危険な爆発物
森での活躍を見る限り、ハルファの冒険者としての適性は高そうだ。そう判断した僕たちは、ダンジョン探索を再開した。
第一階層、第二階層は特に問題はない。すでに四人の探索は経験してるしね。
ハルファを含めた連携も問題なさそうだ。ただ、通路での戦いになると、弓での攻撃はちょっと難しいところもある。どうしても密集状態になっちゃうからね。さすがに味方の間、ギリギリを通すなんて高度な技はまだ無理みたいだ。
とはいえ、弓が使えない状態でも、ハルファには歌唱魔法がある。例えば〈生命のうた〉は、聞いていると一時的に回復力が上昇する不思議な歌だ。〈ファーストエイド〉みたいな回復魔法の回復量も増えるし、そもそも多少の打ち身程度なら強化された自己治癒能力で自然に回復するんだから凄い。
歌唱魔法は範囲内の全ての対象に効果があるのがメリットでもあり、デメリットでもある。〈生命のうた〉なんかは人類種が対象になるから、敵が無法者や野盗だったら、そいつらも効果の対象になってしまうんだ。魔物には影響がないから、そこまでのデメリットではないけどね。
「ハルファも問題なさそうだな」
「うん、大丈夫だよ!」
今は、第三階層手前の階段でちょっと休憩を取っているところだ。レイの確認にもハルファは元気に答えている。まだまだ余裕そうだね。
「そうか。それじゃあ予定通り第三階層に進むぞ」
僕達はいよいよ第三階層へと進む。これまでの階層は言わば入門編。第三階層からが本番だというのが多くの先輩冒険者の言葉だ。大きく変わるのは何と言っても罠。宝箱以外にもフロアそのものに罠が仕掛けられているんだ。
キグニルのダンジョンは変動が起こらない固定ダンジョンで低階層は地図も出回っている。だから罠の位置なんかもほとんど知られているんだけど、それでも駆け出し冒険者が油断して被害にあったなんて話はよく聞く。
「ここからは僕が先頭に立つから。みんな、僕の先には出ないようにね」
罠を見つけるのは僕の役割だ。床、壁だけじゃなく天井も油断なく確認する。
ちなみに【罠探知】というスキルはあるそうだけど、ギルド講習がなかったため未取得だ。そもそも【罠解除】を取得すると、ある程度罠察知能力も上がるみたい。基本的にはそれで十分なんだって。
購入した地図で罠の位置はわかってるから、それほど警戒しなくてもいいんだけどね。訓練も兼ねて真面目にやるつもりなんだ。
しばらく、歩いたところで通路の右手に小部屋が見えた。地図によると、特に何もない小部屋で、他の通路に繋がっているわけでもない。ただ、かすかに物音が聞こえる。恐らく魔物だろう。
そろっと覗くと、そこにいたのは二匹の巨大蟹。ジャイアントクラブという魔物だ。丈夫な甲羅に守られているので刺突と斬撃に強い。僕とミル、そして、ハルファには不向きな相手だ。だけど、サリィの魔法で焼き蟹にすれば倒すのは難しくはないはず。倒したら消えちゃうのがもったいないね。
「どうする?」
「二匹なら相手としては手頃だ。試しに戦ってみよう」
レイの決断にみんなで頷く。
このフロアを探索するなら避けられない相手だ。こちらに有利な状況で経験が積めるのはありがたい。収入のためにも魔物を倒す必要はあるしね。
あ、そうだ。
どうせ、短剣じゃあ歯が立たないんだから、あれを使ってみよう。闇市のおじさんからもらった『博打打ちの錫杖』ってやつ。
不発や暴発する危険性もあるけど……、たぶん大丈夫だよね!
幸運値を信じるんだ!
ナイフを錫杖に持ち替えて、突入のタイミングを見計らう。レイの突入に合わせて、僕たちは一斉に小部屋に飛び込んだ。
手順はいつも通り。レイがジャイアントクラブの注意を引き付けて、他のメンバーに攻撃がいかないようにする。想定通り、ジャイアントクラブは狙いをレイに定めたようだ。これで、僕たちは自由に行動できる。
そのはずだったんだけど――
部屋にはジャイアントクラブ以外の魔物が潜んでいたみたいだ。
「うわぁ、なに!?」
「コウモリよ!」
魔法を使おうとしていたサリィに向かって、迷宮コウモリたちが天井から襲いかかってきた。迷宮コウモリはやや大きめな吸血コウモリ。理由はよくわからないけど、魔法を使おうとすると群がってくる性質がある。だから、魔術師には特に嫌われている魔物だ。
迷宮コウモリの数は五匹。散発的に襲ってくるせいで、サリィが魔法に集中できていない。コウモリたちの妨害を阻止しようと、ミルがタイミングを合わせて切りかかるけれど、今のところ上手くいっていないようだ。
コウモリの妨害によってサリィの魔法が封じられているので、ジャイアントクラブに有効打が与えられない状態だ。レイが隙を見てシールドバッシュで攻撃しているけど、それほど効果を発揮していなかった。
もっとも、ジャイアントクラブの動きが遅いせいか、レイも二匹の蟹を余裕でいなしている。戦況は硬直しているが、レイが危機に陥る心配もなさそうだ。これなら、先にコウモリを片付けた方がいいかもしれない。
僕は迷宮コウモリに向かって錫杖を突きつけ、魔法弾を射出するように念じた。錫杖の先端にある宝珠から光の弾丸が生まれて、瞬時にコウモリを撃ち抜く。威力は十分だ。ついで、ハルファの放つ矢がコウモリを貫いた。こちらも無事仕留めたようだ。
迷宮コウモリには飛び道具が有効みたいで、僕とハルファがもう一匹ずつ倒した。最後の一匹はミルが意地を見せ、狙い澄ました一撃で見事に両断する。これで、残るはジャイアントクラブだけだ。
「〈フレイムウィップ〉」
サリィの魔法がジャイアントクラブの一匹に迫る。炎がうねり、絡め取るように巨大蟹を呑み込むと、その一撃でけりがついた。やっぱり、魔法は特に有効みたいだ。コウモリの妨害に対処できれば、ジャイアントクラブは僕たちの敵ではなさそうだね。
残るは一匹。
サリィに任せるのもありだけど、せっかくなので錫杖の威力を確かめてみようかな。予想していたよりも威力が高いから、この蟹やコウモリ相手には便利なアイテムなのかもしれない。
ジャイアントクラブに錫杖を向け、狙いを定める。だけど、魔法弾を放とうとしたときに、突然、クラっと眩暈に襲われた。
……これって、もしかして魔力切れ?
魔法弾を撃つのに魔力がいるの!?
転倒しそうになったけど、どうにか堪えることができた。だけど、その拍子に錫杖がすっぽ抜けてしまったみたい。錫杖は弧を描き、ジャイアントクラブの背後の壁付近に飛んで行く。
――そして、巻き起こる爆発。
なんで爆発!?
……もしかして、今のが錫杖の暴発だったりする?
だとしたら、危なすぎる!
全然、使えるアイテムじゃなかったよ!
爆発に巻き込まれたジャイアントクラブは跡形もなく消失したけど、運良くレイに怪我はないようだ。
レイ、ミル、サリィの視線が痛い。
でも、これは甘んじて受けないと駄目な奴だよね……。
説教の予感に身を縮こめていると、ハルファから驚きの声が上がった。
「あれ? 壁が崩れて……向こうに通路があるみたいだよ!」
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