増大する食費

 妖精界での用事も終わったので、戻ろうとしたのだけど。


「あれ、どうやったら戻れるんだろう?」


 妖精界に入ったとき、周囲は一面の花畑だった。特に出入り口っぽいものは無かったので、出方がわからない。意外なことに、答えをくれたのはアレンだった。僕の肩からぴょんと飛び下りて、任せろと言うように胸を叩く。


 アレンは他のプチゴーレムズに何かを指示すると、目を閉じ、両手を前に突き出した。他の三体もアレンに習い、同じポーズを取る。


『妖精女王の加護があれば出口が作れるみたいだぞ』


 その行動の意味はシロルが解説してくれた。女王の加護は妖精界に入るだけじゃなくて、出るときにも必要みたいだ。しばらく待っていると、来たときと同じように光に包まれ、気がつけば不気味な森の中にいた。第二十階層の少し開けたあの場所だ。


「暗くなってるね」


 ハルファが周囲を見回して言った。妖精界にいたときは気がつかなかったけど、たしかに薄暗くなり始めている。ソフトクリームを振る舞うのに時間がかかったから仕方がない。


 転移扉の場所はここからそれほど離れていないので、アイングルナに戻ることもできるけど、今日はここで一泊することにした。フィアトレントの木材がまだ十分に集まっていないからだ。どうせ一泊するなら妖精界で泊まれば良かったね。


 マジックハウスを出して、夕食を食べようと準備していると何故か台所スペースにピノがいた。プチゴーレムズには見張りをお願いしておいたはずなんだけど。


 何をしているのかと思って、こっそりと様子を窺う。ピノは見つかっていることに気付いていないみたいで、ニコニコと笑みを浮かべて手にした何かを眺めていた。あれは、パンの欠片かな。欠片といっても、ピノにとっては十分な大きさだ。


 彼女はキョロキョロと周囲を見て……ようやく僕が見ていることに気がついたようだ。手にしたパンをどこかに隠そうとするんだけど、何処にも隠し場所は見つからず……結局、口の中へと隠した。いや、隠したというかもぐもぐと食べた!


「ええ!? ピノ、今、パンを食べたの!?」


 びっくりして思わず大きな声が出てしまった。それに驚いたピノがぴょんと跳ねて、おろおろしはじめる。


「いや、怒ってるわけじゃないんだよ。ちょっと驚いただけで」


 どうにか落ち着かせたあと、事情を聞く。ジェスチャでは限界があるので、通訳はもちろんシロル先生にお願いした。


『妖精女王の加護を貰った後から、食べれるようになったらしいぞ!』


 食いしん坊仲間ができたからか、尻尾を振りながら嬉しそうに説明してくれる。場合によっては仲間というよりはライバルになりかねないけど……まあ、それはいずれわかることだね。


 プチゴーレムズがそのことに気付いたのは、妖精たちにソフトクリームを配っていたとき。普段なら人が物を食べていても何とも思わないのに、そのときは自分たちも食べたいという衝動がわき上がったみたい。


 そういうことなら、そのときに言ってくれればプチゴーレムズの分も用意したんだけどね。でも、アレンが妖精たちの対価だから手を出しては駄目だと止めたみたい。リーダー役っぽいし、アレンは真面目だね。ローウェルと気が合いそうだ。


 まあ、アレンの性格についてはともかく。そのときはプチゴーレムズみんなで我慢したけど、僕たちが夕食を食べると聞いてピノはついに我慢できなくなったらしい。見張りを抜け出して、盗み食いを試み……今に至るわけだ。


 うーん、妖精の加護が思わぬ効果を発揮しているね。これはゴーレムに共通の効果なのか、それともプチゴーレムズが特殊なのか。ともかく、食事ができるようになったというのに、彼らだけ見張りをさせるのは可哀想だ。見張りは自我なしゴーレムにお願いして、アレンたちは呼び戻そう。




 そんなわけで、夕食はプチゴーレムズも一緒に摂ることになった。


「アレンたち、よく食べるね~」

「小さいのにね?」


 ハルファとスピラが言うように、プチゴーレムズはよく食べる。明らかに自分の体積以上に食べてるからね。食べたものは何処に消えているのか不思議だけど、どうやら分解されてマナに変換されているらしい。とはいえ、変換効率はあまりよくないみたいだ。その分、たくさん食べられるからプチゴーレムズは気にしていないみたいだけど。妖精たちがソフトクリームを山ほど食べていたのも、同じような仕組みなのかもね。


「まさか、ゴーレムが食事をするようになるとは。まあ、トルトのやることだからな」


 ローウェルは一人でうんうんと納得している。だけど、今回に限っては妖精女王の仕業だと思う。アレンたちが特殊だった可能性は……なくもないけど。


『ぬわぁ! それは僕の肉だぞ! かえせ!』


 シロルはピノと最後のからあげを取り合っている。二人は食いしん坊仲間であり、おかずを奪い合うライバルになりそうだ。できるだけ、両方が満足できる量を用意するつもりだけどね。


 ともかく、プチゴーレムズたちも食事を楽しめることがわかったので、明日以降も一緒に食事をすることに決まった。ただ、プチゴーレムズは食事前にある程度マナ補充しておいた方が良いかもしれない。毎回この量を食べられると用意するのが大変だからね。

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