お宝の分配だ!

「……ダンジョンはどうなったのかな?」


 ハルファが暗い穴の底を眺めながらぽつりと呟いた。カンテラを近づけてみると、どういうわけか大穴は途中から埋まっていて、遺跡ダンジョンなんて始めからなかったかのように何の痕跡も残っていない。


「何もないね」

「夢でも見てたみたい……」


 もちろん、夢なんかじゃないけどね。だけど、ハルファがそう言うくらいには、ただの大穴にしか見えないんだ。元々あった遺跡を取り込んだタイプかと思ったけど、そんな痕跡すら残っていないから違ったのかもしれない。それとも、ダンジョンは崩壊すると全てこんな風になるのかな?


「何にしろ、無事に脱出できて良かったぜ。それにしても、なんでいきなりダンジョンは崩壊したんだ?」


 座り込んだゼフィルがぼやく。

 僕もキグニルの冒険者ギルドが管理していた資料を見ただけだから、あんまり詳しくはない。だけど、たしかこんな風な記述があった。


「ダンジョンには核があって、核が壊れるとダンジョンも崩壊するっていう説が有力らしいよ。ただ、核の見た目や配置されている場所はダンジョンごとに異なるんじゃないかって。そもそも、ダンジョンが崩壊した例が数件しかないからはっきりとわかってないみたい」

「そうなのか。で、今回の核は何だったんだ? 何か壊したか?」


 そう言われると僕も困るんだけどね。可能性があるとしたら、やっぱりアレかな?


「レアメラット……だったりするのかな?」

「マジかよっ! そりゃあ、罠すぎるだろ」


 わかんないけどね。でも、タイミングを考えると、それしか思い当たらない。魔物もダンジョンの核になるのかぁ。本当によくわからないよね、ダンジョンって。


「ま、報告前に探索しておいて正解だったな。ローウェルは探索を提案した俺とハルファに感謝した方がいいぞ」

「結果論だが……、確かにそうかもしれないな」


 呵々と笑うゼフィルに、ローウェルは少し苦い表情で同意した。

 探索せずに冒険者ギルドに報告していた場合、レアメラットを別の冒険者に狩られる可能性がある。レアメラットを倒した時点でダンジョンが崩壊するのなら、ローウェルが尻尾を手に入れる機会はなくなっていたはずだ。


 仮に、他の冒険者に狩られることなく、後日ローウェルが狩ることができたとしても、そのころにはこのダンジョンの有益さが知れ渡って、多くの冒険者がダンジョンに訪れている可能性が高い。意図したことではなかったとしても、その状態でダンジョンを崩壊させてしまうと非難する人は出てくるだろう。


 つまり、レアメラットの尻尾を狙うローウェルにとって、ダンジョンの有益性が広まる前の今が一番ベストな狩り時だったわけだね。


「変に素直だな。調子が狂うぜ……」


 ゼフィルが顔をしかめる。冗談のつもりで言った言葉をローウェルが同意したせいかな。だけど、すぐにご機嫌な表情へと変わった。


「まあいいか。よし、お宝の分配をしようぜ!」


 今回は別々のパーティーが合同で探索した形になるから、分配はきっちりとやっておかないと後々のトラブルに成りかねない。ゼフィルもローウェルもいい人っぽいけど、だからといって適当に済ませていいわけじゃないからね。


「俺はレアメラットの尻尾さえ譲ってもらえるならそれでいい」


 早々にローウェルが宣言する。だけど、さすがにそれでは取り分が少ない。なにせ、ゴブリンたちの所持していた武器も含めると、山ほどの戦利品があるんだから。そもそも、レアメラットの尻尾はかなり希少な素材ではあるけど、用途が限られているせいで需要も少ないみたいだ。需要も供給もほとんどないから、相場なんてないようなものらしい。


「面倒だから、ひとつずつ好きな物を選んでいったらいいんじゃない?」


 結局、ハルファの提案が採用されることになった。金銭的価値はばらつくかもしれないけど、それが一番簡単で納得いく方法かもしれないね。


 僕が入手したのは『貫きの短剣』と『静寂のブーツ』という装備品だ。


 『貫きの短剣』は魔法武器だけど、性能は至ってシンプル。武器の貫通力をアップさせるという術式が付与されている。派手さはないけど、まさに僕が求めていた効果だ。最近、ナイフでの攻撃力不足が気になっていたけど、この短剣なら多少はマシになると思う。


 『静寂のブーツ』は装備者の立てる音を軽減する効果がある魔法のブーツだ。不意打ちと奇襲でダメージを稼ぐ僕にはぴったりのアイテム。しかも、防御効果も高いのが嬉しいね。ちなみに、ダンジョン産のアイテムだけあって、サイズは装備者に合わせて自動的に調整されるみたい。全てではないけど、ダンジョン産のほとんどの装備品にはこういう便利な機能があるので助かる。


 ハルファが選んだのは『理力の弓』と軽量化されたチェーンメイル。『理力の弓』の最大の特徴はマナを消費することで魔法矢を生成し放つことができること。マナ量が十分にあれば、矢の消費を気にせず射撃することができるし、魔法矢なので物理的に硬い敵が相手でも有効なのが便利だね。


 他のメンバーも各々、自分の欲しいものを入手できることができたみたいだ。余ったアイテムはシロルの取り分となった。もちろん、シロルが使うわけじゃなくて、換金しておやつ代にするんだ。とはいえ、おやつを作るのは僕なんだけどね。


 さて、装備品の分配は終わったけど、まだよくわからないアイテムが残っている。レアメラットがドロップした謎のコインだ。


「ローウェルは何か知ってる?」

「何かしらの金属をランダムでドロップすると聞いたが……」


 どうやらドロップはランダムらしい。まあ、鑑定ルーペで確認すればいいんだけどね。


 確認した結果。このコインは『レアメラットのコイン』という、そのまんまのアイテムだった。特殊な効果もないし、どこで使えるわけでもない。あえて用途を挙げるなら、美術品かな。でも、価値がないわけじゃない。というか、とんでもない価値のアイテムだった。


 このコイン……純ミスリル製だ!


 ミスリルはいわゆる魔法金属でマナの伝導性が非常に高い。その特性を利用して、魔法武器や高級魔道具に使用される。基本的にはダンジョン産で流通量はごく少数。希少性と有用性から高値がつくんだ。


 コインはシロルを含めた頭数で六等分することになった。そうなると、一人分ではさすがに武器に加工するほどの量はなくなる。


 僕らは合わせて三人分だけど、今のところは収納リングの中で眠らせることになるかな。そもそもミスリルは加工にも高い技術が必要になるらしいから、職人さんに当てもないしね。

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