ダンジョン研究会

「パンドラギフトが欲しい!」


 感情のままに主張したら、周りのお客さんからぎょっとした目で見られてしまった。


 今いるのは、アイングルナで僕たちが泊っている宿屋の食堂だ。僕ら以外のお客さんは冒険者と商人が半々といった感じかな。冒険者はダンジョン探索が目的で、商人はダンジョン産のアイテムの買い取りが目当てってところだろう。そんな人たちだから、パンドラギフトのことも知っているんだよね。そう考えると、この反応は当然の結果だ。一般的な認識からすると、外れアイテムだもんね。


 幸い、パーティーメンバーは平然と受け入れてくれている。まあ、みんなの前でパカパカ開けてるからね。今更驚いたりはしないか。


「反対するわけじゃないけど、どうしたの急に? しばらくはスピラちゃんのランク上げしをしながら、ここのダンジョンについて調べるんじゃなかったの?」


 首を傾げながらハルファが聞いてきた。

 まあ、それが当初の予定だったんだけどね。でも、ガルナラーヴァの名前が出てきたとなると、備えとなるアイテムは確保しておきたいんだ。運命神様から何らかの対策アイテムがもらえるかもしれないし。


 思うところを伝えると、今度はスピラが小首を傾げた。


「トルト君の心配はわかるよ。んー、でも神託はないんだよね、ハルファちゃん?」

「うん、今のところは何もないよ」


 金ぴかスライム――ゴールデンスライムの特殊個体を倒した日から数日が経過している。ガルナラーヴァが関わっているみたいだったから、運命神様から神託が下るかと思ったんだけど、今のところ何の音沙汰もないんだよね。


「前ギルドマスターの件については驚いたが……それでも終わったことだから、か?」


 ローウェルが推測を口にするけど、その表情はどうにもすっきりしない。たぶん、自分でも信憑性が低いと思っているんだろう。現に、ガロンドの件が片付いたあとだというのに、特殊なゴールデンスライムが出現しているわけだからね。むしろ、第二、第三の事件が起きても不思議ではない。


『まあ、探してみるのはいいと思うぞ! トルトなら持っておいて損はない!』


 シロルが肉の塊をはぐはぐと囓りながら言った。人の目があるので念動は使わずに食べてるんだ。普段は念動を多用しているせいか悪戦苦闘しているけど、それでも話は聞いていたみたい。


「そうだな、スピラのランク上げは急いでいるわけではない。それに、俺たちはトルトたちを助けるためにいるつもりだ。お前がやりたいようにやればいいんだ」


 ローウェルの言葉にスピラも頷く。

 僕がやりたいことは、みんなと冒険することだから、今までもやりたいことをやっていたわけだけどね。でも、そう言ってくれるなら、今はパンドラギフトを優先させて貰おうかな。


 といっても当てはないんだけど。まずはギルドで話を聞いてみようかな。バッフィさん……は怒られそうだから、ラーチェさんに話を聞いてみよう。上手く捕まえることができるといいんだけど。




 冒険者ギルドに向かうと、都合がいいことに受付にラーチェさんが座っている。向こうも僕たちに気がついたみたいで、ぶんぶんと手を振って迎えてくれた。金ぴかスライムの討伐後に姿を見たのは今日が初めてだ。ガルナラーヴァらしき声を聞いたってことで、変な影響が残ってないか心配だったけど、この様子を見る限り問題はなさそう。


「よく来たニャ! また面白い話を持ってきたのかニャ? それとも、例の鍵についてかニャ?」


 この間の一件を『面白い話』で片付けてしまうのは、さすがラーチェさんという感じだね。

 『例の鍵』というのはゴールデンスライムを倒したときにドロップしたアイテムのことだ。鑑定の結果、アイングルナのダンジョンで特別な財宝を見つけるための鍵となるアイテムだとわかったんだけど……逆にいえばわかったことはそれだけだ。どこでどんな風に使うかもわかっていない。ラーチェさんはギルドマスターの仕事があるので、僕たちが預かっているけど、使い方がわかったら自分も呼べと言われているんだ。まあ、現状では皆目見当もつかないんだけどね。


「いえ、今回はただ聞きたいことがあって。パンドラギフトが欲しいんですけど……どこで手に入るのか、心当たりはありませんか?」

「ニャ? 妙なものを欲しがるんだニャ~。まあ、トルトなら役立てられるのかニャ?」

「え?」

「おや、違ったかニャ? なんとなくそんな気がしたニャ」


 ラーチェさんは妙に鋭いところがあるよね。僕の幸運のことについては話してないんだけど。そういえば、『引き寄せの札』でゴールデンスライムを引き寄せたときも、根拠なく僕が呼び出せると思ってたみたいだし。なんか、直感系のスキルでも持っているのかもしれないね。


 そのラーチェさんだけど、またシロルと言い合いをしていた。


「わふっ! わふぅぅ!」

「またわけのわからないことを言ってるニャ! やかましい一角犬だニャ!」

「わふぅぅう! わふっ!」

「知らんニャ、知らんニャ。勝手に吠えてればいいニャ!」


 相性が悪いのかな?

 それとも喧嘩するほど仲がいい、とか?


 ともかく、肝心の話が進まないから、両者を宥めてどうにか話を再開する。


「おお、そうだったニャ。その手のアイテムは全部、ダンジョン研究会が引き取ってるはずだニャ」

「ダンジョン研究会? 何ですか、それ」

「ダンジョンの研究が好きな変人の集まりだニャ~。なかなかマッドな奴らが集まってるニャ! ゴドフィーも会員だったはずニャ」


 うーん、なんか嫌な繋がりだね。

 とはいえ、ダンジョンの仕組みを解明する研究というのは他にも例がある。特に、アイングルナはダンジョンの中にある街だから、そういう研究が活発だとしても当然だよね。ゴドフィーも失踪するまでは不審な点はなかったみたいだし、ダンジョン研究会がガルナラーヴァ信徒の隠れ蓑ってことはないと思う。たぶん。


 まあ、現状、パンドラギフトの手がかりはそこにしかないわけだから、ちょっと怪しくても行ってみるしかないね。


「そうですか。それじゃあ、一度そちらを当たってみます」

「そうするといいニャ! ここからだと――」


 ラーチェさんに道順を教えて貰って、ダンジョン研究会に向かう。


 パンドラギフトが上手いこと手に入るといいんだけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る