31. 抗菌作用を付与
「それで、やってみたいことっていうのは何だ?」
ドルガさんが興味津々って顔で聞いてくる。お目付役とか言ってたけど、ドルガさん自身、僕のやることが気になってるみたい。渋々付き合わすのは心苦しいから、その方が僕にとってもありがたい。
今、僕らはキグニルのダンジョン前にいる。異形たちの襲撃に備えるハニワナイトや警報ゴーレムの警戒線の内側だから、本当に入り口のそばだ。ドルガさんだけじゃなく、ハルファやローウェルも僕が何をするのか興味深そうにしているね。
「まずは〈クリーン〉に手を加えようと思ってます」
「……クリーンか。あれ以上に何をするつもりなんだ?」
ドルガさんは困惑している。確かに、今のバージョンでも普通のクリーンと比べればかなり高性能だものね。広範囲に効果は及ぶし、殺菌作用もある。ついでに銀の異形も下っ端ならイチコロだ。我ながら、良いできになったなとは思うよ。でも、まだまだ満足しない。どうせなら究極のお掃除魔法にしたいからね!
「さっきの戦いで着想を得たんです。上手くいけば、もっと便利になるはずです」
「もう十分な性能だと思うがなぁ……」
ドルガさんが呆れたような表情を浮かべる。探究心が足りないなぁ。暗殺術の普及にはあんなに熱心だったのに。まあ、関心がないとこんなものなのかもね。
その点、現役“栄光の階”メンバーは違う。僕の言葉を聞いて、どんな追加効果をつけるのか考えている。
はじめに思い至ったのはハルファだ。
「ええと、なんだっけ。菌を寄せ付けないようにするって言ってた……」
『ああ、抗菌仕様じゃな』
「そう、それ! こーきんしよー!」
“抗菌”の言葉までは出てこなかったみたいだけど、そこはガルナがフォローした。
「……ん? 今、誰か知らない声がしなかったか?」
「ニャー」
「んんん?」
ガルナの思念会話はドルガさんにも聞こえるようになっているみたい。ただし、ちゃんと自己紹介はしてないんだよね。今も猫のフリをしてる。
理由は、まあわかる。少し前まで、ガルナは邪神として世界に災いをもたらす存在だった。ここキグニルでも黒狼騒動で大きな被害が出たからね。彼女自身が直接関わったわけではないけど、大っぴらに正体を明かすのは得策じゃないって考えているのかも。
神々から許されたとはいえ、被害者やその縁者に許されるとは限らない。というか、たぶん、すんなりとは受け入れられないと思う。下手に明かすと、僕らとキグニルの人たちの関係に亀裂ができる可能性もある。
だからまあ、黙ってるのも仕方がないかな。この非常時に事を荒立たせるのは望ましくないし。騙しているみたいで、ちょっと申し訳ないけどね。
というわけで、僕もガルナのことに触れず話を進める。
「ハルファ、正解! クリーンに抗菌作用をつけようと思ってるんだ」
今のクリーンでも除菌はできる。だけど、そのあとの菌の付着を防ぐことはできない。そこで抗菌作用だ。うまく付与できれば、しばらくは菌を寄せ付けない状態を維持できるんじゃないかな。
「ふむ。抗菌作用とやらが付与できたら、あの異形どももはじき返せるのか?」
「たぶんね」
ローウェルの疑問にはイエスで答えておく。
銀の異形はバイ菌の類いではないと思うんだけど、僕のイメージだと大差ない。魔法を改良するとき、このイメージは非常に重要だ。僕がバイ菌みたいなものと思っている以上、除菌と同じように抗菌もできると思う。
というわけで、さっさと改良。菌を寄せ付けないイメージでクリーンを発動する。これで抗菌作用つきのお掃除魔法の完成……のはずだけど。
「何か、変わったのかな? スピラちゃん、わかる?」
「うーん。ちょっとこのままじゃわからないかも……」
地味だし即座に効き目を実感できるような効果じゃないものね。試しにクリーンの対象になってもらったハルファたちも、上手くいったのか判断できずに首を捻ってる。
「まあ、そうだよね。というわけで、次の実験!」
抗菌作用が、銀の異形たちに有効かどうか確認しよう。被検体はダンジョンの中にたくさんいるはず。入り口付近で待ち伏せてると思うから、僕らが潜入する前の安全確保もできて一石二鳥だ。
ハニワナイトをダンジョンで運用できるなら、それが一番なんだけどね。でも、それは無理だ。キグニルのダンジョンは迷宮型だから道幅もそれほど広くないし天井も低いから、巨大なハニワナイトは身動きが取れない。デカさは武器であると同時に、弱点でもあるんだよ。
そこで、抗菌作用つきクリーンの出番だ。成功していれば、普通のゴーレムも異形たちに乗っ取られる心配がなくなる。そうなれば、あとは物量で押し切れると思うんだ。
「今回は空気ゴーレムがいいね」
その辺を漂う空気をゴーレム化する。ただし、あとから素材を追加できる拡張をしておこう。ダメージを受けて体の一部が霧散しても、空気を補充することで傷を癒やすことができる仕組みだ。傷がないときは取り込んだ空気を使って巨大化することもできる。空気ゴーレムはハニワナイトと違って柔軟に体を変形させることができるから、狭いダンジョンでも気にせずデカくなれるってわけ。
「よし、これでいいや。まずは、新方式のクリーンをかけてっと」
できたばかりの空気ゴーレムに抗菌作用つきクリーンをかける。効果のほどはまだ確認できてないけど、きっとうまくいってるはずだ。
「じゃあ、下半身はここにおいたまま、上半身だけで探索してきて。一層だけでいいからね」
「――!」
明確な返事があったわけじゃないけど、何となく了承の意思が伝わってくる。どうやらさっそく探索をはじめたみたいだ。下半身は入り口に置いたままにしているから、僕がダンジョンの外から空気を補充することができる。ぶっちゃけ、銀饅頭の作戦の真似だ。
抗菌作用の付与さえうまくいってれば、この作戦はかなり有効だと思う。結果は、ゴーレムが無事に戻れるか否かで判断できるはずだ。
あとは待つだけってところで、ドルガさんが微妙な表情をしてることに気づいた。
「どうしたんですか?」
「それはこっちの台詞だ。ゴーレムを作るんじゃなかったのか?」
「え? いや、それはもう作りましたけど」
「……は?」
どうも話が食い違うなと思ったら、ドルガさん、空気でゴーレムが作れるとは思ってなかったみたい。
「いきなりパントマイムを始めて、どうしたのかと思ったぜ……」
「そ、そうですよね」
空気でゴーレムを作るのって、一般的じゃないんだった。危うくおかしなヤツって思われるどころだったよ。
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