きっといいお宿
冒険者登録はできたけど、まだまだわからないことだらけだ。この機会に色々と聞いておきたい。
というわけでお姉さん――ニーナさんというらしい――を質問攻めにしよう。後ろに人は並んでいないから、今なら大丈夫だよね。
まずは、ズタ袋に押し込んだ薬草類について聞いてみた。常設の採取依頼に該当するものもありそうだったので見てもらう。
「月白草と気鎮め草、それと風向花は依頼が出てますよ。品質も問題ないですから、納品して頂けるなら依頼達成として処理しますよ」
「それじゃあ、お願いします」
引き取ってもらえたのは三種類だったけど、結構な量があったので報酬は銀貨2枚に大銅貨四枚になった。キグニルのほとんどの冒険者はダンジョン探索が目的だから、こういう薬草採取の仕事は放置されがちみたいだ。だから、報酬も少し高めになっているんだって。
それ以外の植物は依頼にないものだったので、冒険者ギルドでは引き取れないみたいだ。調薬ギルドに行けば引き取って貰えるかもしれないそうだけど、ちょっと面倒くさい。次からは依頼票にあるものだけ採取することにしよう。
次に聞きたいのは冒険者としてのステップアップの方法。とくに戦闘力アップはできるだけ早く取りかかりたい。
「戦い方を学ぶにはどうすればいいんでしょうか」
「スキルを身につけるならギルドで開催している講習を受けるといいですよ。それと職業神の加護を貰うのもいいですね」
ギルドの講習は引退した冒険者が講師になって自分の技術を希望者に教えてくれるみたいだ。講師や受講内容によって費用が違うみたい。
職業神の加護はたぶん、ゲーム的な
幾つかの候補の中から自由に加護を選べるみたいだけど、人によって候補の種類や数が違うようだ。また、経験を積んだら候補が増えたなんて話もあるんだって。上級職みたいな感じなのかな?
加護の変更は何度でもできるみたいだから、気軽に授かっても問題ないんだけど、変更するたびにお布施として銀貨を10枚取られる。将来はともかく、最初の選択は慎重になったほうが良さそうだね。
ちなみに職業神の加護があっても必殺技みたいなものが使えるようにはならないらしい。ワクワク顔で質問したら笑われてしまった。魔法はあるのになんでだよ……。
あ、でも、魔術師な加護を授かったからといって魔法が使えるようになるわけじゃないみたい。一番手っ取り早く魔法を覚える方法は、覚えたい魔法のスクロールを使うこと、だって。適性があれば、何度か使っているうちにスクロール無しでも使えるようになるみたいだ。
魔法のスクロールは魔術師ギルドで販売しているから、習得自体は難しくなさそうだ。お金があれば、だけどね。うん、世知辛い。
まあ、強くなるためにやるべきことはわかった。あと聞いておくべきことは何かな。
んー、今は思いつかない。また、気になることができたら、そのときに質問すればいいか。
あ、最後におすすめの宿屋だけ聞いておこう。
「冒険者向けの宿屋があれば教えてほしいんですけど。できれば安いところで」
「大部屋でよければ、ギルドの宿舎がありますよ。宿賃は大銅貨1枚ですから、かなりお安いです。個室がよければ、山猫亭がオオスメですよ。特別にお安いわけではありませんが、清潔で食事が美味しいと評判です。ちなみに私の両親がやっています」
ニーナさんは眩しいばかりのニッコリ笑顔だ。露骨な身内推しだけど、ここまで堂々としていると清々しいね。
まあ、ニーナさんは親切だし、そのご両親がやってる宿屋なら悪くはなさそうだ。大部屋だと気が休まらないだろうから、そこにしようかな。
というわけで、簡単に場所を教えてもらってギルドを出た。地図とかないからちょっと不安だったけど、道行く人に尋ねつつ、なんとかお店までたどり着いた。メインストリートから外れた奥まった場所だ。知る人ぞ知る宿って感じかな。いいかもしれない。
「いらっしゃいませ」
ドアを開けると、女将さんが迎えてくれた。たしかに、どことなくニーナさんに雰囲気が似てる気がする。特にあのニッコリ笑顔はそっくりだ。
「泊まりたいんですが、一泊幾らですか?」
「食事なしなら銀貨 1 枚と大銅貨 5 枚ですね。食事は朝が大銅貨 2 枚で夜が大銅貨 3 枚です」
大銅貨が 10 枚で銀貨 1 枚の価値みたいだから、食事込みでちょうど銀貨 2 枚だ。ちょっと負担が大きい、かな?
でも今日の薬草の採取依頼の報酬が銀貨 2 枚と大銅貨 4 枚だった。その気になればもっと採取できるから、毎日銀貨二枚でも支払えないわけじゃない。お金を貯めるのは時間が掛かりそうだけどね。
ま、冒険者としてガンガン上を目指そうってわけじゃないからね。のんびり冒険者を楽しむなら宿泊環境は良くしてた方がいいでしょ。このくらいは許容範囲内だ。
「ひとまず食事つき三泊でお願いします」
「あら、本当に? ニーナちゃんの紹介できたのよね?」
「え、はい。なんでわかったんですか?」
「駆け出しの冒険者は雰囲気でだいたいわかるのよ。あ、ちなみに私はニーナちゃんの母のレイラです」
「あ、はい。僕はトルトです」
なんだかよくわからないけど、自己紹介することになった。これはどういう展開なのかな。
「山猫亭は、実はちょっとお値段が高めなのよ。その代わりにニーナちゃんの紹介でやってきた駆け出しさんには支援をしているの。食事は無料で提供しているし、宿代も多少は割引くのよ」
「え、じゃあ……!」
「だけど、トルト君には必要ないみたいね。ニーナちゃんが、ここを紹介するのはみんな見込みがありそうな子なんだけど、トルト君は本当に優秀なのね」
あ、はい……。
有無を言わさぬ、ニッコリスマイル!
ニーナさんの母親だけあるね。
優秀だと思われるのは嬉しいんだけど、銀貨6枚を支払えるのは元ご主人のおかげなんだよね。でも、今更ちょっと言い出しにくい。仕方ない。ここは潔く支払おう。
おっと。銀貨は収納リングの中だった。ズタ袋に手を突っ込んだ状態で、収納リングから取り出す。これで収納リングの存在はバレないだろう。こうやって隠す必要があるほどレアなアイテムなのか、実はわかってないんだけどね。
さて、夕食の時間にはまだある。今のうちに職業神の加護を貰いにいこうかな?
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20220408 女将さんとのやり取りを追加
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