聞き逃さない
モヒカン集団を追うティラザとの戦いは避けられない……と思ったのだけど、意外とそうでもないみたい。気絶した一人を抱えて逃げているモヒカン集団は、当然移動速度が落ちているはずなのに、ティラザが追いつく気配がないんだよね。
その光景を見ながら、ハルファたちがのんびりとした口調でお喋りしている。
「すごく遅いね?」
「あの人達も問題なく逃げ切れそう」
『うむ。ティラザは頑丈さが取り柄だが、移動速度が極めて遅いのじゃ』
なるほどね。危険な獣が近くにいるというのに、道行く人達が気にもしてなかったのは、こういう理由か。ティラザの移動速度が遅いから、走れば普通に逃げ切れるんだ。
「で、どうするんだ? 逃げようと思えば、今からでも逃げ切れるが」
「ああ、うん。別に倒す必要がないなら――……」
ローウェルの問いかけに答えようとしたところでハプニングが起きた。例のモヒカン集団の先頭の一人が躓いたんだ。しかも、他のメンバーも巻き込んで。互いに折り重なった状態で倒れているため、起き上がるのにはそれなりに時間がかかりそうだ。ティラザの足が遅いとはいえ、さすがにあのままでは追いつかれてしまうだろう。
「助けよう!」
僕の言葉に、みんなが頷く。僕らの手に負えないような相手ならともかく、Bランク相当なら対処はできるはず。救える命があるのに、手を
「助太刀します!」
「マジか! 助かるぜ!」
折り重なるモヒカン集団に声をかけたら、ニカッとした笑みとともに返答があった。見た目のわりに、快活な性格みたいだね。
ともかく、同意を得られたので遠慮はいらない。
まずはハルファが先制のショックボイス。さすがに、オリハルコン拡声器は周囲への影響が大きすぎるので、通常バージョンだ。
「ギィギャァアア!」
ディラザが苛立ちの咆哮を上げる。ダメージはあるみたいだけど、その足取りに乱れはない。さすがにタフだね。
スピラが氷蔦で拘束を試みるけど、完全に動きを止めるのは難しいみたい。動きは遅いのに大きな力で蔦を引きちぎりながら進んでくる。
ローウェルの斬撃は有効。とはいえ、【刃通し】スキルを使っているはずなのに、傷が浅い。ティラザを仕留めるには、何度も斬りつける必要があるだろうね。
とはいえ、彼の攻撃はどちらかというと気を逸らすことが目的だ。実際、ティラザの注意はモヒカン集団からローウェルへと切り替わった。これで、モヒカン集団に危険が及ぶことはないだろう。
そんな感じで少しだけ膠着状態。でも、すでに手は打ってある。
『む。奴の動きが鈍くなってきたな。チビたちが何かしたのか?』
少しして、ガルナが声を上げた。彼女の言うとおり、ディラザの動きに変化がある。元々素早いとはいえない動きが、さらに鈍重になったんだ。
『アレンたちのお手柄だな!』
「そうだね」
実は、スピラの氷蔦で突進の勢いが弱まった時点で、アレンたちプチゴーレムズをチビボディの状態でこっそりとティラザへと差し向けていたんだよね。警戒されることなく近づいた彼らは、ティラザにディハイドレイト――脱水の魔法を使った。硬い相手にはぴったりの魔法だ。体が大きいから効果が出るにも相応の時間がかかるんだけど、そこは数でカバー。四人がかりで魔法を発動し、ようやく目に見える形で効果が表れたんだ。
そこからは早かった。ティラザはすでに足元が覚束ない状態。スピラの拘束も振りほどくことができなくなった。意識が朦朧としているのか、立つこともできなくなり、横倒しになる。そして、そのまま動かなくなった。
「倒せたのかな?」
「どうだろうね」
ハルファが首を傾げる。つられて僕も同じポーズをとった。
ダンジョンだと、倒したらドロップアイテムを残して消えちゃうからわかりやすいんだけど、外だと判断が難しいよね。死んだと思って近づいたら、突然動き出したりなんてこともありそうだ。
「ピコ?」
「ピコ!」
魔法をかけていたアレンたちは討伐完了と見なしたみたい。互いにうなずき合うと、魔法を解除して僕の下へと戻ってきた。みんなにお礼を言ってから、再びポケットで待機してもらう。
「あんたら、強いんだな! 助かったぜ!」
モヒカン集団のひとりが声をかけてきた。助太刀を申し出たときにも、返答をくれた男の人だ。彼がリーダーなのかもしれない。
「どういたしまして。でも、何でまた手を出そうなんて思ったんです? 危ないですよ」
「いやぁ、面目ねえ。ティラザの肉は絶品で高く売れるんだ。手強いとは知っていたが、俺たちならやれると思ったんだがなぁ」
モヒカンリーダーは自分たちの力を過信していたみたいだ。それ自体は褒められたことではないけど、力量不足を認識できずに周囲に迷惑をかけたことは素直に反省しているみたい。リーダーだけでなく、他のメンバーたちからも謝罪の言葉があった。本当に見かけによらないね。
まあ、それはともかく。ちょっと気になることを言ってたよね。
『おい、聞いたか、トルト! 絶品だって言ったぞ? 美味しいってことだろ?』
僕だけじゃなく、シロルも聞き逃さなかったみたい。やっぱり、そこが気になるよね。美味しい肉なら是非食べてみたい。このティラザは僕らが単独で倒したようなものだから、肉を受け取る権利は僕らにあるはず。
とりあえず、モヒカンリーダーに交渉しようか。そう考えたところで、思わぬ人から声をかけられた。
「あんたら強かったんだな! ティラザは美味いぞ。分けてくれるなら、とっておきの料理をご馳走してやるが」
「本当ですか……って、いつの間に!?」
声をかけてきたのは、逃げていたはずのベエーレさんだ。僕らがティラザを倒したと見て、戻ってきたんだろうけど、本当に素早いね。
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