28. ちょっと大きいの
ふぅ、良かった。レイたちは無事だし、ほかの冒険者もどうにか持ちこたえている。間に合ったみたい。
いや、焦ったよ。ローゼフさんと神様たちにキグニルへ行くと連絡したあと、ちょっと様子を見ようかなと思ったらこの状況だったから。慌てて夢見の千里鏡に飛び込むことになっちゃった。ハルファたちはその場にいたから一緒についてきてくれたけど、プチゴーレムズはまだマジックハウスの外で見張りをしているはずだ。あとで連れてこないとね。
ささっと周囲を見回すと、敵は二種類だね。ダンジョンの入り口付近でおしくら饅頭みたいにひしめいている巨大な銀の塊たちがボスで、大量の土ゴーレムがその手下かな。銀饅頭を排除するにも、まずはゴーレムを退治しないと。
「トルト、私たちがゴーレムを倒すよ!」
「あ、ちょっと待って、ハルファ。アレを出そう」
「アレ?」
『わかったぞ! ハニワナイトだな!』
「そうそう」
早速ゴーレムたちを倒そうとするハルファたちに制止をかける。せっかくの戦力があるなら、有効利用しないとね!
「レイ! ちょっと大きいの出すけど、いいかな?」
「大きいの? よくわからないが、この状況をどうにかできるなら、遠慮なくやってくれ」
「ありがとー! 危ないからちょっと離れててね!」
取り出すのは、巨大ゴーレム。アルビローダで銀勢力幹部の石鎧を打ち破ったあの埴輪だ。一応、ハニワナイトって名前をつけたけど、あまり使う機会がないから、普段は収納リングの中で休眠状態になってるんだよね。こういう機会に使ってあげないと。
「うおっ!?」
「デカいって……デカすぎでしょ……」
「流石、トルト君だね……」
ハニワナイトの全長はおよそ20m。当然、それ相応に横幅もある。この世界だと、なかなかない巨大さだ。それが突然現れたものだから、レイたちはぽかんと口を開けている。
あ、でも、しまったな。ハニワナイトは土色だから、周囲の獣型ゴーレムと材質が似てる。ひょっとしたら、敵の新手だと勘違いされるかも――――
「な、なんだ、あの巨大な……なんだ?」
「細かいこと気にしてる場合か! ゴーレムには違いないだろ!」
「む、無理だろ! あんなデカブツと戦うなんて!」
「くっ……アレなら、まだ粘銀の親玉に特攻した方が勝機が……」
「いや、待て。あの少年が出したように見えたが……」
「馬鹿! あんなの人が扱えるような代物じゃねえだろ!」
ああ、やっぱり!?
なんか想像以上に、混乱をもたらしてしまったみたい。
「落ち着け! この巨大ゴーレムは味方だ!」
いち早く立て直したレイが、味方だって伝えてくれるけど、それでも冒険者たちの動揺はおさまらない。これはもう、戦って見せた方がいいかもね。敵をガンガン倒せば、味方だってわかってもらえるはず。
「いけ、ハニワナイト!」
僕の号令とともに、ハニワナイトが目を覚ます。巨体からは想像できないほどのスムーズな動きで、一歩を踏み出した。それだけで、足元の獣型ゴーレムが蹴散らされていく。
「「「やべぇ」」」
周囲の冒険者がどよめく。
お、おかしいな。僕の予想では、ハニワナイトの活躍に歓声が上がるはずだったのに。
あんまり盛り上がらなかったけど、そんなこととは関係なくハニワナイトは敵を倒していく。倒すっていうか、踏んづけてるだけだけど。体格差がありすぎてまともに戦いにならないんだ。
ただ、その体格差がちょっと面倒でもある。踏んだり蹴ったりしか有効な攻撃手段がないんだ。いっそ、寝転んでゴロゴロ転がったら楽に倒せそうだけど、さすがにここでやると危ない。みんなを巻き込んじゃうからね。
そうやって戦果を重ねていくと、流石にハニワナイトが味方だって認識ができたみたい。冒険者たちも少し落ち着きが戻って、ハニワナイトが取りこぼした獣ゴーレムを倒しはじめた。
まあ、気になるのか、チラチラと上を見上げてるけど。集中力に欠けた状態だ。本来ならば望ましくないけど、今のところ問題はない。だって、戦力が圧倒的だから。
大量の獣ゴーレムはみるみるうちに潰されて数を減らす。このままなら、敵ゴーレムを全滅させるのも時間の問題だ。それは、敵もわかっているはず。だからか、銀饅頭たちも戦法を変えてきた。
「土が盛り上がっていくぞ!」
「ヤツら、アレに対抗するつもりか!?」
数より質っていうことかな。獣ゴーレムを幾つ作っても対抗できないと悟った五体の銀饅頭は、全員で協力して大きなゴーレムを作ることにしたみたい。周囲の土をごっそり使って、巨獣の体ができあがっていく。その大きさはハニワナイトに匹敵するほど。完成すれば、脅威になることは間違いない。
ただ、ちょっと生成ペースが遅い。できあがるのを待ってあげるつもりはないよ!
「ハニワナイト! 粉砕だ!」
僕の指示にハニワナイトが駆けた。地面が揺れて、土がまき散らされる。近くにいた冒険者にはちょっと申し訳ないね。でも無理をした甲斐あって、ハニワナイトは組み上がりつつある巨獣の目前に迫った。そして、容赦なく拳を叩きつける。
完成前だったからか、それとも別の理由があるのか。巨獣は案外脆くて、ハニワナイトのパンチひとつで体を保てなくなった。ばらばらと土煙になって消えてく。
だけど、それすらも敵の狙い通りだったのかもしれない。きっと、ヤツらの狙いはハニワナイトを自らのそばにおびき寄せることだったんだ。
「ああっ!?」
方々から悲鳴のような声が上がる。五体の銀饅頭がハニワナイトに飛びかかり、呑み込もうとしてた。
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