情報共有と離反
ベエーレさんの協力を取り付けた僕たちは、ローウェルやプチゴーレムズと合流して、お互いの得た情報を共有することにした。プチゴーレムズまでいると大人数なので、場所は宿屋の一室に展開したマジックハウスの中だ。
まずは、僕らの成果を伝える。
「――というわけで、情報だけじゃなくて、必要なら案内もしてくれるって」
「なるほど、現地を知る人間の協力が得られるのは大きいな」
聞き終えたローウェルは、そう言って大きく頷いた。僕としては現地でのガイドなんているかなと疑問に思っていたけど、彼は必要だと思っているみたい。
「ベエーレさんは潜入だなんて言ってたけど、そんなに危ないところなの?」
「基本的には噂通りの場所らしい。本気か冗談かわからんが、国ではなく盗賊の拠点だと思え、と口を揃えて言われたな」
盗賊の拠点って、すごい評価だね。だとしたら、まさに潜入だ。
「まあ、そう言った奴らは実際にアルビローダに行ったことはないらしいが。ここらでは“悪い子はアルビローダの盗賊に攫われる”と聞かされて育つそうだ。幼い頃から刷り込まれているせいで、近づこうとも思わないらしい」
なるほど。そうなると、ベエーレさんは希有な人材ってことになるね。なんでそんな危険な場所に詳しいのかは謎だけど。
「あの不思議な髪型の人達に話は聞けたの?」
「それが駄目だったんだよ、ハルファちゃん。今日はギルドに顔を出してないって」
ハルファの問いには、スピラが答えた。
冒険者ギルドでの情報収集において、本命は例のモヒカン冒険者たちだったんだよね。ティラザに無謀な戦いを挑むのはアルビローダから流れてきた奴らだ、というような話をベエーレさんがしていた。彼らが本当にアルビローダ出身者ならば詳しい情報が得られると思ったんだ。残念ながら、今日は会えなかったみたいだけど。
「出発までは数日ある。それまでには話が聞けるだろうさ。もし無理だったとしても、ベエーレから話が聞けるなら問題はないからな」
まあ、ローウェルの言うとおりかな。多角的な情報を得るために、モヒカン冒険者たちの話も聞いておきたいけど、必須ではない。アルビローダへと出発するまでの間に、話が聞ければいいなってくらいの心づもりでいよう。
「アレンたちは、何か情報が掴めた?」
「えっとね、ハンバーガーはご主人様の作る奴の方がおいしかったよ!」
僕の問いに勢いよく答えたのはピノだ。期待していたような答えではなかったけどね。どうやら、彼らは情報収集の途中にハンバーガーを食べたみたい。やっぱり、ウェルノーにも出店済みなんだね。
「こら、馬鹿ピノ!」
「ち、違うんですよ! 情報収集もしてましたよ!」
「商品を買った方がお店の方の口の滑りもよくなるのです。間違いありません」
ピノの失言をミリィが罵り、アレンとシャラがフォローする。
実を言えば、そうなることは織り込み済みなので別に構わないんだけどね。そのためにお金も持たせたんだし。さすがに一番の情報がハンバーガーの感想だとは思わなかったけど。
『なんだ、お前ら! ハンバーガーを食べたのか? ずるいぞ!』
「シロルちゃんだって、カレー食べたんでしょ! ずるい!」
シロルとピノは同レベルの喧嘩をしている。とりあえず、二人は放置しておこう。
「他に気になる情報はなかった?」
「あるにはあったんですが、アルビローダと直接関係があるかどうかはわかりません」
アレンがそんな風に前置きして話してくれたのは、なんともはっきりとしない内容だった。ウェルノーから西側――つまり、アルビローダ方面で異常な魔物が出現するという噂だ。
「姿はこの辺りに生息する魔物と変わらないんですが、異常に攻撃的らしいんです」
「しかも普通なら致命傷のはずの傷を負っても動いていたって話だったよね」
「結局は取り逃がしたらしいのですが、その頃には変わり果てた姿になっていたそうです。傷口が金属のようなもので塞がっていたのだとか」
噂が正しければ、まともな魔物ではなさそうだ。アルビローダとの関連性は不明だけど、西側に向かうのなら遭遇することはあるかもしれないね。
ともかく、これで三組の情報を共有することができた。ミーティングはこれでお開きかな、と思ったところで、ガルナがぴょんと僕らの中央に飛び出してきた。自然と、みんなの視線がガルナに集まる。
十分に注目が集まったことを確認すると、彼女は苦々しさを隠しもせずに言った。
『私からも言っておくことがある。昨日、私の知らぬダンジョンが存在するとわかってから、信徒たちに呼びかけたんじゃが……一部の者に声が届かなくなった』
ガルナの信徒。つまり、邪教徒たちのことだ。今でもそう呼んでいいのかはわからないけど。神々と和解したとき、ガルナは信徒たちに方針の転換を伝えた。そのときには、特に変わったことはなかったらしい。とはいえ、ガルナの信徒たちにとっては寝耳に水だったはずだ。
「それは、信徒じゃなくなったってこと?」
尋ねると、ガルナは寂しそうに頷いた。
『急な方針転換じゃ。反発もあろう。私との繋がりが途絶えることは十分に考えられる。じゃが……』
そこで、ガルナは躊躇いがちに首を横に振った。どうやら、信仰が失われたというような単純な話ではなさそうだ。続きを待っていると、彼女は意を決したように話し始めた。
『声が届かなくなった者たちの多くは、西部方面の者じゃ。偶然とは考えにくい。その者らが組織的に離反した可能性がある』
組織的な離反者か。方針転換に納得していないのなら、彼らが望むのは苛烈な試練。そんな集団が残っているとしたら、困ったことになるね。
それに、だ。ガルナが把握していないダンジョンがあるのも、西。離反者が出たのも、西。何らかの関係がありそうな気がするよね。
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