それはさっき見た
無事にダンジョンから脱出した僕たちが真っ先に向かったのは冒険者ギルド。シロル用の従魔の印を貰うためだ。受付カウンターにはニーナさんがいたので、そちらに並ぶ。
「みんなはどうする?」
「おそらく、色々と話を聞かれることになるだろうから、俺は残ろう。トルト一人で証言するよりは信憑性が増すだろう」
確かに、聖獣とかのことを話すんならレイがいてくれた方がいいかも。ニーナさんがレイの素性を知っているかどうかはわからないけど、少なくとも僕一人よりは説得力があるよね。
「そう。それじゃあ、私達は魔石類を換金しておくわ」
「わかった。そっちはお願いするよ」
ミルが申し出てくれたので、収納リングからこっそりと魔石を取り出して渡した。他にもドロップ品はあるけど、さすがにここで取り出すと収納リングの存在がバレるからね。また今度にしよう。
ミルたち三人を見送って間もなく、僕たちの前に番が回ってきた。
「ニーナさん、従魔の印が欲しいんですけど」
「従魔の印、ですか? もしかして、魔物をテイムしたんですか?」
「んー。魔物……なのかな? とにかく、必要になりまして」
「……? 一応、念の為に確認させてもらってもよろしいですか」
確認かぁ。
目立つかなと思って、シロルには腕輪の中で待機してもらっている。ここでいきなり現れたら、かえって目立っちゃうよね。裏目に出たかな。
「あの、ここではちょっと……」
「ええ、もちろんです。外にいるんですか?」
「ひとまず、どこか部屋を貸してもらえませんか?」
「部屋……ですか?」
ニーナさんは戸惑っているようだけど、ここで細かく説明するのも難しい。どうしたって人の耳に入るからね。
なんとかニーナさんを説得して、応接室みたいなところを用意してもらった。ここなら、一目を気にせずシロルを呼び出せる。
「じゃあ、今から呼びますね」
「え、呼ぶ? ここで?」
戸惑うニーナさんをそのままに、僕はシロルに呼びかける。
『シロル。悪いけど、ちょっと出てきてもらえる?』
『お、わかった。今いくぞ』
僕の内心だだ漏れ問題は、わりとあっさりと解決して、シロルに伝えたいことだけを伝えることができるようになった。シロルが空気を読んで気が付かないフリをしてなければ、だけど。
それはともかく、僕の呼び掛けに応えてシロルが現れた。挨拶のつもりなのか、赤ちゃん座りした状態で右前足を振っている。なかなかあざといポーズだ。シロルにそんなつもりはないと思うけどね。
「この子です。あの……ニーナさん?」
「あっ、はい! この子ですか。あの……とても可愛らしいですね……!」
ニーナさんはシロルを見るなりフリーズ状態になってしまっていた。しかも、理由は『突然現れたから』ではなくて、『あまりの可愛さに』みたいだ。さすが、シロル!
とはいえ、ニーナさんも職業意識が高い、しっかりとした大人だ。正気に戻ってからは、きっちりと仕事をしてくれる。
「このくらいのサイズなら一般的な従魔印付きの首輪で大丈夫そうですね。すぐに用意します。……それにしても、珍しい生き物ですね。魔物……なんでしょうか?」
「ああ、それは――」
『僕は聖獣のシロルだぞ。よろしくな!』
僕が順を追って説明しようとしたその前に、シロルがシュパっと立ち上がって、陽気に挨拶をした。おそらく【思念伝達】を使ったんだと思う。ニーナさんが驚き立ちすくんでいる。
「喋った……? え、せいじゅう?」
「そう、聖獣だ」
事態が飲み込めていないニーナさんに、今まで沈黙を保っていたレイが重々しい口調で言った。
「聖獣……」
うわ言のようにそう言うと、ニーナさんはシロルと僕の間で何度か視線を行き来させ、最後にもう一度レイに視線を戻した。
「聖獣……?」
ニーナさんがバグった!
いや、確かにシロルに聖獣っぽい威厳みたいなものはないし、僕にしたって聖獣を従魔にするような特別な存在には見えないだろうから、受け入れがたいのはわかるけれど。
「にわかには信じがたいだろうが、我々はそう考えている。先程、言葉のようなものが伝わってきただろう? 少なくとも単なる魔物でないことは明らかだ。ギルドマスターにも報告しておきたい」
レイの言葉にコクコクと頷くと、ニーナさんは慌ただしく部屋を出ていった。
「ギルドマスターに報告するほどのことなの?」
「わからんが、なにかあるかも知らないだろ。一応、報告しておいた方がいい」
うーん、ここまで大事になるとはね。特別な存在とは思ったけど、わざわざギルドマスターに直接報告する必要があるとは思ってなかった。シロルを見てると、そんな大袈裟な存在には思えないけどなぁ。
しばらくすると、ドアがノックされた。レイが「どうぞ」と返すと、二人の男性が入ってくる。
一人は初老の男性。おそらく、現役ではないんだろうけど、冒険者を思わせるガッシリとした体格で、強者の雰囲気を纏っている。おそらく、ギルドマスターなんだろうね。
もう、一人はドルガさんだ。なんでこんなところにいるんだろう。相変わらずよくわからない。
ギルドマスターらしき人物は、レイを見て一瞬動きを止めた。ギルドマスターくらいになると、街の有力者のやり取りすることもあるだろうから、きっとレイのことも知っているんだろう。でも、今はあくまで冒険者として接することにしたって感じかな?
「私は冒険者ギルドのマスター、マドルスだ。ニーナから話は聞いた。聖獣を連れているという話だが」
やはり、男性はギルドマスターだったみたいだ。ギルドマスターは部屋を見回し、笑顔で手を振るシロルに目を留め――
「聖獣……?」
訝しげな表情でそう呟いた。
この展開、さっきも見たよ!
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