11. 身元保証……神

大変長らくお待たせしました。

タイミング悪く体調不良が重なって更新できませんでした。


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「で、では、ラフレスに案内いたしますね」


 少し顔を引きつらせたラングさんに先導され、僕らは牢獄区画を離れる。周囲を固める兵士の人たちも何かちょっとやりづらそうだ。本当に申し訳ないね。


 というのも、解放された経緯に問題があった。




 僕らがどんなに不審人物ではないと主張したところで、異質な力とやらが検出されて捕まったことは事実だ。どうにかして身の潔白を証明しなくちゃダメだってことになったわけだけど、それが難しかった。だって、異質な力っていうのが何なのか自覚がないんだもの。


「むぅ。どうしたものかねぇ。君たちは見るからに無害そうだが、だからといって、適当に釈放するわけにもいかない。いや、いっそ、警報なんて鳴らなかったことにすれば……」

「流石に無理ですって。アナタの首が飛ぶだけじゃすまないので、勘弁してください……」


 ラングさんはすっかり困ってしまって、なかなか危ない発言をしていた。兵士の人が呆れた様子で止めていたけどね。


「うーん、そうだ。君たち、ラフレスに知り合いはいるかい? それなりに立場のある人なら、身元保証人になってもらえるかも……」


 対応に苦慮したラングさんの口から飛び出したのが、身元保証人という言葉だった。


 もちろん、僕らにラフレスの知り合いはいない。だけど、冒険者ギルドの本部には神域があるって話は聞いている。だから、本部の職員の人なら、神様と面識がある人もいるんじゃないかなって思ったんだ。


「あの……人じゃないんですけど、関係がありそうな存在には心当たりがなくはないです」

「人じゃない? はて。どういうことかな、ドルム君」

「さあ?」


 ラングさんと兵士の人が顔を見合わせる。まあ、それはそうだよね。人じゃないと言われても、それだけではピンと来ないと思う。言葉で説明するよりも、来てもらった方がいいよね。


「ええと、神様なんです。今、呼びますね」

「はぁ、神様…………神様!?」

「え、聞き間違いですかね?」


 ざわつくラングさんたちは、ひとまず放置だ。


『廉君、廉君。ちょっといいかな?』


 廉君に心の中で呼びかける。これでも、僕は運命神の使徒だからね。仕える神には直接呼びかけることができるんだ。と言っても、使徒だからといって神様が応えてくれるとは限らないらしいけど。


 でも、廉君は忙しくなければ返事をしてくれる。今回も、すぐに彼の声が頭に響いた。


『ん? どうしたの、瑠兎。ラフレスに着いた?』

『着いたんだけど……ちょっと困ったことになってて』


 事情を説明すると、なるほどねぇと廉君が唸るように呟く。


『ついに瑠兎もそこまで来たか』

『そこまでって、なにさ。というか、やっぱり、僕のせいなの?』

『間違いないと思うよ。その検出器っていうのは、この世界の理の範疇にあるか否かを検知しているんだ。銀の異形対策に最近導入したはずだよ』

『……じゃあ、なんで僕に反応するの?』

『そりゃ瑠兎の、創造力……いや、創世力になったんだっけ? あれのせいだよ。あの力は、この世界の理から外れた物すら生み出す力だからね』


 ああ、うん。この世界の理の外にあるという意味で、異形たちの力と僕の【創世力】は同じなのか。なんか納得いかないけど。


『まあ、とにかく、瑠兎たちが異界の神と関わりが無いことを証明すればいいんだよね? そういうことなら、任せてよ! 僕……だと知名度がいまいちかな? まあ、適当に声をかけて行くから!』

『うん。お願いね』


 よし、これで大丈夫だ。


 未だにざわついているラングさんたちに声をかける。


「来てくれるそうです」

「来てくれる……? え、誰が?」

「廉君……ええと、神様が」

「……神様が!?」


 ラングさんがひっくり返りそうな勢いで仰け反った。そばにいた兵士の人たちが、慌ててそれを支える。


 思ったよりも反応が大きいね。ギルド本部には神域があるって話だったし、偉い人なら神様に会う機会もあるのかなって思ってたんだけど……もしかして、そうでもないのかな?


「ドルム君、神様って、気軽に呼べる存在だっただろうか?」

「試しに呼んでみればいいじゃないですか」

「そんなこと畏れ多くてできないよ!」

「だったら、それが答えですよ!」


 あとは廉君を待つだけってところで、ラングさんと兵士のドルムさんが部屋の隅に移動して話をはじめた。こそこそ……のつもりかもしれないけど、興奮しているのか声が抑えきれていない。


 二人の反応を見る限り、やっぱり神様って畏怖される存在なんだね。わかってるつもりだったけど、わかってなかったのかもしれない。ちょっと気安く接しすぎてるのかな。でも、今回の件はしょうがないよね。非常事態だ。


 そんな僕の考えをよそに、ラングさんたちの漫才は続いている。


「今更ながら、とんでもない人物を捕らえてしまったのではないだろうか?」

「我々はあくまで兵士。上からの命令を忠実にこなすのが役割ですので」

「……ちょっと待ち給えよ。上からって、もしかして、私のことか? 私に責任を押しつけるつもりか?」

「押しつけるも何も……事実ですので」

「ひどくないかね!?」


 収集が着かなくなってきたところで、ピカッと強い光が部屋を照らした。そちらに視線をやると、いつの間にか、そこにはホログラムみたいな人影がある。現れたのは四柱の神様だ。廉君のほかに、精霊神様、幸運神様、大地神様がいる。


 そのそばにガルナが駆け寄った。牢獄の外だけど、猫の体には鉄格子なんて意味がない。猫の姿がぐにゃりと崩れ、人型へと変化する。小柄な女性の姿だ。何故か猫耳が生えてるけど。


「あ、あれが神?」

「精霊神様、それに大地神様!? 間違いないぞ」


 気づいた兵士の人たちが次々に地面にひれ伏す。その様子を見届けた精霊神様が普段より厳かな様子で口を開いた。


『この者らは我らの使徒だ。世界に仇なす者ではないと、我らが保証しよう。直ちに、解放してやってくれ』

「は、はいぃ! 今すぐに!」


 ラングさんが潰れそうなくらいに身を縮こまらせて、平伏している。精霊神様はそれにゆっくりと頷くと、僕に言った。


『さて、トルト。他の神も興味があるようなので、できるだけ早く神域にも顔を出してくれ』

「あ、はい。ちょっと休んでから向かいますね」

『うむ、それでいい』


 僕の返事を聞いた精霊神様は、満足そうに頷いて去っていった。他の神様もそれに続く。ガルナだけがしれっと猫の姿に戻って僕らに合流した。


 残されたラングさんたちは、何故か、なんだこいつって目で僕を見ている。


 ……え、なんで?

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