珍しいとはいったい?

「ところで、色々あったとは? 差し支えなければ教えてくれないか?」

「別にかまわないけど……」


 やっぱり、気になるよね。別に隠すことじゃないから、キグニルでのことをかいつまんで説明した。キグニルの騒動は王都にも伝わっていたみたいだけど、詳細はローウェルも知らないみたい。僕は、黒狼という古代の魔獣が邪教徒によって解放されたこと、僕たちが運良く対抗するためのアイテムを見つけたこと、その他諸々のアイテムを駆使して黒狼を倒したことを話した。


「そんなわけで、ちょっと運が良かっただけで、実力的にはまだまだなんだよ」

「ちょっと、かなぁ?」

『そんなわけないぞ。トルトの運は人間の中でもトップレベルのはずだ!』


 僕の幸運について、ハルファとシロルから茶々が入る。

 うん、訂正しよう。たしかに、ちょっとっていうレベルじゃなかったね。というか、運が良いとかそういう話ではなく、運命神様のサポート体制が万全だったし。でも、そんなことを言うと大げさに捉えられかねないので内緒にしておきたい。キグニル冒険者ギルドのマスターとか、僕のことを運命神様の使徒として崇めんばかりだったもんなぁ。どうしてこうなったのか。


 ローウェルは僕たちのやり取りを穏やかな表情で聞いていた。そして、諭すように言う。


「たしかに、君たちは運が良かったのかもしれない。それでも、功績だけでランクは上がらないはずだ。ランクが上がれば相応の実力が求められるからな。Cランクに上げても問題ないと判断したからこそのランクアップだろう」


 そうかな?

 正直、急激なランクアップで本当に大丈夫なのか不安なところがあったんだけど、ローウェルにそう言ってもらえると安心できる。


 まあ、僕たちの話はこんなところでいいかな。ローウェルに聞きたいことがあるし。


「僕たちは王都に向かう途中なんだけど、ローウェルは何をしにこんなところに?」


 街道沿いとはいえ、魔物が出ることもある。とても安全とは言いがたい場所だ。馬車移動ならともかく、スピラを連れて歩くのはリスクが大きいと思う。そう考えると目的がわからないんだよね。さすがにスピラを連れて魔物討伐ってことはないと思うし。


「あ、ああ。個人的な用事で、この先にある村に向かっているんだ。スピラに関しては連れてくるつもりはなかったんだが、ついてきてしまってな」


 いくらついてきたからって、普通なら途中で引き返すと思うけど。

 ちょっぴり誘拐という言葉が頭をよぎるけど、二人の様子を見ているとそれはなさそうだし。なんか言いづらい理由があるのかもしれないね。


「この先っていうと、クローバーの村かな?」

『おお。金ぴかクローバーを見つけたところだな!』

「見つけた……? ゴルドディラを見つけたのか!?」


 ハルファとシロルのやり取りに、ローウェルは大きな反応を示した。

 ゴルドディラというのは金色四つ葉の別名……というか、薬品素材としての名称だね。もしかすると、ローウェルの用事というのも、ゴルドディラかな?


「トルトとシロルはね。私だけ見つけられなかったんだ……」

「なに!? ということは2株も見つけたのか!」

『2株どころじゃないぞ! トルトだからな!』

「……え? どういうことだ?」


 ローウェルが混乱している。

 まあ、普通はそれぞれ1株で合計2株だと思うよね。実際は合計して101株あります!


 個人的な用事って言っていたから仕事じゃないんだよね。ゴルドディラは薬効を高める作用があるので難病の治療薬に広く使われている。それを考えると、重病の知り合いがいるのかもしれない。


「ゴルドディラを探してるの? 薬の材料として?」

「ああ。スピラのな。元気そうに見えるが、身体が弱いんだ。安定させるには薬が必要らしい」

「スピラの……」


 そうだったのか。

 そういうことだったら、金色四つ葉をわけてあげてもいいかな。勢いに任せて採取したけど、やっぱり100株は取りすぎだったよね。それに、ローウェルもいい人っぽいしスピラも放っておけない。物で釣るのはどうかと思うけど、仲良くなるための投資と考えれば悪くないんじゃない?


 ふと、ハルファに視線を向けと、彼女もニッコリと笑って頷いた。ハルファも分けてあげたいと考えてるみたい。


「それなら、わけてあげるよ。たくさんあるからね」

「は……? あ、いや、貴重なものだぞ」

「そうらしいね。でも、たくさんあるんだよね」


 言葉だけじゃ信じられないかもしれないから、実際に取り出して見せた。一面、金ぴかのクローバーだらけだ。ゴルドディラって本当にピカピカなんだよね。金属じゃないんだけど、光の反射率が高いのか、すっごい光る。


「え? は?」

「うわぁ! お兄! ぴかぴかで綺麗だね」


 ローウェルは目を丸くして驚いているけど、スピラは大喜びだ。


「ね、たくさんあるでしょ?」

「あ、ああ。だが、何か目的があったから採取したのでは?」


 目的かぁ。

 そうだよね。貴重な薬の材料だもんね。意味もなく採取したりはしないか。

 いや、でもレアと聞くと、確保しておきたくなるよね。仕方がないよね。


「特に目的はない、かな。ただ珍しかったから」

「そ、そうか」


 ローウェルが微妙な表情をしている。

 まあ、珍しいと言いながら100株も持ってるんだもんね。矛盾してるよ。


結局、ローウェルはゴルドディラを受け取ってくれた。さすがに100株あると、感覚がおかしくなるみたいで意外とすんなりと説得できたね。1株で十分みたいだったけど、余っているから予備を含めて3株あげたら、ちょっと呆れ顔だった。少し強引すぎたかも。


「この礼は必ずする。君たちも王都に向かうのなら、一緒に行かないか」


 目的の物が手に入ったということで、ローウェルたちも王都に戻ることにしたみたいだ。せっかく仲良く慣れたことだし、断る理由はないよね。


 ただ、お礼はいらないかな。金銭なら特に。黒狼討伐とかの報酬や、僕の幸運体質もあって、僕たちってランクに不相応なくらいお金を持っているんだよね。お金はあって困る物じゃないけど、強引に押しつけた形なのでお金を貰うってのもなぁ。正直、特に手間をかけて採取したものでもないので、そこまでは必要ないかなって思ってしまう。


 だから、僕は別の提案をした。


「それなら、予定が合うときでいいから、僕たちと一緒に依頼を受けてくれないかな。いきなりCランクになったから、あんまり仕事のやり方がわからなくて」


 ハルファはほとんどダンジョン探索しかしてないから、冒険者ランクはFだったんだよね。僕は薬草採取で地味にEランクに昇格していたけど、それでも二階級昇格でCランクだ。ダンジョン外だと普通に依頼を受けて稼がないといけないけど、ちょっと不安なんだよね。


 いや、僕たちも不安なんだけど、何よりギルドの人たちが不安なんじゃないかな。Cランクの冒険者票を持つとは言え、見知らぬ子供に安心して仕事を任せるというのは難しいと思う。その点、王都での実績があるローウェルと組んで仕事をすれば、ギルドの人たちも安心できるんじゃないかな。僕たちも仕事に慣れつつ実績も積めるからありがたいんだよね。


 そう説明すると、ローウェルは納得してくれた。


「わかった。それで恩が返せるなら、俺も協力しよう。とはいえ、ゴルドディラの恩はその程度で返せるものじゃない。他に何かあれば声をかけてくれ。俺にできることならば、力になろう」

「そのときはお願いするね」


 そういう申し出もあり、僕たちは一緒に王都に戻ることになった。

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