宝探し

 そろそろ魔石を手に入れるために、ダンジョン攻略を始めようかと考えていたんだけど、物探し棒が手に入ったことで事情が変わった。物探し棒で探してみたい獲物があるからね。


 まずは物探し棒の挙動を検証してみた。どの程度の距離まで対象を追えるかという実験だ。結論として、ダンジョン内で使った場合、おそらく階層を跨ぐと効果がないんじゃないかと思う。これはビッグアントという蟻の魔物で検証した。この魔物は第二階層に出現するんだけど、アイングルナの街の中で何度も物探し棒を試しても、明確な方向を指し示すことはなかったんだ。もしかしたら、階層ではなく距離の問題かも知れないけどね。


 次に、候補が複数ある場合の挙動を確認。ターゲットをスライムとして物探し棒を使うと、明らかに指し示す方向が偏った。たぶん、一番近いスライムを指し示してくれているんだと思う。もし、それぞれ別のスライムを指し示すようなら使いものにならなかったので、助かった。


 検証したのはこんな感じだ。探索範囲や複数候補があるときの挙動は、わりと素直というか使いやすい印象だね。では、いよいよ、宝探しだ!


 手始めにターゲットとしたのはパンドラギフト。だけど、物探し棒が指し示した方向はてんでばらばらだった。残念ながら現時点では、アイングルナのどこにもパンドラギフトはないみたいだ。まあ、研究会で全部使い切ったと言っていたから、予想通りの結果だね。念のための確認だからショックは少ない。うん……ちょっとは期待したけどね。


 というわけで、次が本命のターゲットだ。それはずばり、ゴールデンスライム! ラーチェさんと一緒に倒したあれは特殊個体だったけど、もしかしたら他にもいるんじゃないかなと思って。あの個体はよくわからない鍵しか落とさなかったけど、本来ならレアアイテムをざくざく落とす魔物なんだ。この階層にいるなら、是非とも仕留めたい!


「よーし、いくよ!」


 市壁を出たところで、物探し棒を放り投げる。すると、10本のうち、6本が同じ方向を指し示した。


「わぁ! 反応があるってことは、この階層にいるってことだよね?」

「そうだね」


 ハルファに答えながら、一旦物探し棒を回収する。物探し棒で明確な方向が示されたので、この階層にゴールデンスライムがいるはずだ。ある程度、そちらに進んだところで、再び物探し棒を使う。そうして方向を微修正しながらあることしばらく。


「あれ? 方向が変わった?」

「本当だ。右の方だね」


 ハルファとスピラが言っているように、物探し棒の指し示す方向が大きく変化した。


「ゴールデンスライムに近づいたから、誤差が大きくなったんだね。たぶん、近くにいると思うよ」

「そっか! 今度はこっちだね!」

「あ、うん。でも、ちょっと待って」


 さっそく、歩きだそうとしたハルファを慌てて止める。

 第一階層でのゴールデンルライムの目撃情報は正直あんまり多くはないんだよね。上手く隠れて見つけづらいのか、冒険者が近づいたことを察して逃げちゃうんじゃないかと思う。そうだとしたら、まともに探すのは骨が折れる。なので、ちょっとずるしちゃおう。せっかくあるアイテムは使わないとね。


「なるほど。引き寄せの札か」

「そういうこと」


 物探し棒の反応を見ると、ゴールデンスライムは結構近くにいるはず。引き寄せの札の効果範囲内に入ってるのは間違いない。あとは、狙い通り引き寄せることができるかどうかだけど……特殊個体は引き寄せることができたんだし、通常個体でも大丈夫なんじゃないかな。


『今度こそ僕が倒してやるぞ!』


 特殊個体は障壁のせいで、攻撃が通らなかったからね。シロルは今度こそはと張り切っている。


 さて、準備はいいかな。引き寄せの札を掲げて使用すると、いつも通り魔方陣が宙に浮かんだ。同時に現れたのはぴかりと光るメタルボディ。ゴールデンスライムだ!


 待ち構えていたシロルが、すかさず爪で切り裂いた。障壁は出ない。通常個体だ。


『おお、これなら倒せるぞ!』


 勢いづいたシロルが前足でゴールデンスライムを抑えに掛かる。ぬるりと抜け出そうとするそいつをスピラの蔦が捉えた。スライムはさらに抜け出そうともがいているけど、蔦もそれに合わせてウネウネと動いて決して離そうとしない。どうやら、能力的にも特殊個体には劣るみたいだ。このままなら、すぐに倒せるかな。


 その予想は外れることなく、拘束されたゴールデンスライムはシロルに一方的に引っかかれて消滅することになった。結局、スピラとシロルだけで倒せちゃったね。


『僕の勝ちだぞ!』


 わふぅと勝利の雄叫びを上げるシロルは、置いといて。さあ、ドロップアイテムは何かな? 特殊個体はドロップも特殊だったから、実質、これが初のドロップ確認みたいなものだ。


「あった! スクロールだ! 何のスクロールかな?」

「こっちは魔石だね。キラキラして綺麗」


 ハルファがスクロールを見つけ、スピラが魔石を拾ったみたい。


「珍しい魔石だな」

「そうなの、おにい?」

「ああ。魔物によって大きさや透明度が違うが、普通は濃い青色をしているものだが……」

「そうなの? これ、金色だよね。魔石じゃないのかな?」


 兄妹で話しているように、その魔石はちょっと変わった物だった。鑑定の結果は『ゴールデンスライムの魔石(変異)』となっている。とはいえ、変わっているのは名前だけで、アイテムの説明は、普通の魔石と変わらないんだよね。


 うーん、魔石を拾ったら、ステータス向上薬の材料にしようと思ってたんだけど、この魔石はやめといた方がいいかな?


 ゴールデンスライムは、一応Cランクに分類されている。強くはないけど、素早いし、しぶとい。能力値が偏ってそうだから、ステータス向上薬にすれば敏捷や体力なんかが上がりそうだと期待しているんだけどね。まあ、他にもゴールデンスライムを倒してみてから考えようかな。


 スクロールの方は〈シャドウリープ〉という魔法のスクロールだった。聞いたことがない魔法だ。少なくとも、魔法ギルドで売っているところを見たことはない。闇魔法の一種で、影から影へと跳ぶことができるみたい。なんだかよくわからないけど、かっこいいね!


 闇魔法ということで、僕が使ってみることになった。どんな魔法なんだろう? 一回で覚えられるといいんだけど……どうかな。

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