未探索エリア

 博打打ちの錫杖の爆発によって崩れかけた壁の向こうには、確かに通路のようなものが見える。


「んー、やっぱり記載はないよ。近くに通っている別の通路もないみたい」


 地図を確認していたサリィが顔を上げてそう言った。その横ではレイが目を輝かせてる。


「やっぱり隠し通路か! ということは、この先は未探索領域……!」


 普段は冷静なレイだけど、宝箱だとか未知の冒険だとかが絡むと少年らしさが垣間見える。まあ、ロマンがあるもんね。わかる!


「隠し通路には違いないんでしょうけど、未探索とは限らないわよ」


 冷静に指摘したのはミル。彼女はレイのお目付け役としてわざとこういう役回りに徹している気がする。多分だけど。


 ミルの指摘した通り、壁の向こうの隠し通路が未探索だとは限らない。というのもダンジョンの壁って、壊れてもいつの間にか修復されてるんだよね。隠し通路を塞ぐ壁も同じように復元されるかどうかはわからないけど、されないって保証もないからね。


 だけど、未探索の可能性はそれなりに高いと僕は思うんだ。


「もし探索済みなら、特に隠しておく必要もないよね。だったら地図に記載されててもおかしくはないと思うけど」

「そうだね~。逆に、隠しているんだとしたら、隠したいほどの何かがあるってことだよね」


 僕の言葉に頷いてから、サリィはそう付け加えた。

 確かに秘密にしたい何かがあるから公表してないって可能性はあるかも。それはそれで気になるよね。


「とにかく行ってみようよ。行ってみればわかるって」


 結局のところ、ハルファの言う通りなんだよね。行けばわかるんだ。





 隠し通路のその先を、僕達は少しゆっくりとしたスピードで進んでいる。地図がないから罠の位置がわからないんだ。速度優先で罠に気づきませんでした、なんて笑い話にもならない。慎重にならざるを得ないよね。


 罠を警戒しながら歩くのは、思ったよりも消耗する。体力というよりは精神力かな。些細な違和感も見落とさないようにと、常に気を張っているからね。このままじゃ魔物との戦いの前に疲れちゃいそう。もう少し力を抜いたほうがいいんだろうけど、その辺りはもう少し慣れが必要かな。


「あ、ちょっと止まって」

「お、罠か?」


 僕はパーティーに制止をかける。レイの言う通り、通路の先に罠が見える。けど、みんなはちゃんと認識できてるかな?


「何処にあるか、わかる?」

「これなら、さすがにわかる。あのタイルだろ?」

「私もそうだと思う! 他に罠っぽいの、ないもの」


 レイが示したのは石床のタイル。床全面がタイル張りされているわけではなく、一枚だけぽつんとあるので、ひどく浮いている。ハルファも同意見みたいだ。


「んー、流石に露骨すぎない? 私達がそう簡単に見抜けるものなのかしら」

「そうだよね。戦闘中ならうっかり踏むことはあるかもしれないけど」


 ミルとサリィは露骨過ぎて疑っているようだ。二人はこういうときに慎重な考え方をすることが多い。まあ、サリィは魔道具が関わると慎重どころか暴走しちゃうけどね。


 さて、パーティー内の二つ意見だけど。


「実はどっちも正解なんだよね」


 この罠、ダンジョンでは定番の罠なんだ。亜種はあるけど、どこのダンジョンでも同じような形の罠があるんだって。


 実は、二段構えなんだよね。露骨なタイルは、踏んだら矢とかが飛び出してくる。それとは別に、タイルからやや離れたところに窪みがあって、そこに小石のように見えるスイッチが仕掛けてあるんだ。こっちが本命の罠。地面がパカッと開いて針山地獄にご案内、なんて危険な罠が仕掛けられていることが多いみたい。


 あからさまな罠に注目させておいて、避けようとした者を本命の罠で仕留めるっていう意地の悪い仕掛けだね。


「そうなんだ! トルトは凄いね!」


 僕の解説を聞いて、ハルファが瞳をキラキラと輝かせて褒めてくれる。うれしいけど、ちょっとこそばゆいね。


「ありがとう。これが僕の仕事だからね。そういうハルファも凄いじゃない。弓でも歌でも大活躍してるね」

「えへへ、そうでしょ?」


 はにかんで笑うハルファの背中では、やはり白い翼がピョコピョコと動いている。


「うーん。わかるか?」

「知ってる状態で、しっかりと観察すればわかるけど、そうじゃなかったら無理ね」

「そうだね。知らなければスイッチだとは思わないよ、絶対」


 レイ、ミル、サリィの三人組というと小石っぽく見えるスイッチについて話している。初見で見破るのは難しいって結論みたいだね。


 それは僕だってそうだ。初見ではあるけど、事前知識があって、なおかつ警戒していたからこそ気付けたにすぎない。偉大な先人が調査して公開してくれたからこそ、安全に探索できるんだ。感謝しないとね。


 僕たちがいるこの場所もキグニルの第三階層には変わりないようで、罠も講習で学んだものと共通している。だからこそ、僕にも罠を見つけることができたんだ。もし、完全に未知の罠だったら厳しかっただろうなぁ。


「この罠も解除するのか?」

「ダンジョンの仕掛けは宝箱の罠と違って基本的には解除できないんだ。だから、渡し板とかを使って罠を回避できるようにするしかないね。今回の場合は普通に避けれるけど」


 このダンジョンは通路の幅も広い。おかげで、スイッチを踏んで発動するタイプの罠は余裕をもって避けることができる。


 その後も、何度か魔物や罠を見つけたけれど、いずれも第三階層相当。罠はともかく魔物は僕たちの敵ではない。僕が罠の判別に慣れてきたのもあって、探索はスムーズに進んでいく。


 そして、僕たちはやたらと装飾が派手な扉の前にたどり着いた。


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