特殊個体の襲撃
スピラ、ローウェル、シロルのところを回った後、シャドウリープでアレンの元へと転移する。景色が変わるとともに、ざわざわとした喧噪が耳に入った。うん、戻ってきたって感じがするね。
「ニャ!? トルト、お前どこから現れたニャ!? 導師会に連れて行かれたんじゃなかったのかニャ?」
転移したのは冒険者ギルドだったみたい。そういえば、アレンに冒険者ギルドに向かうように指示していたっけ。アレンが事情を説明したのか、ラーチェさんと向かい合って話をしていたみたい。そんなタイミングで僕がひょっこりと姿を現したものだから、ラーチェさんは驚いているようだ。最近はグレイトバスターズのレイモンさんが書類仕事を代行していたんだけど、今日はラーチェさんがギルドにいるんだね。
「ちょっと変な空間に捕らわれたので逃げてきました」
「ニャんだって!? 他の奴らはどうしたのニャ?」
「たぶん、もうすぐ戻ってくると思いますけど……」
そう言った瞬間、影から滲み出すかのようにシロルが現れた。それほど間を置かずに、他のみんなも転移してくる。
「揃ったみたいですね」
「あいかわらず非常識な奴らだニャア……」
「いや、それはトルトだけだ」
呆れ声のラーチェさんに、ローウェルが突っ込みを入れる。それはいいんだけど、僕だけ除外するんじゃなくて、非常識だってことそのものを否定してくれればいいのにね。
まあ、今は情報共有が先決だ。教導の間でのことをラーチェさんに話す。話しているのはラーチェさんだけど、多くの職員、冒険者たちがこちらのことを気にしているみたいだ。こちらとしても隠す気は無い。むしろ広まって欲しいと思っているので、いつもより大きな声を意識して話した。
「教導長の一人が邪教徒に洗脳さていたのかニャ。そいつの洗脳が解けたとして、他にもいないとは限らないからニャ~……。それにゴドフィー。あいつも裏にいたみたいだニャ!」
ラーチェさんは渋い表情を浮かべたり、憤ったりと百面相した挙げ句にそう締めくくった。周囲で聞いていた冒険者たちも概ね同じような表情を浮かべている。統治機構である導師会にまで邪教徒の影響が及んでいることが確定的になったわけだからね。魔物相手の切った張ったなら
「導師会がどう出るか、だニャ」
「僕たちをあれだけ強引に召喚したんです。警備隊の人達も不信感を覚えているようでした」
「開き直って強引な行動を取ってくるか……、それとも俺たちに適当な嫌疑でっちあげて今まで通りの姿勢を貫くか」
「ゴドフィーが暗躍している状況はギルドとしてもまずいニャ! とにかくアイツを捕まえニャいと……」
僕とラーチェさんとローウェルの三人で、導師会への対応を考える。
僕らの中では導師会と邪教徒の繋がりは確定的なのだけど、多くの街の人達にとってはそうでないことが問題なんだよね。下手に騒ぎ立てると、僕らが悪者になってしまう可能性がある。邪教徒の洗脳を受けていない上層部のメンバーと接触できればいいんだけど、どれくらい侵食が進んでいるかわからないんだよね。まあ、接触時に問答無用で浄化するっていう手もあるけどね。
そんな風に色々と考えている最中、どやどやとギルドの入り口に駆け込んでくる人がいた。
「ラーチェ!」
「ニャんだ!? って、お前かニャ。そんなに慌ててどうしたニャ?」
駆け込んできたのはグレイトバスターズのメンバーであるトルタさんだ。その様子は尋常ではない。
「魔物の群れがアイングルナに押し寄せてる! スライムだけじゃなくて他の魔物も! しかも、たぶん特殊個体だと思う!」
「ニャんだって!?」
アイングルナの第一階層には本来ならばスライム系の魔物しか出ない。トルタさんの話が本当なら間違いなく異常事態だ。しかも、押し寄せてくるのが特殊個体だというなら、迂闊に倒すこともできない。街の防衛には偶然居合わせたグレイトバスターズの人達が協力しているけど、数を減らせないので困っているらしい。
「トルト! 協力して欲しいニャ!」
「もちろんです!」
これでも運命神の使徒だからね。邪神から街を守るのは当然の役割だ。
「こっちよ」
トルタさんの先導に従い、走る。すでに市壁の各所で戦闘が起きているみたいだけどね。とりあえず、戦いを指揮しているはずのザッハさんのところへと向かっている。帯同するのは僕らを含めて数パーティー。ラーチェさん含め、他の人達は人数を集めてからやってくる手はずだ。
行き着いたのは門へと繋がる通りの一角。すでに内側に侵入されているみたいで、即席のバリケードのようなものを築いて対抗しているようだ。とはいえ、状況はかなり悪い。なんと言っても、魔物を倒せないのが問題なんだよね。中にはうっかりと倒してしまったのか、ぶつぶつと何かを呟いている人やそこら辺に転がされている人もいる。そのまま放置されているのは、手が足りないからだろう。
とりあえず、“声”の影響を受けていそうな人には片っ端からクリーンをかけていく。キラキラと光を放つのは邪気が浄化されている証拠だ。思った通り、それらの人達は“声”の洗脳を受けていた。
とりあえず、十人くらいの邪気を浄化したけど、なかなかマナ消費が激しい。巨鳥みたいに一回でマナがごっそりと減るほどじゃないけど、押し寄せてくる魔物に一体ずつ浄化をかけていたら、とてもマナが足りない。これ、僕一人で浄化するのは無理だね。
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