42. 背教者ユーダス
傷の男の凶行にみんな言葉をなくしている。そんな中、真っ先に反応したのはガルナだった。
『ユーダス、貴様、生きていたのか!?』
ガルナの声に含まれるのは驚きの色。どうやら、傷の男を知っているみたい。
「おや、まさか? まさかまさか、ガルナラーヴァ様では?」
ユーダスと呼ばれた男が喜色を浮かべた。一般的に邪神と知られるガルナラーヴァに様をつけるってことは、ガルナの元信徒なのだろう。もしかして、かつて銀の異形の調査に出てから消息が掴めなくなっていた人かな?
『何故、貴様が異形どもの手下になっているのじゃ!』
「それはもちろん偉大さを知ったからですよ」
怒るガルナに、ユーダスがニヤニヤと笑みを見せる。そこに敬意は欠片見当たらなかった。ユーダスの信仰がすでにガルナから離れているのは明らかだ。
ダンジョン化の技術が渡っている以上、元信徒が銀の異形たちに取り込まれている可能性は考えていた。それにしても、こうして明確に自我を保った形で立ち塞がってくるとは予想外だ。銀の浸食を受けても、意識は残るんだろうか。それとも、知識を受け継いだだけの偽物なんだろうか。
「それにしても何ですか、そのお姿は。邪神と恐れられた面影もない……。そうだ、ガルナラーヴァ様も我らの下にいらしてください。新たに作る教団の神としてお迎えしますよ! もちろん、銀の力を受け入れてもらいますが。なに、馴染んでしまえば些細なことだとわかりますよ」
銀の力はこの世界にとっては異質な力。そんなものをガルナが受け入れるわけがない。だというのに、ユーダスはまるで名案だというように笑う。やっぱり、正常な状態とは思えない。
『何を馬鹿なことを言っておるのじゃ! 断る!』
「これほど素晴らしい力を理解できないとは残念です」
『それはこの世界を蝕む侵略者じゃぞ! それに父様が異界で戦っておられる。直にその根源も根絶やしにされることじゃろう!』
きっぱりと拒絶するガルナ。ガルナが父様というのは、この世界の創造主。異形たちの侵略に気付いて、単身異界に飛び込んだんだって話だ。
しかし、ユーダスは気を悪くするどころか、狂ったように笑う。
「はっははぁ! これは傑作。まだ、かの神が抵抗を続けていると本気で思っているのですか? ならば教えてあげましょう。かの神は死にました!」
『なっ!? そんな……嘘じゃ!』
「嘘ではありませんよ。だからこそ、我々がここにいるのです。かの神はずいぶんと邪魔をしてくれましたが、無事排除できました。これでようやく侵攻に力を尽くせる!」
ユーダスは異形勢力を“我々”と呼んだ。アイツの帰属意識は異形たちとともにあるみたいだね。銀の力を受け入れると、精神的にも変質してしまうのは間違いなさそうだ。
それにしても、創造神様が死んだ、か。事実かどうかはわからないけど説得力はあるかな。異形たちの最初の侵攻は廉君が神様となるよりも遙か昔。すでに何千年も前のことらしい。その間止まっていた異形たちの侵攻が再開されたからには、何か大きな変化があったはず。それが創造神様の死であってもおかしくはない。
とはいえ、ガルナにとっては認められない内容だ。さきほどから『嘘じゃ! でたらめじゃ!』と否定の言葉を繰り返している。だが、ユーダスは余裕の表情だ。
「信じてもらえないとは悲しいですね。私はかつてアナタに尽くした信徒であったというのに」
言葉とは裏腹に、ユーダスの顔に悲しみは一切感じられない。
「まあ、いいでしょう。いきなりわかってもらえるとは思っていません。少しずつ、体に馴染めばアナタにも理解できるでしょう。銀の力の素晴らしさがね!」
ユーダスがガルナに右手を向けた。そこから生えた銀の腕が伸びて、ガルナへと迫る。もちろん、そんなことはさせない!
「〈クリーン〉」
会話を邪魔しないように控えていたけど、いつでも放てるように用意はしていたんだ。浄化魔法によって銀の腕は輝きを失い黒く縮れた。
「ガルナ、注意して!」
『わかっておる!』
銀の異形が黒く変色したときは、完全に浄化できていない証拠だ。表面は削れても、中身は無事なことが多い。実際、黒い外皮が剥がれたあとは、ほとんど変わらない銀の腕が現れた。
「なるほど、これが正体不明の浄化の力ですか。たしかに、厄介ですが……」
ユーダスが不気味に微笑む。思わず身構えるけど、ヤツはこちらの反応を気にもせずに、踵を返した。
『逃げる気か!』
その背中に向けてガルナが叫ぶ。ユーダスはチラリと振り返り、首を振った。
「私は忙しいのですよ。浄化の力については把握しておいた方が良いかと思い直接確認に来ましたが、この程度なら問題ありません。あとは部下たちが上手くやってくれるでしょう」
『待て!』
ガルナの制止を無視して、ユーダスはその場を去って行く。その背中を守るように、二人の男が立ち塞がった。どちらも銀の傷がある教団の幹部だ。
「お前たちの相手は我々がしてやろう」
「ふふふ、銀の力を存分に揮える機会はなかなかないのでな。感謝するぞ!」
そう言うと、二人は呪文を唱えはじめた。
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