お迎え(トルト視点)
「んー、この展開は予想外だったなぁ」
何もない白い空間で、僕はひとり呟いた。
分断される可能性は考えていたんだけどね。それでも別々の牢に入れられるとか、その程度のことを考えていた。それがまさか、こんなよくわからない空間に閉じ込められるとは。
あの魔法陣はかなり大規模な物だった。それを転移に使ったのはちょっと意外だったね。あれが直接攻撃だったら、大怪我をしていたかもしれない。まあ転移させた方が手っ取り早く無力化できると思ったのかな。実際、命の危機がある場合、【運命神の微笑み】が発動して一日に一度ならどうにかなるからね。最近は、襲撃を警戒して、ステータス向上薬の作成も控えていたし。
もう少し気付くのが早ければ、ルーンブレイカーで魔法陣を壊すこともできたんだけど。まあ、向こうも僕の手口は知っているから、当然警戒していたんだろうね。
「さて、反応はあるかな?」
まず試したのは物探し棒。これで仲間の反応を探ってみようと思ったんだ。とりあえず、ハルファを探索対象に指定して、物探し棒を放り投げてみる。
「んー、反応はないね」
残念ながら、棒は明確な方向を示すことなく、ばらばらの向きで地面に落ちた。効果の範囲外にハルファがいる可能性もあるけど……たぶん、別の空間にいるんだろうね。
そのあと、シロルやスピラ、ローウェルについても同じように探してみたけど、反応はなし。きっと、みんなバラバラに捕らえられているんだろう。
「ひとりか」
思わず漏れた声。それに抗議するかのように、外套のポケットがもぞもぞと動き出した。顔を出したのはシャラだ。少し遅れてミリィとピコも顔を出した。
「シャラたちは一緒に転移したのか。シャドウリープのときと同じだね」
ポケットに入るサイズだと所持品と見なされるのか、一人用の魔法でも一緒に転移することができる。それは、あの魔法陣も同じらしい。だとすると、投獄されたときのために用意しておいた仕込みが役に立つかも知れない。
「うん、いけそうだね!」
教導の間に足を踏み入れる前に、僕はみんなに――正確にはみんなの影に魔法を使っておいた。使った魔法はクリエイトゴーレム。みんなの影で闇ゴーレムを作っておいたんだ。
闇ゴーレムはシャドウリープの転移先に選べるという特殊な性質がある。ただ、以前試した限りだと、僕から一定以上離れると消滅してしまうから、あんまり意味の無い性質だと思っていた。だけど、その認識は間違っていたんだ。
実は、生成元となった影から一定距離が離れると消滅するって仕組みだったみたい。あのときは、自分の影でしか試してなかったけど、他の人や物を対象にすれば、それらから離れない限り僕がいくら遠くに移動しても闇ゴーレムが消滅することはなかったんだ。
それに加えて、闇ゴーレムはもうひとつ面白い特徴を持っていた。それは影に同化する能力。同化した状態で何かできるわけじゃないんだけどね。でもシャドウリープの転移先としてマーキングするにはとても便利な能力だ。
魔法陣による転移でバラバラになってしまった可能性もあるけど、シャラたちが一緒にここにいることを考えると、闇ゴーレムたちもみんなの影に同化したままな気がする。シャドウリープの転移先としても選べるみたいだし、試してみよう。
「〈シャドウリープ〉」
魔法を唱える。最初に転移先に選んだのはハルファの影から作った闇ゴーレム。魔法が発動しても周囲の空間は白一色だったけど、転移に成功したのはすぐにわかった。だって、見慣れた背中があったからね。白い翼が周囲に溶け込んでいて、ちょっとだけ面白い。
「あ、いたいた。ハルファ、大丈夫だった?」
「トルト!」
振り返るハルファの顔に浮かぶのは満面の笑み。特に問題はなかったみたいだね。
「やっぱり、トルトはトルトだね!」
「ええ? 何それ?」
何故だかわからないけど、ハルファはご機嫌だ。僕は僕ってどういう意味? よくわからないけど、今は気にしないでおこう。みんなを迎えにいかないといけないし。
シャドウリープで転移できたからには、この空間から脱出する方法はある。アレンの影にもクリエイトゴーレムで闇ゴーレムを潜ませてあるからね。問題は、シャドウリープは自分自身しか転移できないってところだ。まあ、それも解決方法はあるんだけど。付与魔道具を使えばいいんだ。
「こっちがクリエイトゴーレムで、こっちがシャドウリープの付与魔道具だよ。まずは僕の影で闇ゴーレムを作ってね」
「わかった!」
詳しい説明は後にして、とにかく脱出方法について指示する。ハルファも状況はわかっているから、何も聞かずに行動してくれた。
「他のみんなの場所のところも回るから、そうだなぁ……ゆっくりと100数えた後に、この闇ゴーレムを目標に転移して。ひとりだと寂しいだろうから、シャラも一緒に残ってあげてね」
ポケットからシャラを取り出して、ハルファに渡す。さあ、他のみんなの場所にもいかないと。こんな空間に一人でいると気が変になっちゃうからね。
「トルト。助けに来てくれてありがとう」
転移しようと思ったところで、ハルファにお礼を言われた。改めてお礼を言われるようなことでもないんだけどね。でも、こんな空間に取り残されて、寂しかったのかもしれない。
「気にしないでいいよ。仲間でしょ?」
「……うん!」
僕の言葉にハルファはキラキラとした笑顔で頷いた。やっぱり、ハルファには笑顔が一番似合っているね。彼女の笑顔はみんなを幸せにする力があると思うんだ。だって、僕がそうだから。
さあ、今度こそみんなを迎えにいこう。
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