知らない神域
ひとまず、デムアドさんとの面会を終わらせて、地下牢を後にした。デムアドさんは邪教徒じゃなかったけど、それでも多少の成果はあった。いや、成果の見込みというべきかな。
彼はガルナラーヴァの信徒ではないと言っているけど、指示は聞こえているらしいからね。指示の内容を教えて貰えば手がかりになるはずだ。
とはいえ、ただで情報を教えてくれるわけではない。見返りとして要求されたのが、彼の連れである女の子二人の浄化。まあ、本当に洗脳されているかどうかはわからないけど、試してみてくれと言われている。
自分が奴隷に落とされてしまうような状況で他人の心配をするなんて、デムアドさんはお人好しなのかもしれない。
とはいえ、奴隷に落とされてしまったら、情報を聞き出せなくなってしまうおそれがある。だから、ギュスターさんにお願いして、奴隷落ちになる期間を延ばしてもらった。最悪の場合は、僕らが借金の肩代わりをしてもいいし。
もし、デムアドさんがそれを見越していたとしたら、なかなかの策士だ。いや、さすがにそれはないかな。借金の肩代わりをせずとも、奴隷として買い受ければいいんだから。僕らは奴隷なんて必要ないから、そんなことをしないけどね。奴隷を買うよりは、プチゴーレムズを増員する方がお手軽だ。
まあ、それはともかく、手がかりを得るためには、アウラとキーラに会わないといけない。だけど、困ったことにそれが難しかった。デムアドさんが宿泊していたという宿屋は聞いてたんだけど、すでに部屋を引き払ったみたいで彼女たちはそこにはいなかったんだ。
「一応、数日分の宿泊費くらいは持たせてあるというって話だったが……」
「借金返済のために節約したのかも?」
ローウェルの言葉に、スピラが推測で答えた。あり得そうな話だ。二人はデムアドさんの奴隷引き留め申請を出している。どうにか、お金の工面をしているところだろう。
宿で二人に会えなかった僕らが頼りにしたのは物探し棒だ。
「んー……、駄目みたいだね」
「そうだね。やっぱり、会ったことがない人は駄目なのかな?」
「そうなのかも」
バラバラな方向を指し示す物探し棒を見て、ハルファと結論を下す。実は今まで、名前だけを手がかりに物探し棒で人探しをしたことはないんだよね。だから、そんな条件があるなんて知らなかった。
「洗脳されているというなら、鍵を持っている可能性はあるが……」
「たしかに? ちょっと試してみるね」
ローウェルの提案は一理ある。アイングルナで“声”を植え付けてくる特殊個体は転移扉の鍵をドロップするからね。もっとも、後に大量発生した特殊個体は鍵を落とさなかったので絶対というわけではないけど。
『今度も駄目だな』
「そうだね……」
結果はさっきと同じだ。物探し棒は、特定の方向を示すことなく、ばらばらと無秩序に散らばっている。
残念ながら、物探し棒で見つけるのは無理らしい。
「どうしようか。奴隷引き留め申請が出されているからには、数日中に顔を出す可能性はあるけど」
「例の地下牢の詰め所に、か? どうだろうな。借金額にもよるだろうが、子供が簡単に返済できるものなのか? トルトではないんだぞ」
最後の一言はともかく、ローウェルの疑問ももっともだ。そもそも、返済できるような額なら、デムアドさんが投獄する前に返済すればよかったのだから、手持ちにはなかったはず。オルキュスに来たのも最近という話なので、頼れる知人もいないだろう。そんな状況でどうやってお金を稼ぐつもりなんだろうか。
「何か貴重な物を売り払うとか?」
「あとは……やっぱりカジノかな?」
ハルファとスピラが顔を見合わせて意見を言い合う。どちらもありそうだけど、どちらも危なそうだ。
この世界は治安が悪い。特に、オルキュスはそうだ。表向きは煌びやかだけど、ギャンブルで所持金を失った浮浪者も多いのでちょっと裏路地なんかに入ると治安が激変する。戦う術を持たない子供二人が高価なものを持ってうろついていたら、間違いなく危険な目に遭う。あと、悪徳商人も普通にいるからね。お金に困っている幼い女子二人……足下を見られてカモにされる可能性が高い。
カジノが危険なのは言うまでもない。ライナノーンみたいな良心的なところならともかく、悪質なカジノなら、あっという間に身ぐるみ剥がされて奴隷落ちしちゃうだろう。
借金返済のために宿屋を引き払うことを考えても、二人は思った以上に行動的だ。それが良い方に作用すればいいんだけど、現状だと悪い方に働く可能性が高い。最悪の事態に陥る前に接触できればいいんだけど。
『パンドラギフトだな!』
「やっぱりそうだよね」
何故かパタパタと尻尾を振りながら嬉しそうにしているシロルに苦笑いで答える。最初からそうだったけど、パンドラギフトが完全にお助けアイテムになってるね。僕らを知らない人が聞いたらあきれかえることだろう。
普通に開けても状況に応じたアイテムが出てくるとは思うけど……一応、廉君にお願いしておこう。
……廉君、女の子二人を探すためのアイテムが欲しいので、よろしくお願いします!
そう願った瞬間、僕の視界は真っ白に染まった。気がつけば、さっきまでとは違う場所にいる。
いや、違うな。これは神託で廉君の家に呼ばれたときと同じ感覚。つまり、今僕は神域にいるんだと思う。だけど――……
「ここ、どこ……?」
少なくとも、見知った廉君の家でないことは確かだ。
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