10. 僕たちって、もしかして……
「このまま待つか?」
「うーん」
ローウェルが聞いてくるので、ちょっと考える。
目の前にあるのは普通の鉄格子。とはいえ、さすがにただの鉄ってことはない。この世界だと、高レベルの人間の力はとんでもないからね。ただの鉄の棒だと素手でぐにゃりとやれちゃったりするんだ。でも、その代わり、魔法加工された金属はとんでもなく硬かったりするけど。きっと、この格子もそういう加工がされているはずだ。
それでも、脱出しようと思えばできる気がする。ローウェルの【刃通し】なら魔法加工された金属でも斬れちゃうと思う。シャドウリープで鉄格子の向こう側に跳ぶこともできるし、何なら鉄格子をゴーレム化したっていい。
とはいえ、僕らには捕まえられる理由がない。だから、何かの誤解があるんだと思う。となると脱獄は、話がややこしくなるよね。
「しばらく様子を見ようか」
というわけで、しばらく待機時間になったわけだけど、何もない牢獄だから暇を持て余すことになる。マジックハウスに戻ってもいいんだけど、誰か見に来たときに困るかもしれないしね。
『それなら、ご飯を食べるのがいいと思うぞ!』
シロル提案にプチサイズのプチゴーレムズがこくこくと頷く。こんな状況なのに、いつも通りだ。
でも、まあ、確かにお腹も空いてきたころだ。
「じゃあ、食事にしようか」
収納リングから、テーブルと椅子を取りだし、牢獄内に配置していく。テーブルクロスを敷き、その上に料理を並べていく。
「今日はこれだよ」
「わーい!」
ふわふわ卵でチキンライスを包んだオムライスだ。特にハルファが気に入ってくれたみたいで、いつもよりもニコニコでスプーンを握りしめてる。
「ソースはどうする?」
「私はデミグラスがいい!」
『僕もだぞ!』
ソースは三種類用意している。シンプルなケチャップソースと、デミグラスソース、あとはキノコのクリームソースだ。一番人気はデミグラスソースみたい。他の二つも悪くないけどね。
『呑気じゃのう……』
ガルナが呆れたように呟く……けど、しっかり自分のオムライスは確保していた。おせんべいを気に入って以来、彼女は少しずつ他の料理にも興味を示し始めたんだよね。着実に食いしん坊の仲間入りしつつある。ようやく旅の仲間として馴染んだってところかな。
みんなで賑やかに食事を取っていると、バタバタという足音でにわかに騒がしくなってきた。いや、アラームは鳴りっぱなしだから、さっきから充分に騒がしかったけれども。
「捕まえたぞ異界の者ども! お前たちの――――なんだこりゃ?」
現れたのは兵士みたいな人たちとちょっと立派な格好なおじさん。おじさんは険しい表情で何かを叫んでいたけど、すぐにポカンとした表情に変わった。きっと、牢獄内が想像していた光景と違っていたからだね。
「すみません、すぐ食べ終わりますから」
「あ、ああ、落ち着いて食べなさい」
「ありがとうございます」
理解のあるおじさんで良かった。お言葉に甘えさせてもらおう。
「あの……いいんですか? ラングさん」
「……は!? いや、だが、ほとんどが子供じゃないか?」
「それはそうですが……いや、でも……」
「……危険そうに見えるか?」
「いえ……」
おじさんたちが何かぼそぼそ言ってるけど、止められないからまあいいかと食事を続ける。うん。トロトロの卵がおいしいね!
「ごちそうさま!」
「おいしかった!」
ハルファとスピラが満足げにスプーンを置く。結局、僕らは、おじさんたちが見守る中、オムライスを食べ終えた。でも、それで満足できない食いしん坊もいる。
『デザートは? デザートはないのか?』
シロルがデザートを要求してくる。とはいえ、これ以上おじさんたちを待たせるのは問題じゃないかな。ローウェルは今更じゃないかという風に笑ってるけど、やっぱり限度ってものがあるし。とりあえず、シロルの口にはあめ玉を放り込んでおこう。
「ええと、お待たせしました。その、もしよければどうですか?」
「あ、ああ、いや、お気遣い無く」
待たせたお詫びにあめ玉を差し出すけれど、おじさんは遠慮しているみたいだ。二人でぺこぺこ頭を下げていると、兵士の一人がこほんと咳払いした。
「ラングさん。もうぐだぐだですが、一応、ちゃんとやらないと」
「そ、そうだな!」
おじさん――ラングって名前みたい――は、はっとしたあと、少しだけ表情を険しくする。けど、またすぐにへにょりと眉が下がった。
「ああ、ええと、君たちは異界の者……なのか? 検知装置が強力で異質な存在を検知したので、こちらに隔離されてもらったわけだが」
ラングさんが気まずげな表情で、僕らを見てくる。いつの間にか止まってるけど、あのうるさかったアラームは、異界の者を探知したときの警告音だったみたい。
僕らは顔を見合わせる。
「もしかして、ガルナの邪気に反応したのかな?」
今でこそ和解したけど、ガルナは邪神として扱われていた。異質な存在として検知されてもおかしくないと思う。だけど、僕の意見にガルナは呆れた様子を見せる。
『馬鹿者。私はこの世界の神じゃぞ。異質な存在なわけがあるまい。どう考えてもお主の方が異質じゃ』
「そんなわけないよ。僕はちょっと運がいいだけの普通の人間だよ」
「「「……ちょっと?」」」
僕の言葉に、ハルファたちが首を傾げる。まあ、ちょっとっていうのは少し盛ったかもしれない。いや、盛ったっていうか過少申告したっていうか。こういうときは何て言うんだろう。
そんな僕らをよそに、兵士のひとたちがこそこそ喋ってる。
「猫が喋ってるんだが……」
「さっきは犬が喋ってたぞ。しかも、角が生えてる……」
「あの小さな人形は何だ? 勝手に動いてる」
「いきなり牢獄に飛ばされて、呑気に食事って……普通じゃないよ」
「全体的におかしすぎてどこから突っ込めば……」
あ、あれ?
すっかり慣れちゃったから自覚がなかったけど……僕たちって、あんまり普通じゃない……?
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