24. 動き出した銀の幹部
ラングさんとグランドマスターの執務室に向かう。他のメンバーはひとまず待機だ。呼ばれているのは僕だけみたいだし、みんなで押しかけるには執務室は狭いからね。
扉の前で、ラングさんがノックする。
「ラングです。トルト殿をお連れしました」
「ああ、入ってくれたまえ」
中に入ると、そこで待っていたのはローゼフさんだけじゃなかった。見覚えのあるおじさんは……マドルスさん?
「トルト殿、よく来てくださいました」
ローゼフさんはそう言うと、僕らを隣室へと誘う。そっちは執務室と繋がっている応接スペースだ。一人がけのソファが応接テーブルを囲むように配置されているので、全員でそこに座る。
改めて、ローゼフさんとマドルスさんを窺う。二人とも、普段よりも険しい表情だ。緊急で呼び出されるくらいだから予想はしてたけど、あまり良い話ではなさそうだ。
「どうしたんですか? マドルスさんまで」
まあ、ある程度予想はできるけどね。
マドルスさんはキグニルのギルドマスターだ。その彼がここにいるということは、そちらで何かあったのは想像に難くない。僕が呼ばれたことを考えるときっと銀の異形関係だろう。
でも、ラングさんの話では、掃討作戦は順調に進んでいるはずだ。仮にキグニル周辺で異形たちの出現が急増したとしても、範囲浄化の魔道具さえあれば、対応は難しくない。他の地域の異形騒動は収束しはじめているから、魔道具の稼働状況にも余裕があるはずだしね。
「それなのですが……」
僕の問いかけに、ローゼフさんがマドルスさんを見た。マドルスさんは頷くと、視線を向ける。彼が話すみたい。となると、やっぱり、キグニル関係のことかな。
「粘銀種を宿した者達が現れたのだ」
「それって……」
「ああ、通達にあった、エルド・カルディア教団から抜け出したという幹部連中だろう。体中に無数の銀の傷跡があることは確認された」
ついに現れたのか!
あれほど大規模に、異形の獣たちを動かしたんだもの。どこかで、仕掛けてくるとは思っていたんだよね。それが、まさかキグニルになるとは予想してなかったけど。
「それで……状況はどうなんです? 範囲浄化の魔道具は効いてます?」
以前戦った幹部の二人組は手強かった。あのレベルの敵が複数いるなら、手子摺るのも無理はないよね。
ヤツらは世界を侵蝕して、支配する能力を持っている。その力で作った石鎧は、僕の浄化を遮り、無効化していた。きっと単体用の浄化の魔道具では倒せないと思う。だけど、範囲浄化だとどうだろう。結界内部全体に影響を及ぼすなら、石鎧を素通りして、敵本体を浄化することができそうだけど。
「範囲浄化の魔道具については試せていない。今まで異形が現れていなかったので、配備されていなかったのだ」
「どこからか回してもらえないんですか?」
「要請はしている。だが、反応はよくないな。一部の探索者が猛反発しているらしい。まあ、一応、ドーソンのところから回してもらえることにはなりそうだ」
ドーソンっていうのは、魔道具の説明会のときによく喋ってた人か。マドルスさんとは知り合いみたいだし、話を通しやすかったのかな。
でも、やっぱり問題になったんだね、魔道具の独占。騒動は収束しそうだから追加の作成は急がなくていいかと思ったけど、甘かったみたい。
魔道具の追加製作を依頼されるのかなと思ったけれど、どうもそうではないみたい。話を引き継いだローゼフさんは、僕ではなくラングさんへと顔を向けた。
「ラング。やはり、管理を支部に任せるのはよくない。非常時のことを考えると、本部で管理しておいた方が良いだろう」
「そのようですね。非常時だったとはいえ、運用規則がないのも問題でしょう」
「うむ。だが、まずは神器の回収を。ごねるようなら、冒険者資格の停止も仕方あるまい。世界の危機に私欲を優先させるなど許されんよ」
「左様ですな。では早速対処します」
どうやらラングさんを呼び出したのは、魔道具の回収を命じるためだったみたいだね。指示を受けたラングさんは執務室を飛び出して行った。
「では、僕はどうしましょうか。追加で魔道具が必要なら作りますが」
「その申し出はありがたいのですが……少々問題がありましてな」
ローゼフさんの目配せで、再びマドルスさんが話し出す。
「実は、範囲浄化の魔道具だけではどうにもならないかもしれんのだ。ヤツらは、ダンジョンを占拠した。お前のよく知る、例のダンジョンだ」
「えっ、あのダンジョンが?」
キグニル周辺のダンジョンといえば、僕もよく知ってる。シロルと出会った場所だ。
占拠する理由はわからないけど、確かにちょっと厄介かもしれない。だって、ダンジョンの中と外は別の空間だもの。外から範囲浄化で一掃というわけにはいかないんだ。
「浄化するには、ダンジョンに入らないとダメですね……」
「ああ。だが、危険だ。ヤツらは間違いなく入り口で待ち伏せているだろう」
「そうですね……」
使用者を殺してしまえば、浄化は発動しない。しかも、魔道具が敵の手に渡ってしまう。ヤツらが手にしたところで使い道はないと思うけど、こちらの手札が失われるのは痛い。
「トルトにはこの状況を打開する方法を考えて欲しいのだ。お前に頼りきりになるのは心苦しいが、それでもできる限り人死にはさけたい。頼む!」
マドルスさんは深々と頭を下げた。その気持ちは充分にわかる。僕だって同じ気持ちだ。
「頭を上げてください。できる限りのことはやってみます」
「……ありがとう」
「感謝します、トルト殿」
マドルスさんもローゼフさんも、ほっとしたみたい。少しだけ表情が明るくなった。僕がほんの少しでも希望になれたのなら、良かったかな。
でも、それだけに責任重大だ。いったい、どうしたものだろうか。
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