21. ダンジョン・プレオープン

 さすがに、神様たちもダンジョン作りには時間がかかるみたいだね。その日のうちにパパっと作成とはいかなかった。


 まあ、実際には作り替えるよりも、神様同士のお話し合い主導権の取り合いに時間がかかった気がしないでもないけど。


 完成したのは、ダンジョン作りに着手して五日前。そして、今日、生まれ変わったダンジョンのお披露目となった。といっても、今日はプレオープンのようなもの。一般公開前に僕ら『栄光の階』が先行してダンジョンに潜り、問題がないか確認することになっているんだ。


 内部がどうなっているのかは全く知らされていない。だから、どんなダンジョンができたのかワクワクしてる……んだけど。


『すまない。私の力が及ばず……』

「え? それはどういう……」

『まあ実際にダンジョンに潜ってみればわかるだろう』

「あ、はい」


 ダンジョンに入る前に、精霊神様とそんなやり取りがあったのでちょっとだけ不安。


 入り口は以前と同じく、地面に開いた大穴に石階段で降りていく形だ。だけど、階段を降りきったあとの景色は、すっかりと変わっていた。


 最初の階層は、とても牧歌的な雰囲気だった。牧草地に踏み固めたような道が一本、まっすぐと続いている。


「うわぁ……すごいね、スピラちゃん」

「本当だね! アイングルナみたいな感じなのかな?」


 アイングルナはダンジョン内にできた街だったけど、ここは農村といった様子だ。道の左右には木の柵に囲まれた民家みたいなも建物がいくつかあって、その周囲には畑っぽいものまである。


「待て。誰かいるぞ」


 ローウェルが警告を発する。彼の指さす方を見ると、たしかに人影らしきものがあった。遠目ではっきりしないけど、人影はまるで畑仕事をしているようだ。


 アイングルナでは、ダンジョンの中で人々が暮らしていた。だけどそれは、ダンジョンの外から移住してきた人々だ。作り替えたばかりのダンジョンに人の姿があるのは、ちょっとおかしい。


「ねえ、ガルナ。ここに人は住んでないんだよね?」

『無論じゃ。つまり、あれは魔物というわけじゃな』


 ガルナに確認を取ってみると、やはり、アレは人間じゃないみたいだ。じゃあ、何なのかと言われると、全く見当がつかないけど。畑仕事をする魔物なんていたかな?


『まあ、行ってみればわかるぞ!』

「そうだね」


 シロルの言うとおり、結局は確認してみるしかない。


 僕らは、慎重に人影へと近づいた。熱心に仕事をしているのか、その人影はこちらを見向きもしない。30mくらいの距離まで、気付かれることなく近づくことができた。


「なに、あれ?」

「トルト君のゴーレムみたい」

「たしかにな」

『そっくりだぞ!』


 みんなが人影の正体を見て、口々にそんなことを言う。


 失礼な!

 僕のゴーレムはもっとちゃんと埴輪型だからね!


 でも、まあ、砂漠地帯で作ったサンドゴーレムには似ているかもしれない。頭とか腕とかはあるけど、どこが境目なのかわからないくらいにのっぺりとしている。体全体は土色だ。変な言い方になるけど、土で作ったサンドゴーレムと言われると納得しちゃう見た目ではある。


『あれはノーフマッドマンじゃ』

「……農夫?」

『ノーフマッドマンじゃ。マッドマンの特殊個体のはずなのじゃが、特殊すぎてもはや別個体じゃな。なので新種として扱っておる』


 マッドマンというのは、泥の体を持つ魔物だ。全体的にドロドロとしていて、人型と言うよりはスライムっぽい見た目をしている。たしかに、あの人型がマッドマンの特殊個体と言われてもピンとこない。しかも、このダンジョンでは、あの特殊個体しか出現しないんだって。だから、このダンジョン特有の別種として扱うことにしたみたい。


『なあなあ。それで、アイツは何をやってるんだ?』

『畑を耕しておる』


 あ、やっぱり、アレは畑なんだ。


「なんでまた畑を?」

『そういう生態なのじゃ。というか、私に聞かれても困る。あんな魔物、私も初めてじゃ。絶対に他の神の影響じゃろ。それにトルトも』

「なんで、僕!?」

『ダンジョン作りの参考にということで、お主たちの思念を読み取っておったからな』

「いや、でも、それは僕だけじゃないよね!」


 僕だけじゃなく、パーティーみんなの思念を読み取っていたはずだ。だから、僕の影響だってg断定はできない。


「あの形はトルトだよ」

「そうだよね!」

「まあ、否定は難しいな」

『トルトの影響じゃなきゃビックリだぞ!』


 ぐぅ……形を理由にするのはズルい!


 言い返そうにも、自分でも思い当たるところがちょっぴりあるので、咄嗟に言葉がでてこない。そうこうするうちに反論する機会を失ってしまった。さすがに騒ぎすぎたのか、ノーフマッドマンがこちらに気付いたんだ。


「グェェェエ!」


 ノーフマッドマンは手にした鍬を掲げ、雄叫びを上げる。それに呼応するかのように、彼の足元から何かが飛び出してきた。見た目は似ているけど、白と赤の二種類がいる。その姿はまるで根菜類に短い手足をつけたかのようだ。


『ウォーキングダイコーンとホッピングニンジーンじゃ。これまたマンドレイクの特殊個体のはずじゃが、誰かの影響であの有様じゃ』

「トルト……」


 ガルナの言葉に、みんなの目が呆れの色を宿して僕を見る。


 違う、僕じゃない!

 僕じゃないよ、きっと!

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