15. モルブデン組の若

 振る舞い料理に戸惑いながらも喜んでいた村人たち。お腹が満ちて少しは落ち着くかと思ったけど……いつの間にか歌ったり踊ったりとお祭り騒ぎになっている。もちろん、それが駄目ってわけじゃないんだけど、仕事とかは大丈夫なのかな。ちょっとだけ心配になるね。


「お、何だ? 賑やかだな。祭か?」


 料理の提供も落ち着いてきた頃、のんびりと村人たちの様子を眺めていたら、そんな声が聞こえてきた。そちらに視線を向けると、数人のモヒカン男性が広場に入ってきたところだった。


 ……あれ?

 よく見れば、あの人たち、見覚えがあるぞ。僕の記憶が確かなら、あの人たちはティラザに挑んで敗走したモヒカン冒険者たちだ。


「若、戻られましたか。今、外部の者が来ておりまして、食事を振る舞っておるのです」


 リーダーのモヒカンに、デンデさんが丁寧な口調で事情を説明している。こんなことを言うと失礼なのは百も承知だけど、若と呼ばれるには似つかわしくない風貌だよね。だけど、当人は言われ慣れているのか、気にした様子もない


「外部の者? そりゃあ、珍しいな。一言、礼でも――……」


 モヒカンリーダーがぐるりと視線を巡らせたところで、ちょうど目があった。彼は驚きで言葉を失ってしまったみたい。でも、僕が軽くお辞儀をすると、再起動したように動き出した。


「おお、アンタたちか! 村のみんなに食事を振る舞ってくれたんだって? ありがとうな!」


 あいかわらず、爽やかな笑顔だ。デンデさんはわりと部外者に厳しそうだったけど、モヒカンリーダーはそうでもないみたいだね。


 思わぬ……というほどでもないけど、偶然の再会だ。彼らと話をするために、調理は一旦切り上げることにする。


「お久しぶりです。ウェルノーでは見かけませんでしたが、こちらに来てたんですか?」

「ん? まあ、この辺りの村を回っていたのさ。元々、この辺りが俺たちのホームだからな」


 どうやら、この村というより、この周囲一帯に縁があるみたいだ。まあ、“若”って呼ばれてたから、そういうことなのだろうと思うけど。


 改めて、お互いに自己紹介したところによると、モヒカンリーダー改めバディスさんはモルブデン組の長の息子で跡取り候補だったみたいだね。少し前、モルブデン組とバンデルト組との間で大きな抗争があって、本拠地だった街が占拠されてしまったみたい。モルブデン組は解散したわけではないけど、組織を維持するのも難しいみたい。それで、バディスさんは年の近い側近を引き連れて冒険者をやってるんだとか。


「正直、バンデルト組の連中は許せない。だが、奴らの支配によって豊かになった村があるのは事実なんだよな」


 無念そうに語るバディスさん。長年の宿敵と言うこともあるけど、奇襲で本拠地に襲いかかってきたことを腹立たしく思っているみたい。だけど、そうやって増やした拠点で住人が不幸な目にあっているのかと言えば、違うらしい。それどころか、多くの街や村では生活が楽になっていると喜ばれているのだとか。


 その手段こそがダンジョンだ。彼らと協力関係にあるエルド・カルディア教団は、ガルナさえ把握できない方法でダンジョンを生み出している。そして、そこで得た素材や道具を売り払うことで利益を得ているんだ。直接的な利益を得ているのは、バンデルト組だけど、潤った彼らが村々にもお金を落とすし、食材関係のアイテムは村へと提供されるので、結果として支配地の人々の生活も上向いてるらしい。


「俺としては思うところもあるが、それで略奪行為が止まるのなら、悪いことでは無いのかもな」


 と、結んだバディスさん。たしかに、ダンジョンで潤って略奪の必要がなくなったのなら、周辺国にとっては悪いことではない。でも、それならモルブデン組とぶつかる必要もないように思えるけど。素直に、略奪を控えるような人たちに思えないんだよね、話をきいていると。


「いや、奴らはダンジョンの利益で満足するつもりはないですぜ。間違いなく侵略を企んでいます」


 参考意見ということで、元バンデルト組のジェスターに話を聞いてみたところ、開口一番に出てきたのがこの言葉だ。その言葉の根拠はエルド・カルディア教団との協力関係。かの教団は、世界を破壊して新しい世界を創造するという教義を掲げている。彼らの言う破壊と創造がどんなものなのかはわからないけど、少なくとも破壊のための侵略行為という目的で教団とバンデルト組は手を組んでいるんだ。バンデルト組がダンジョンの利益に満足して侵略行為を止めようとしても、教団が許すわけがない。


「そうか。いや、そうだよな。奴らが大人しくするはずなんてないよな……」


 ジェスターの説明を聞いて、バディスさんが呟く。言葉だけ聞くと残念そうにも聞こえるけど、バディスさんの顔には好戦的な笑みが浮かんでいる。戦う理由が見つかって、喜んでいるようにも見えるね。利益と平和をもたらすのならバンデルト組の支配もやむなしと考えてはいても、それを望んでいたわけじゃないってことだろう。


「ふふ、では、抗争の準備を始めなければなりませんな」

「奴らに目に物見せてやりましょう」


 バディスさんの言葉に同調するモヒカン冒険者たち。普段は見た目に反して気がよさそうな人たちだけど、やっぱり血の気は多いみたいだね。嬉々として抗争の準備をはじめようとしている。


「おいおい、勝算はあるのか? 奇襲されたらしいが、それでも全盛期の戦力で負けたんだ。無策で勝てるわけがないだろう」


 そんな彼らに冷や水を浴びせたのはベエーレさんだ。彼の意見はもっともだ。僕だって、このままの状況で抗争になって勝算があるとは思えない。


「そうですよ。バンデルト組はダンジョンを利用して力をつけているみたいなんです。まずは、力の源泉をどうにかしないと。エルド・カルディア教団かダンジョンにでも潜入できればいいんですけど……」


 ベエーレさんに便乗して、彼らを説得する。僕らはガルナが把握していないダンジョンを探ることが目的だけど、そうじゃなくてもバンデルト組の蛮行を止めるにはダンジョンの秘密を探る必要があると思うんだよね。


 僕らの説得にバディスさんたちも少しは頭が冷えたみたい。少なくとも、今すぐにでもカチコミに出かけようというような状況からは落ち着いたように思う。ほっと、一安心……というところでバディスさんが意外な言葉を呟いた。


「ダンジョンか。ここに来る前にそれらしきものを見つけたが……あれも、奴らに関係があるのか?」


 ……え?

 見つけたの!?

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