プチゴーレムズの自己紹介

 人気の食堂に居座るのは迷惑になるので、別のお店に移動して改めてゼフィルたちと話す。移ったのは近くにあった酒場だ。酒場が賑やかになってくるのはもうちょっと先の時間帯。今の時間なら客の入りは多くない。


「おっと、そういえば、トルトたちは初めてだったか。こいつらは、リックとマール。この四人でパーティーを組んでるんだ」


 当然のようにお酒を注文しつつ、ゼフィルがパーティーメンバーを紹介してくれた。相変わらずお酒好きみたいだね。

 エイナに怒られないのかなと思って、彼女に視線を向けてみると、シロルを抱き上げてモフモフと顔を埋めていた。そっちに夢中でゼフィルのことは眼中にないみたいだ。


「やあ、初めまして。君たちのことはゼフィルから聞いてるよ」


 リックは穏やかな青年って感じ。体格もわりと普通だから、一見するとあんまり冒険者っぽく見えない。とはいえ、よく見れば鍛えているのがわかるけどね。彼の武器は弓みたいだね。どっちかというと斥候的な役回りなのかも。


「君がお宝ダンジョンの子でしょ? いいなぁ。私も行ってみたかったなぁ」


 そう言って笑うのがマールだ。小柄だけどポジションは前衛……なのかな? メイスと小盾を持ち歩いている。

 彼女のいったお宝ダンジョンっていうのは、リーヴリル王国でゼフィルと一緒に探索したダンジョンのことだね。たまたま倒したレア魔物がダンジョン核だったから、もうなくなっちゃったけど。


「よろしくお願いします。あっ、僕らの新しい仲間も紹介するね!」

「ん? 新しい仲間?」


 怪訝な顔でゼフィルが聞き返してくる。まあ、紹介すると言いながら姿が見えないからね。でも、ポケットの中にちゃんといるんだ。


 出番だと判断したアレンたちが次々とポケットから飛び出してきた。


「ピコ!」

「……なんだこりゃ!?」


 プチゴーレムズの挨拶に、ゼフィルが素っ頓狂な声を上げる。リックとマールもだ。エイナはあいかわらずシロルをモフっているけど、目が大きく見開かれているところを見ると、驚いているんだろうね。


「ピコ! ピコ!」


 ピノがしきりに等身大ボディを出せとせっついてくる。プチボディだと何故かピコピコとしか喋れないからね。

 正直に言えば、ここで等身大ボディを出すのは気が進まない。でも、ピノだけじゃなくて、他の三人からもじっと見上げてくるんだ。ちょっと断りづらい。うーん、仕方がないかぁ。


「おいおい、今度は何だ?」

「えっ? えっ?」

「死体……ではないか。人形?」


 等身大ボディを収納リングから取り出すと、ゼフィルたちだけじゃなくて、数少ないお客たちからもどよめきが起こる。リックが呟いたように、人間そっくりの人形は一見すると死体にも見えちゃうんだよね。以前にも人前で取り出して騒ぎになったことがあった。それ以来、人前ではあんまり取り出さないようにしていたんだ。


「俺はアレンという。ご主人の部下のゴーレムだ。よろしく」

「あたしはミリィね!」

「シャラです。よろしくお願いします」

「ピノだよ~。ご主人様、ご飯! ご飯食べていい?」


 周囲の騒ぎなんて気にすること無くプチゴーレムズは体を乗り換えていく。彼らの挨拶をうけたゼフィルたちは目を白黒とさせて言葉も出ないようだ。あと、ピノは相変わらずマイペースすぎるよ。




 ゼフィルたちが驚きから復帰した後、アイングルナでの出来事を話した。プチゴーレムズのことはもちろん、邪教徒たちのことなんかもね。


「王都で邪竜を呼び出したジジイが、元ギルマスで、しかもアイングルナでも騒動を引き起しやがったのか。そりゃあ大変だったな」


 僕らの話を聞いて、ゼフィルは同情するように言った。かと思えば次の瞬間には豪快に笑い出す。


「しかし、お前らBランクに昇格しやがったのか。先を越されたなぁ!」

「すごいね。最年少なんじゃない?」

「そうだろうね。そもそも彼らの年でCランクだったこと自体が異例だし」


 ゼフィルたちの冒険者ランクはC。僕たちがアイングルナでBランクに昇格したことで、追い抜く形になってしまった。だけど、彼らの態度には嫉妬みたいなものは感じない。ゼフィルとエイナだけじゃなくて、リックとマールもいい人そうだね。


「お前らもすぐなんじゃないか?」

「まあ、昇格試験を受ける資格はあるって言われてるな。ガロンドに戻ったら、受けてみるか」


 ローウェルが話を向けると、そんな答えが返ってきた。そういえば、Bランクからは試験……というか上位冒険者による審査みたいなのがあるって話だったね。リックとマールの実力はわからないけど、ゼフィルとパーティーを組んでるんだから、きっと実力者なんだと思う。試験を受けさえすれば、Bランクに昇格しちゃいそうだね。


「そういえば、ゼフィルたちは、何をしにベルヘスまで?」

「ああ、護衛依頼を受けてな」

「そーそー、ちょうど闘技大会の時期だし、観戦もできるかと思って」


 ゼフィルの返答に、マールが補足する。どうやら、護衛依頼でこっちまで来て、ついでに闘技大会を観戦しようという狙いみたい。ゼフィルたちのように依頼で来て、ベルヘスに留まるっていう冒険者は多いって聞いている。この世界では数少ない娯楽だからね。


「ああ、そうだ! その護衛の依頼人なんだが、ルランナさんだぜ。覚えてるか?」

「え? 商業ギルドの?」

「そうだぜ。こっちでもハンバーガー店の売り込みをするらしい」


 まさか、ゼフィルたちの護衛相手がルランナさんだったとはね。あいかわらず商売熱心みたい。オルキュスだけじゃなくて、ベルヘスにもハンバーガー店を展開しようと考えているのか。それだけ順調ってことかな。


 久しぶりだし、会っておきたいな。もしかしたら、多脚ゴーレムの材料を手に入れる手伝いをしてくれるかもしれないし。

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