仲間になりたそうにこちらを見ている
ハルファを解放した功績もあって、パンドラギフトに関する説教は軽いお小言で済んだ。やったね!
さすがに僕の部屋で話をするのは窮屈だから、もう一度食堂に移動する。何度も申し訳ないけど、レイラさんもブラスさんも快く場所を貸してくれた。今度、何かお礼をしないと。
「えっと……、みんな、助けてくれてありがとう」
突然泣き出しちゃったのが恥ずかしいみたいで、ハルファはさっきからもじもじとしている。
違法奴隷から解放されたんだ。感極まって泣き出してもおかしくはない。恥ずかしがることなんて、全然ないのにね。
それからハルファのことを色々と聞かせてもらった。
ハルファは僕と同い年の12歳。やっぱり翼人だったみたい。しかも、レイによると、白い翼を持つ翼人は種族内でも特別視されている氏族なんだとか。当のハルファはピンときてなかったから、ハルファがその氏族の一員かどうかはよくわからなかったけど。
違法奴隷になった経緯だけど、彼女は無法者による奴隷狩りの被害にあったみたいだ。ある日、氏族が生活する郷から出たときに、見知らぬ男達に拉致されてしまったらしい。それから、多くの奴隷たちと一緒に移動させられ、気がつけばキグニルにいたんだって。
「大変だったのね」
ミルがハルファを抱きしめて、よしよしと頭を撫でている。奴隷としての生活はやっぱり辛かったんだろう。話の途中から、ハルファはまたポロポロと涙が止まらなくなってしまった。けれど、ミルがああして慰めてくれているから、今ではずいぶんと落ち着いている。
どうにかして、家族のもとに帰してあげられたらいいけど。
「翼人が住むと言われている場所はいくつかあるが、正確な位置を知る者はほとんどいないはずだ。それほどまでに、翼人は他種族との交流を断っている」
「ハルファちゃんが場所を把握していればいいけど、話を聞く限りちょっと難しそうだよね……。結構、距離も移動したみたいだし」
レイ、そしてサリィの言葉通り、現状ではハルファをすぐに元の場所に帰してあげるのは難しい。もちろん、都市に出る翼人が皆無ではないから、そんな人たちと接触を持てればどうにかできるとは思う。
それでも当座の生活をどうするか、考えないといけない。レイの家で、何かお手伝いとして雇って貰えれば、どうにかなりそうだけど。
「ハルファはどうしたい?」
落ち着いたところで、ハルファに尋ねてみた。彼女はちょこんと首を傾げてから、僕を見て言った。
「お兄ちゃんはどうしてるの?」
「うへぇあ!?」
ビックリして変な声が出ちゃった。
お兄ちゃん? 僕のこと?
ハルファはというと、顔を真っ赤にして体の前で両手をワタワタと振っている。
「ち、違う! トルト! トルトはどうしてるの?」
ははぁ。これは、あれだね。学校の先生をお母さんって言っちゃうやつ。
あの恥ずかしさは体験した者にしかわからない! 僕にはわかってしまうので、ここはスルーしてあげよう。
「僕はレイたちとパーティーを組んで、冒険者をやってるよ。宿はこの山猫亭だね。ご飯も美味しいし、いい宿だよ」
「じゃあ、私も冒険者やる! 山猫亭に泊まる!」
ハルファは両の拳を握りしめてガッツポーズだ。迫力はまるでないけど、やる気は伝わってくる。
「山猫亭はともかく、冒険者? 危ない仕事だよ? 魔物と戦ったりもするんだ」
正式に冒険者になってから危ないと感じたことはあんまりないけど、それでも一歩間違えれば命を落としかねない仕事だ。自分のことは棚に上げて言うけど、あんまり人にオススメできる仕事ではない。
だけど、ハルファもこの程度では怯まないようだ。
「大丈夫だよ。私、弓矢でヒョイって狙うの得意だよ! それに私の歌は特別なんだって」
「弓矢はともかく、歌?」
「そうだよ。私の歌を聞くと、元気が出たり、力が湧いたりするんだって!」
そんなこと、あるんだろうか?
詳しそうなサリィに視線をやると、目をキラキラと輝かせていた。
うん、興味津々って感じだね。
「それって、歌唱魔法だよね! 限られた種族だけが使えるって聞いてたけど、翼人も使えるんだね~」
「うーん。みんなが使えるわけじゃないよ。でも、私のお母さんも使えるよ」
「そうなんだ! それじゃあ――」
ウキウキで話し始めたサリィは置いといて。
どうやら、ハルファには歌唱魔法という力があるみたい。自己申告ながら、弓矢も使える、と。
ソロ向きじゃあないけど、確かに冒険者でもやっていけそうな気がする。少なくとも、ギルドで講習を受ける前の僕よりは、よほど冒険者に向いた能力を持っているね。
レイに視線をやると、彼はフッと笑って頷いた。
「俺はいいと思うぞ。ハルファの故郷を探すにしても、一所に留まっていては限界がある。都市間を移動するにあたって、本人が戦えるようになっておくことは悪いことじゃない」
確かにそうかも。冒険者にならなくても、危険はあるんだよね。だったら、冒険者として実力を身につけたほうが安全か。栄光の階はいいパーティーだしね。無理せずに経験を積むにはこの上ない環境だ。
「心配ならトルトが守ってあげればいいのよ! お兄ちゃん、でしょ?」
ミルがからかうように言ってくるけど、それは僕じゃなくハルファに効くやつだよ。
案の定、聞いていたらしいハルファが顔を赤くして「違うから」を連発している。でも、雰囲気は悪くない。
これが新しい『栄光の階』ってことかな。まあ、活動を始めるにはもうちょっと準備が必要だけど。まずは、ハルファの冒険者登録をしないとね。
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20220701
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