商売のネタ
「トルト様、お久しぶりですね! お元気そうでなによりです」
「ルランナさんも。ハンバーガー店も順調みたいですね」
「ええ、おかげさまで。トルト様にお支払いする収益金がかなり貯まっておりますので、折を見てガロンドにお越しください」
「ああ、そうですね……」
ハンバーガー店は、一応僕がオーナーと言うことになっている。経営にはノータッチだからほとんど名目だけなんだけどね。それでも利益の数パーセントは僕の取り分になる。一度もガロンドに戻っていないから、かなり貯まっているみたいだ。
僕とルランナさんがいるのは、商業ギルドの一室。
各国の商業ギルドはそれぞれ独立した別の組織なんだけど、各国ギルドの結びつきは強いみたい。友好国のギルドではかなり融通してもらえるんだって。この部屋もルランナさんが商業ギルドに掛け合って貸してもらったんだ。
僕以外のメンバーは情報収集を兼ねた自由行動。知りたいのは東の地についての情報だ。ガルナラーヴァが気にするような何かがあるのだと思うけど……現状では何もわかっていないからね。
「ベルヘスにもハンバーガー屋の支店を出すんですか?」
「ええ。既に話はついていますよ。スタッフはこちらで雇うので、募集と教育が必要ですが」
「ということは、しばらくはこっちに?」
「はい。ついでですから商売のネタを探そうかと思っていたところでしたが……」
ルランナさんが僕を見てニヤリと笑う。商売のネタが向こうからやってきた、という感じかな。期待されているみたいけど、儲けが出そうなネタなんてあったかな?
「まあ、まずはトルト様の用事を済ませましょうか。なんでも鉄が必要なのだとか? どのくらい必要なのですか?」
「量かぁ。全部鉄にすると重すぎるから、中は空洞にするとして……」
頭の中で必要量を計算してみるけど、具体的な量と言われるとちょっと難しい。少ないと困るけど、多い分には収納リングに入れておけばいいから、適当に多めの量を頼んでおく。
「なるほど、了解しました。数日中には手配できると思います。代金はトルト様の収益金から引いておきますね」
お願いした鉄は結構な量のはずだけど、ルランナさんは問題なく請け負ってくれた。ここは他国だというのに流石だね。
「トルト様の用事は、これでお終いでしょうか?」
「そうですね」
「では、今度は私との雑談にお付き合いください。ああ、トルト様は商売のことなど気にせず話してくれれば構いませんので。以前お会いしてから、新しくできるようになったことを中心に話してくだされば」
笑顔のはずのルランナさんから、とてつもない気迫を感じる。何が何でも商売のネタを引き出してやるぞ、という想いが圧となって僕に迫ってくるんだ。
どうしよう。これで儲けに繋がるネタを提供できなかったら、僕は帰れるんだろうか。もちろん、ルランナさんはそんな横暴な人じゃないのは知ってるけどね。それくらい強い圧を感じるんだ。
まあ、結論から言うと杞憂でした。
「よ、予想以上でした! 色々ありすぎて、何から聞いていけばいいのか!」
とりあえず、魔法でできるようになったことを中心に話したら、ルランナさんとしても大満足の内容だったみたい。たしかに、思い出してみたら商売のネタになりそうな話は結構あった。
クリーンによる砂糖の精製。エアジェットによる飲料への炭酸封入。クリエイトゴーレムを使った成形作業などなど。これ単体でもお金儲けに繋がりそうだし、応用すれば他にも色々と活用法はありそうだ。ルランナさんなら上手く利用できるだろう。
とはいえ、問題はあるんだよね。
「でも、【創造力】スキルが前提だと思うんです。スキル取得前はうまくできませんでしたから」
「その点がネックですね。トルト様しか作れないのでは、商売にはなりませんから。ですが、トルト様は付与魔道具というものを作れるのですよね?」
「作れますけど……たくさんは無理ですよ」
付与魔道具なら、僕の魔法を再現することはできる。とはいえ、繰り返し型の付与魔道具はマナ消費が膨大だから、一日に何個も作るのは無理なんだよね。アレンジ版のクリエイトゴーレムに至っては、繰り返し型で作るには僕のマナが足りない。
「では、特殊クリーンと特殊エアジェットの付与魔道具をそれぞれ十個ずつ製作していただけないでしょうか」
「まあ、そのくらいなら……」
個人的に料理が多様化するのは嬉しいから、それに関わる技術にはできるだけ協力したいと思っているんだよね。ルランナさんには話したことがあるから、この件も協力して貰えると踏んでいたみたい。しっかりしてるよね、本当に。
そのあとは、細かい条件のすりあわせだ。魔道具の金額は一つにつき大銀貨一枚ってことになった。代わりに他言無用。決して制作者を明かさないという条件をつけた。現状、僕しか作れないから、制作者がバレると面倒くさいことになるだろうからね。
それに加えて、香辛料やベルヘスならではの食材なんかも報酬として貰えることになった。あとで自分でも市場なんかを覗いてみるつもりだけど、やり手の商人に用意してもらった方が確実だからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます