第二部 精霊誕生

幸運が呼ぶクローバー

 キグニルを出発した僕たちは、ひとまずの目的地を王都ガロンドに定めた。このリーヴリル王国で最も栄えている都市だからね。情報収集にはもってこいだ。たぶん。


 キグニルから都市間馬車が出ているので、それを乗り継いでいくという選択肢もあったけれど、僕たちは歩いて移動している。ガロンドに確実に手がかりがあるというわけでもないし、逆に途中の村々で思わぬ手がかりが手に入る可能性もあるからね。だから、急がずのんびり旅することにしたんだ。


「おやおや、こんな村に子供だけでどうしたんだい?」


 立ち寄った村でおばあさんに声をかけられた。

 12歳コンビに、ペットにしかみえないシロル。たしかに、僕たちって冒険者には見えないよね。一応、それらしい装備はしてるんだけど。


「僕たち、これでも冒険者なんです。王都に向かう途中ですよ」

「おや、そうかい。王都までは遠いだろう。大丈夫なのかい?」

「大丈夫だよ。のんびり向かうから!」


 ハルファがニパァと笑顔を見せると、おばあさんも相好を崩して「そうかいそうかい」と頷いた。完全に孫にするような態度だね。まあ、いいんだけども。


「おばあさんは翼人を見たことある?」

「そこのお嬢ちゃん以外にかい? 残念ながらないねぇ。私はこの村からほとんど出たことがないから。少なくとも、この村に翼人が来たことはないはずだよ」

「そっかぁ」


 まあ、そうだよね。そう簡単に情報が手に入るとは思っていない。こういうのは地道に聞き込んでいくのが重要なんだ。


 その後、幾つか話を聞いておばあさんとは別れた。

 今日はこの村に宿泊するので、宿を確保しないと。この規模の村だと宿屋なんて一つしかないから、選択の余地はないんだけどね。街道が近いとはいえ、この村は少し外れた場所にあるし、都市間馬車も停車しない。だから、歩き旅の人くらいしか利用しないんだ。


 宿屋は村の入り口のすぐそばにあった。入ってすぐに、無愛想なおじさんがジロリと視線を向けてくる。


「泊まりか? 一部屋でいいか?」

「大丈夫だよ!」


 僕が何かを言う前にハルファが答えた。最近、宿をとるときは一部屋で取るんだよね。山猫亭のときは一人部屋で過ごしていたんだけど、レイたちと別れてからハルファは少し寂しがり屋だ。まあ、僕たちはまだ子供だし問題ないけどね。シロルだっているし。


 宿は食事もない素泊まりだ。料理は調理済みのものが収納リングに入っているので、問題はない。


「さて、今日はもう休むとして、明日はクローバー畑にでも行ってみる?」

『クローバーがいっぱいだってな!』

「金色四つ葉がみつかったら、幸せになれるんだってね!」


 さっきのおばあさんに聞いたんだけど、この村近辺の見所として、広大なクローバー畑があるみらいだ。畑っていっても、管理しているわけじゃないらしいけど、一面にクローバーが生えている場所が近くにあるんだって。そのクローバーの中にはごく稀に金色の四つ葉のクローバーがあって、見つけた者に幸せが訪れるっていう話だ。前世でも四つ葉のクローバーは幸運を呼ぶと言われていたから、似たようなものかな?


 キグニルにいるときに薬草については結構調べたんだけど、金色四つ葉は薬の材料にもなるんだよね。見つかるのがごく稀だから、なかなか良い値段で売れるみたいだ。そういう意味ではたしかに見つけたら幸せになれるね。たぶん、そういう意味じゃないと思うけど。




 翌日。僕たちは、クローバー畑に向かった。


「見渡す限りクローバーだ」

「本当だね!」


 いや、思ったよりもクローバーだらけだった。管理もしてないのに、こんなに群生するものなのかな。ちょっと不思議。


「よぉし、誰が最初に、金色四つ葉を見つけるか競争ね!」

『おお、負けないぞ!』

「あ、うん」


 ハルファが宣言し、金色四つ葉探しの競争が始まった。

 でもさ。薬草採取のときの経験から考えると、きっと僕が圧勝するんだよね。


 試しに、近くのクローバー群に手を入れ、1株掴んでみる。

 ……うん、金色四つ葉でした。


 幸運値が仕事をしているせいか、こういう希少な薬草がポロポロ見つかるんだよね。その後も、一発とはいかないものの、何度か繰り返すと金色四つ葉が見つかる。


「えぇ!? トルト、もうそんなに見つけたの?」


 10株ほど見つけたところで、ハルファに見つかった。


「うん。僕はほら、幸運値の影響で……」

「ああ、そうか! これじゃあ、さすがに勝負にならないね。よし、それじゃあ、シロル。一対一で勝負だよ!」

『むぅ。トルトには負けたけどハルファには負けないぞ!』


 おっと、勝負の相手から外されてしまった。

 いや、僕は僕で探すけどね。他にやることもないし。貴重なものらしいから、採取して損はない。問題は乱獲したら他の人が採取する分がなくなっちゃうことくらいだけど。これだけクローバーが生えてるんだから、僕ひとりが採取する分くらいどうってことないよね!


 そのあとしばらく、僕たちは黙々と金色四つ葉の採取を続けた。ハルファとシロルの勝負はというと、シロルの勝ち。そういえば、前に鑑定させてもらったけど、シロルの幸運値も結構高かった気がする。さすがにハルファの分が悪かったかな。


 僕は途中から採取するのは止めた。さすがに100株あれば十分かなと思って。幸運を呼ぶクローバーというよりも、幸運が呼んだクローバーだよね。


『なあなあ、トルト。たくさん集めてたな。それはどんな食べ物になるんだ?』


 勝負を終えたシロルが僕にそんなことを聞いてくる。もしかして、僕が集めるものは全部食べ物関連だと思ってる? たしかに、蟹と肉とか集めてたけどさ。


「残念ながら食べ物として使うわけじゃないよ。薬の材料にはなるみたいだけどね」

『そうなのか……』


 僕の言葉は聞いたシロルは、しゅんと俯いてしまった。期待させてしまったみたい。なんかごめんよ。

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