリンを配っている。
『やっと食べられたぞ! うま~い!』
「甘くてとろける~」
タコパのときにプリンを食べ損ねたシロルとピノも無事ありつけたようでご満悦の表情だ。
「トルトは何を作るんだ?」
僕は僕で準備をしていると、ローウェルが興味深げに手元をのぞき込んできた。お菓子作りには関係なさそうな醤油を用意していたからかな。
「僕はおせんべいを作るよ。甘くないから、妖精たちにはあまり人気が出ないかもしれないけど」
「ほう。そういうお菓子もあるのか」
お、興味を持ってくれたみたいだね。さっそく作ってみよう。
作り方は難しくない。お米を砕いてから粉にして、水と合わせて混ぜる。混ざったらひとかたまりずつ茹でていく。充分に柔らかくなった頃には自然と浮かんでくるので、それをすくって薄くのばすんだ。本当はここで乾燥させる工程がいるけど、それは脱水の魔法〈デハイドレイト〉でお手軽にすます。あとは焼くだけだ。
充分に熱せられた鉄板に生地をのせていく。じゅうと焼ける音だけで、おいしそうに思えるよね。でも、これで終わりじゃない。ある程度焼けたところで、刷毛を使って醤油を塗っていく。香ばしい匂いが広がっていくね。
「これは食欲がそそられるな」
ローウェルの目がおせんべいに釘付けだ。さらに、こういうときには澄まし顔で距離をとっているガルナまでやってきた。
『……なんと暴力的な香りをさせておるのじゃ』
「ガルナが興味を持つなんて珍しいね」
『ぐぬぬ……業腹じゃが、今ならばシロルの気持ちも理解できる。この香りには抗えん……!』
悔しげだけど、そう言いつつもガルナの視線はおせんべいから離れない。まあ、気持ちはわかる。醤油の焼ける匂いって凶悪だよね。
できあがったところで、早速ローウェルとガルナに振る舞う。二人はまだアツアツのおせんべいをふぅふぅ言いながら無言で食べていた。
僕も食べてみる。うん、パリッとしておいしいね!
『なんだ新作か! そういうことはちゃんと報告しないとダメだぞ!』
「そうだよ、ご主人! こっちにも都合があるんだから!」
匂いを嗅ぎつけた食いしん坊二人組がやってきた。シロルの口にはプリンがべっとりついている。それを拭っていると、おせんべいを食べ終わったガルナが口を挟んだ。
『お主らにはプリンというのがあるじゃろうが。そっちを食べておれ』
同意するようにローウェルが頷く。
「そうだな。これは甘くないし、お前たち向きではないと思うぞ」
と言いつつ、二枚目を食べ始めた。
『うまいんだな? そうなんだな? 自分たちだけで食べるなんてずるいぞ!』
『お主らは他の菓子を食べれば良いじゃろうが!』
「ダメだよ! アタシたちにはあらゆるお菓子を楽しむって使命があるんだから!」
『そんなものはない!』
シロルとガルナとピノがわいわい騒いでいる間にローウェルが三枚目に手を伸ばしている。本当に珍しいね。
「まあまあ。おせんべいはまだ作れるから、みんなで食べなよ」
『ほら、トルトもそう言ってるぞ!』
『ぬぅ……仕方あるまい。って、なんか減っておるぞ』
「……不思議な話だな」
「なくなっちゃう前にたべなきゃ!」
興味を持った妖精たちも寄ってきたので、彼らにもおせんべいを振る舞う。悪くない反応だったけど、ほとんどは甘いプリンやソフトクリームの方が好きみたいだね。だけど、一部の妖精はおせんべいを気に入ったみたいで、ロ-ウェルやガルナと同じく、焼いてる鉄板の前から動かなくなった。
タコパに続き、妖精界でのお菓子屋さんも大成功だ。
後日、妖精たちから対価として受け取った薬草類で、ステータス向上薬を作った。スロットミミックの変異魔石もあったので、ついでにステータス向上薬(特殊)も作ったよ。以前、これを使ったときには【創造力 Lv3】という特性が身についたけど……これはどうなるかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます