サプライズゲスト
「妖精界に戻れるの?」
「ここが妖精界に縁がある場所だとすれば、だけどね」
妖精女王の招待状の効果を説明すると、ロロがぱっと顔を明るくした。水を差すのもどうかと思うけど、一応釘を刺しておく。もし、上手くいかなかったら余計にショックを受けそうだからね。
「きっと大丈夫だよ! トルトがこのタイミングで出したアイテムだもの!」
『僕もそう思うぞ!』
ハルファとシロルは特に根拠無く成功を信じているみたいだけど。
招待状の使い方は難しくない。ただ、特定の場所で封を開けばいいだけだ。みんなで集まってから、ペリペリと封を外すと封筒から強い光が溢れて、一瞬で僕らを包んだ。
眩しい光が少しずつ薄れ、ようやく戻ってきた視界に映ったのは、一面の花畑。薄暗い森の景色はどこにもなくなっていた。
「良かった~! 戻ってこれたわ!」
ロロが嬉しそうに僕らの周りを飛び回っている。ここが妖精界であることは間違いなさそうだ。よく見れば、遠目に僕たちを窺う小さな人影があるね。たぶん、ロロと同じ花の妖精だ。
「綺麗なお花だね~!」
「そうだね、ハルファちゃん! 珍しいお花もいっぱい咲いてるよ」
花畑を見てハルファとスピラがはしゃいでいる。様々な種類の花が咲き誇っているから、本当に色鮮やかな光景なんだよね。たしかに綺麗なんだけど、僕としては別のことが気になる。スピラも言ってるけど、これだけたくさんの花があるなら珍しい植物もあるはずだ。ポーションの材料になる植物だって、生えてるんじゃないかな。あとで採取してもいいか、聞いてみよう。
まあ、ひとまずは妖精女王との謁見が先だ。招待状で来たのに、ホストを無視するわけにはいかないからね。ひとしきり飛び回って落ち着いたロロに先導してもらい、女王の元へと向かう。
その途中で目に入るのは不思議な植物の数々。特に多いのは、やけに大きな鈴蘭だ。中には、大きいだけじゃなく窓と扉がついている鈴蘭もある。不思議に思ってロロに尋ねてみると、そういう鈴蘭は花の妖精の家になってるみたい。メルヘンな光景だね。
鈴蘭の住宅地を抜けると、妖精界の中心部にたどり着いた。どことなく人の街のような印象を受けるね。たぶん、その理由は道があるから。ロロみたいに空を飛べる妖精には必要はないけど、地を歩く妖精だっている。そういう妖精たちのために道が整備されているみたいだ。
この辺りになると、すれ違う妖精たちの様子も変わってくる。猫みたいな妖精もいるし、衛兵みたいな格好の妖精もいる。大きさもロロに比べると大きいから、中級妖精なのかもしれない。
「妖精女王はこちらにいらっしゃいます」
ロロの案内でたどり着いたのは、不思議な宮殿。大きさは、僕たちが入っても不自由ないサイズだ。壁は白いんだけど、石っぽくはない。たぶん、大きな花びらが重なって壁になってるんだと思う。床は茎で編まれているように見える。こわごわと足を乗せてみるけど、思ったよりも頑丈でしっかりしてるね。走ったり飛んだりしても問題はなさそうだ。もちろん、しないけど。
宮殿の中央、ちょっと大きめの部屋が謁見の間だ。とはいったものの、仰々しい感じではなく、ちょっとした広間といった感じだった。王座の類いもなくて、おしゃれなテーブルと椅子が幾つか並べられている。ただのイメージなんだけど、貴族のお茶会でも始まりそうな雰囲気だね。
「ようこそ妖精界に。久しぶりのお客様ね。歓迎しますよ。それとロロを連れ戻してくれてありがとう。私が現女王のレティルーカです」
ホスト席に腰を掛けていた女性が優雅な仕草で挨拶をした。カーテシーというやつかな。こういうのって身分が低い方がやるんじゃなかったっけ? まあ、前の世界とは文化も違うだろうし、そもそも詳しく知らないから何とも言えない。背格好はハルファと同じくらいかな。優しげな笑顔が印象的だ。
どう返事をすればいいのかわからずにまごついていると、ハルファが同じような仕草で挨拶を返した。すごく様になっている。
「ハルファちゃん、かっこいいね」
「本当だね」
スピラとこそこそ話していると、「もう! 聞こえてるからね!」とハルファに怒られてしまった。妖精女王もクスクスと笑っている。
「礼法については気にしないで結構ですよ。女王といっても、人の王なんかとは違いますから」
そう言ってもらえるのはありがたいね。正直に言うと、堅苦しい挨拶とか苦手だから。ローウェルたちも同じ気持ちなのか、ほっとしている様子が伺える。
「せっかくのお客様ですから、お茶にしましょう」
女王がそう言うと、二足歩行する猫みたいな妖精がてきぱきとカップとポットの用意をしてくれた。ポットから注がれたお茶はハーブティーかな。
進められるまま席につき、カップに口をつける。心安らぐ香りにほぅと息が漏れた。すっきり爽やかで、味もなかなかいいね。
お茶で一息ついたところで、女王が話を切り出した。
「改めてロロを連れ戻していただき、ありがとうございました」
「いえ、僕たちに原因があるかもしれないんです」
お礼を言われても、ちょっと落ち着かない。引き寄せの札による現象なら、僕たちに原因があるわけだからね。だけど、女王は理由も聞かずに、首を横に振った。
「いえ、原因はこちら……というよりも精霊神様にあるようです」
「そうなんですか!?」
思わぬ言葉に、大きな声が出てしまった。だけど、その直後にもっと大きな驚きが僕らを襲った。
「それについては私が直接説明しよう」
聞き慣れない声が響いたかと思うと、精霊女王の背後に見知らぬ青年が滲み出るかのように現れたんだ。凜々しい顔つきに、均整のとれた肉体を持つ偉丈夫。なんでか上半身は裸で、うっすらと透けた布きれを巻き付けている。格好だけみるとちょっと不審者チックだけど、不思議な存在感のせいか神秘的にも思える。
まあ、それはいいんだけど。驚いたのは女王の発した言葉だ。
「精霊神様!? なぜこのようなところに!」
……えっ、この人が精霊神様なの?
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