37. 誰も知らない謎アイテム

「じゃあ、開けるよ!」

「え、パンドラギフトを開ける? え? 放っておいていいんですか!?」


 開封を宣言すると、何も知らないラウヤだけが狼狽えている。その彼に、デンデさんがげんこつを落とした。


「黙って見てろ」

「は、はぁ。あ!」


 納得のいっていない様子のラウヤが頭を押さえている間に、素早くパンドラギフトを開ける。特に、何が起こるでもなく、ぱかりと蓋が開いた。


「え、何も起こらない? え?」

「うるさい」


 一人騒がしいラウヤにはまたげんこつが落ちた。だけど、僕らの仲間は気にしない。興味津々と言った様子で箱の中をのぞき込んできた。


「これ、何……?」

「うーん、何だろう?」


 ハルファと二人で首を傾げる。箱の中に入っていたのは、一見すると何の変哲もない小瓶だった。半透明のガラスみたいな材質なので内部は薄らと透けている。中身は何かの粉みたいだ。


「廉君からの説明書もないね」

『ラムヤーダス様からの干渉は感じられなかったぞ?』


 事態を打開するアイテムをゲットするときには、大抵、廉君がアイテムの説明をつけてくれていた。シロルもこう言っているし、もしかして、全然関係ないアイテムが出ちゃった……?


『何じゃ、このアイテムは? 私が知らないアイテムじゃと……?』


 ガルナがポツリと呟く。その声に反して、驚きは大きいみたい。目がまん丸になるくらい見開かれている。


「ガルナにも知らないアイテムとかあるんだね」

『いや、ない。少なくともダンジョンで産出されるアイテムで私の知らないアイテムはない……はずなのじゃ。他の神が自ら生み出したものではない限りのぅ』


 つまり、これは普通のアイテムではなく、どこかの神様が生み出したものってこと? そんなことするとしたら廉君だけど。


『僕じゃないよ。僕なら説明書くらいつけるって。いったい、何なんだろうね?』


 まるで話を聞いていたかのようなタイミングでホログラム廉君が現れた。いや、まあ、聞いてたんだろうけど。


「……今度は透けてる人が現れましたよ。え? 話の流れからすると……神様? さっきから猫は話すし……何が何やら」

「狼狽えるな。考えたところで何もわからないのだから、諦めるのが肝要だ」

「俺はもう慣れましたよ」


 ラウヤ、デンデさん、ジェスターさんが、突然現れた廉君に反応する。付き合いが長い順に冷静なのがちょっと面白い。


「とりあえず鑑定してみたらどうだ?」

「そうだね。何かわかるかもしれないよ」

『鑑定ルーペなら無駄じゃぞ。神にわからんものが、ダンジョン産のアイテムにわかるものか』


 ローウェルとスピラの提案をガルナが否定する。


 それもそうだ。ダンジョン産のアイテムは邪気……つまりガルナの力で作られている。だから、その性能も彼女の力を越えるものとは考えづらい。


「まあ、試してみればいいじゃない。わからなければ、そのとき考えればいいんだよ」

「それもそっか」


 とはいえ、鑑定するのに手間は必要ない。ルーペで覗けばいいだけだからね。結局、ハルファの言葉に従い、小瓶を鑑定してみることにした。


「あれ? 鑑定できた……?」

『何じゃと!?』

『嘘ぉ!? 僕にも見せてよ!』


 呟いた直後に、廉君にルーペをひったくられる。半透明なのに、持てるんだね……。


『ほ、本当だ!? 何で?』

『お主、他の神たちに聞き込み行ってくるのじゃ!』

『僕に指示しないでよ! でも、行ってくる!』


 廉君とガルナ。二人の神が慌ただしく話し合い、結果、廉君は戻っていった。どうやら、どの神様が関わっているのか探りにいったみたい。


 何だか話が大きくなったけれど、とりあえず僕らに神様たちの事情は関係ない。大事なのは、このアイテムによって教団の銀化計画を防げるかどうか、だ。


『で、どんなアイテムだったんだ?』

「ああ、うん。それがね――……」


 シロルに答える形でアイテムの説明をする。


 どうやらこのアイテム、魔法の調味料らしい。容量は無限。振りかけると無尽蔵に出てくる。


『おお。便利だな! でも、胡椒はかけすぎたら駄目だぞ。くしゃみが出るんだ』

「たしかに便利だけど……トルトならもっと良いアイテムが出ると思ったのに!」

「まだだよ、ハルファちゃん! パンドラギフトはまだ残ってるはずだから!」


 シロルは喜んでるけど、ハルファは残念そうだ。そのハルファをスピラが励ましている。


 一方で、ローウェルの反応は小さい。軽く頷いた後、確信した様子で聞いてきた。


「なるほど。でも、それだけじゃないんだろ?」

「ああ、うん。まだ説明の途中だね」

「ほらな」


 何故かローウェルが得意げになり、ハルファが「先に言ってよ~!」と悔しそうな顔で言った。どういうことなの。


『で、どんな効果なんじゃ。お主のことじゃから、またとんでもない効果なんじゃろう。世界から銀色のものを消滅させるとか?』


 ガルナが無茶振りしてくる。それはもう調味料じゃないね。


「期待させて悪いけど、そこまでおかしな効果はないよ」


 そう前置きして、説明を続ける。


 実は、この調味料には魔法を込めることができるんだ。込めた魔法によって味が変わるみたい。しかも、この調味料を使って作られた料理を食べたとき、込められた魔法が効果を発揮するんだって。この性質は使えると思うんだ。


「というわけで、特製のクリーンカレーを作るよ!」

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