ゲーム的ステータス

 チートアイテム欲しさにパンドラギフトに手を伸ばして――どうにか引っ込める。


 いやいやいや。完全に博打で身を持ち崩すタイプの思考になってる。まだ、生きていけないと決まったわけじゃないんだから、少し冷静になろう。


 大きく深呼吸をしてから部屋を見回す。部屋というか小屋だ。僕は元ご主人に買われたあと、馬車に乗せられて森の中にポツン建っているこの小屋まで連れてこられた。なんのための小屋なのかはわからないけど、人目を忍ぶつもりで連れてきたんだろうから普段は人が来ない場所なんだと思う。ということは、しばらくの間ここに住み着いても問題はなさそうだ。


 ただ食料の確保は課題だ。森の中だから探せば食べ物くらいありそうだけど、見分ける知識がないんだよね。


 どうしようかなと考えていると、ふと視界の端に光る物を捉えた。何かと思えば、元ご主人が使っていた鑑定ルーペだ。


 さて。


 窃盗はいけないことだ。だけど、一時的に借りるのはありなんじゃないかなと僕は思うんだよね。それに元ご主人としても、違法奴隷にパンドラギフトを開封させていた現場には戻りにくいと思うんだ。だとしたら、このルーペはここに置き去りにされてしまう。それよりは僕が預かっておいて、いつか再会できたときに返してあげればいいんじゃないかな。うん、間違いなくそうだ。


 というわけで、鑑定ルーペは僕が預かっておくことにする。道具は使われてこそだと思うから、預かっている間は有効利用しよう。


 鑑定ルーペがあれば、森での食料調達も楽になるんじゃないかな? 食用かどうかくらいは判定できるでしょう。


 といっても使い方は知らないんだけどね。ただルーペで覗けばいいだけなのかな。


 試しにルーペで自分の腕を見てみると、不思議なことに知らないはずの情報が頭の中に浮かび上がってきた。


―――――

名 前:トルト

種 族:普人

年 齢:12


レベル:1

生命力:15/15

マナ量:13/13

筋 力:6

体 力:7

敏 捷:8

器 用:12

魔 力:12

精 神:10

幸 運:100


スキル:

【運命神の微笑み】


特 性:

【調理の才能Lv1】【強運】【器用な指先Lv1】

―――――


 おお、ゲーム的ステータス!


 こういうのってなんかワクワクするよね。比較対象がないから自分の才能がどの程度なのかはわからないけど。ただ、幸運がやたら高いのはわかる。これはスキルスクロールで習得した【運命神の微笑み】と特性の【強運】のおかげかな。


 能力の傾向としては、盗賊タイプかな。この幸運値なら鍵開けもトラップ解除も難なくこなせそう。でも盗賊ってゲームによってはいらない子扱いなんだよね。僕が好きだったウィザードリィ系統のゲームだと盗賊技能はパーティーに一人は欲しい能力だったけど、この世界ではどうかな? ダンジョンがあるんだし、いらない子ってわけでもないと思うけどね。


 あ、でも、職業クラスの欄がないね。まだ何の職業クラスにも就いてないからなのか、それともそういうゲーム的な職業クラスがないのかどっちだろう。僕を囮に使った冒険者たちは戦士とか弓使いとか、それっぽい役割分担をしてたけど、そういう職業クラスだったかどうかはわかんないよね。


 ま、それはいいか。僕には自由がある。冒険者になると決めたわけでもないんだから、必要になってから考えればいいよね。


 それより、スキルとか特性の詳細ってわからないんだろうか。特に【運命神の微笑み】の効果がよくわからないんだよね。元ご主人もわからないみたいだったから、やっぱり無理なのかな。


 そう思いながらも、知りたいと念じていると追加の情報が頭に浮かび上がってきた。便利だね。


 【運命神の微笑み】はゲーム的に言えば常時発動のパッシブスキルみたいだ。効果は『幸運のプラス補正』と『一日に一度、致命的な運命を回避して良い出来事に転換する』というもの。


 これって、後者の効果は極めて有用なのでは。特にパンドラギフト対策としては完璧に近い気がする。致命的っていうのがどの程度を指すのかはわからないけど、一度は死を回避できるってことだよね。しかもそれが良い出来事に変わるんでしょ?


 というか、パンドラギフト開封二回目で霊薬ソーマが出たのって、ひょっとしてこの効果が発動したからなんじゃ……。


 危なかったぁ……。いや、本当にそうなのかはわからないけどね。でも可能性は高い気がする。【運命神の微笑み】を僕に使わせてくれた元ご主人、グッジョブだね! あと、最初にスクロールを引き当てた僕も偉い。


 でさ。


 【運命神の微笑み】がそういう効果ならさ。残りのパンドラギフトを開封しない手はないよね。だって、一日一つずつ開封すれば、かなりリスクを抑えられるわけだし。今日は止めておいた方が良さそうだけど、明日から一つずつ開封してみるとしよう。


 残る項目は特性だね。【調理の才能】は調理系技能の成長にプラス補正し、生産物のクオリティが上がるみたい。レベルは三段階あって、Lv1で才能あり、Lv2で天才、Lv3で類まれなる天才という感じかな。


 僕の場合だと才能はあるけど、眠らせたままって感じかな。僕がトルトに生まれ変わってからまともに料理をしたことなんてないから仕方がないね。


 というか、僕ってスクロールで習得した【運命神の微笑み】以外、何のスキルも持ってないの? そんなことある?


 うーん、あるかも……。


 親の手伝いで農業っぽいことはしてたけど、雑用がほとんどだったからなぁ。趣味らしき趣味もなかったし、記憶が戻るまではぼうっとしてる子だった。何かひとつに打ち込んだりした経験はないから、スキルが発現していないのかもね。


 まあ、まだ12歳だからね。これからだよ。


 【強運】は【運命神の微笑み】の下位互換だね。幸運をプラス補正という効果。たぶん、重複して補正がかかってるから、幸運が凄いことになってるんだろうな。


 【器用な指先】は【調理の才能】に近い特性で、こちらは器用さが影響するスキル全般に適用されるみたい。たぶん料理にも影響するんじゃないかな。


 特性を考えると、僕って料理屋でもやると成功しそうだよね。

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