蜂退治完了
「お前ら、腑抜けてるんじゃないニャ! アタシが来たからにはもう大丈夫ニャ! 気合い入れ直すニャ!」
ラーチェさんが仲間に向かって声をかけるも、その反応は鈍い。
「ザッハ、トルタ……いったいどうしたニャ? レイモン、ネイト……返事をするニャ!」
不安に思ったのかラーチェさんがさらに声をかけるけど、冒険者たちはよろよろとそちらに視線を向けるだけ。疲労から返事をする余裕もないのかと思ったけど、さすがにラーチェさんにもこの反応というのはおかしな気がする。いや、僕のときと違って、ラーチェさんには視線を向けたから完全に無反応というわけじゃないけど。
『着いたぞ!』
「トルト、大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ、ローウェル」
ラーチェさんたちから少し遅れて、シロルたちも駆けつけた。すぐに攻撃に加わり、蜂を減らしていく。ハルファがショックボイスで広範囲に衝撃破をまき散らし、仕留め損なった蜂はスピラが氷蔦で絡め取るように仕留める。シロルは巨大化したまま雷撃を放ち、近づいてきた蜂にはパンチをお見舞いしてるね。ローウェルは僕たちを守るような立ち回りで、近づいてくる敵を切りつけている。倒すよりも、羽を狙って機動力を削ぐことを狙っているみたいだ。
アレンたちはマナが切れてきたのか一旦休憩中。そこら中にアビスソルジャーからドロップした魔石が転がっているので、自分たちでマナを回復して攻撃を再開してくれるはずだ。そうなれば、完全に戦いの趨勢は僕たちに傾くことだろう。
とはいえ、簡単に決着はつかない。何故なら、アビスクイーンがどこからか兵隊蜂を呼び寄せているからだ。敵の増え方よりも僕らの殲滅力が上回っているから、いつかは決着がつくだろうけど、このままだと長期戦は避けられない。
「ラーチェよ。今はあのデカブツを倒すことを優先すべきだ」
「……そうだニャ。わかったニャ! アタシと筋肉であのデカいのはやるニャ! トルトたちはこいつらを頼むニャ!」
「わかりました!」
戦いの幕を引くためにラーチェさんとマッソさんが女王蜂へと向かった。アレンたちも復帰したことだし、こちらも戦力は十分だ。兵隊蜂の猛攻にも十分に耐えられる。
変化はすぐに訪れた。明らかにアビスソルジャーの数が減り始めている。ラーチェさんたちの攻撃を受けて女王が増援を呼ぶ余裕がなくなったのか、それともすでに周囲のアビスソルジャーがほぼ全滅したのか。どちらにせよ、数という最大の武器を失いつつある兵隊蜂に勝機なんてない。僕たちは包囲する蜂たちを全滅させると、女王の取り巻きたちも駆逐していく。
Aランクの魔物とは言え、側近を失った女王にラーチェさんとマッソさんの猛攻に耐える術はない。ラーチェさんは女王を翻弄しながら、背後を取って猛打を繰り出す。一撃のダメージはそれほどでもなさそうだけど、畳みかけるようなラッシュがアビスクイーンの生命力を急速に削っていく。
だからといって、女王はラーチェさんに注意を払ってもいられない。なにしろ筋肉の権化と相対している状況だからね。マッソさんはどこからか取り出した巨大な戦斧を振り回して暴れている。豪腕が繰り出す一撃は、当たれば巨蜂でも両断できそうな勢いだ。今のところ一度も当たっていないのは、アビスクイーンがそれを回避することを最優先としているからだろう。その分、ラーチェさんへの対応が疎かになる。
二人の連携によって、女王は確実に追い込まれていく。僕たちが手を出すまでもないみたいだ。むしろ、下手に手を出すと邪魔をしそうなので大人しく見守っておくことにした。二人は何でもないように攻撃を続けているけど、アビスクイーンだって反撃しているからね。針の攻撃と緑色の毒玉をばらまいているんだ。あれに巻き込まれたら、僕らは無事では済まないだろう。二人は平然と躱しているけどね。いや、マッソさんは何発か食らっているはずなんだけど……何故か普通に動いている。目の錯覚だったのかな?
「ニャニャニャニャ! いい加減倒れるニャ!」
「ふはは、最後は我が輩が貰おう。ぬんっ!」
ラーチェさんのラッシュにアビスクイーンがよろけた。その瞬間を見逃すマッソさんではない。戦斧が巨蜂の身体に食い込み、切り裂き、そして両断した。Aランクの魔物は膨大な生命力を持っているとはいえ、真っ二つになったまま生きながらえることはできないみたいだ。巨体はゆっくりと崩れ落ち、地面に触れる前に煙のように消えてなくなった。
「お疲れ様です」
「いや、トルトたちがいてくれて助かったニャ! こいつは手下が多くて厄介だからニャ。それよりも、あいつらニャ!」
ラーチェさんはそう言うと仲間たちの元に駆け寄っていく。彼らは兵隊蜂をある程度倒したところでぐったりとして動かなくなったので、アレンたちに護衛を任せて休ませていた。
「どうです?」
「やっぱり、おかしいニャ。疲れているにしても反応がなさすぎニャ!」
「そうですか」
まあ、まずはマジックハウスで休んで貰おう。そうしたら何か分かるかも知れないし。あ、でも、その前に綺麗にした方がいいかな。本当にボロボロの格好だからね。
戦士風の男性――たしかザッハさん――にクリーンを使うと、眩しい光が彼を包んだ。通常のクリーンとは違う。あの巨鳥を浄化したときみたいな反応だ。
あれ、もしかして無意識に邪気浄化用のクリーンを使っちゃったかな?
でも、邪気がないときは普通のクリーンと変わらない反応のはずなんだけど……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます