39. とんでもないゴーレム
改めて十二階層に挑もう。銀勢力が何か企んでいるだろうから、できるだけ急いで攻略する必要がある。これまでのやり方だと突破に時間がかかるから、良い方法があればいいんだけど……うーん、やっぱりあれかなぁ。
「どうするつもりだ?」
「え?」
「何か思いついたんだろ?」
まだ言葉にしてないのにローウェルから尋ねられる。他のみんなも、呆れ、興味、心配と表情はそれぞれだけど、僕が何かやるんじゃないかとは思っていそうだね。顔に出てるのかな。
「急ぐのと壁を壊すのを両立するイメージで僕が出せるものがあるから、それをパンドラギフトから出そうかと」
「そうなのか」
僕の言葉に少し考えたあと、ローウェルはまだ不安そうにしているハルファを見る。
「取り返しがつかなくなる前にさっさと片づけた方がいいだろう」
「……うん」
僕じゃなくてハルファが頷いた。よくわからないけど、GOサインが出たみたい。
というわけで、作戦開始!
まずは、階段から十二階層を覗く。壁から生えた悪魔の彫像が、こちらを睨んでいた。階段から出たら魔法を飛ばしてくるだろうことは間違いない。やるなら、ぱぱっとやってしまわないと。
僕が出そうとしているのは戦車だ。鋼鉄の装甲と強力な砲撃。上手く行けば、敵の攻撃を防ぎながら壁を破壊する頼もしい味方ができるはず。まあ、前世でも実物を見たことがないので、かなりイメージ便りになるけどね。操縦なんかは心配いらない。どうせゴーレム化するから、勝手に動いてくれるはず。
「じゃあ、やるね! 僕が大きいのを出すから、それを盾にして進もう!」
僕の宣言に、みんなから了解の返事が届く。不安げだったハルファも気持ちを切り替えたみたい。しっかりとした返事が返ってきたのでひと安心だ。
ぱっと飛び出て、さっとパンドラギフトを開封する。悪魔の彫像が炎の矢を飛ばしてくるのが見えたけど、それよりも箱から巨大な物が出現する方が早かった。それが盾になり、敵の攻撃を防いでくれる。
頑丈そうな装甲。巨大な砲身。大きさは4mほどの通路ギリギリを占めるほどだ。それは確かに僕が望んでいた通りだけれど。
「何かちょっと違う!」
思わず叫ぶ。見た目はかなり戦車なんだけど……何故か土色だ。触った感じも金属っぽくはない。ざらりとしている。近い感じでいえば……ハニワナイトだ!
通路いっぱいを陣取ってるから前面は見えないけど……これ、絶対埴輪っぽい何かだよ!
「な、なんだ? どうしたんだ?」
「気にするな。ちゃんと形のあるゴーレムを出すと、何故かトルトはああなるんだ」
困惑するレイに、ローウェルがアドバイスを送っている。そのそばで、ハルファが顔をわずかに綻ばせて呟いた。
「やっぱり、トルトはトルトだね」
そりゃ僕は僕だけどね。その安心の仕方はどうなのさ。
とはいえ、嘆いてもいられない。出し直している時間はないし、見た目なんて重要じゃないから。と自分に言い聞かせてゴーレム化を実行する。巨大なわりにするりと僕のマナが馴染み、今、埴輪戦車がダンジョン内に産声を上げた。
「埴輪戦車、ひとまず前進! 魔物化した壁を優先的に攻撃して!」
指示を出すと、埴輪戦車は了承の合図のようにエンジン始動音のようなものを響かせた。絶対、エンジンで動いていないのに。続いて、キュラキュラとキャタピラのような音を響かせて進み始める。よく見たら、キャタピラなんてなくて、数センチ浮いてるけど。
走り始めはゆっくりだけど、徐々に加速していく。すぐに僕らが走っても追いつけないほどの速度が出て……そのまま埴輪戦車は爆走した。
「えぇ!? ちょっと!」
「行っちゃったよ……?」
ミルとサリィが唖然するのも納得だね。だって、あっという間に見えなくなっちゃったから。薄暗いから、視界の範囲が狭いんだ。ただ、何処にいるかは大体わかる。だって、キュラキュラ五月蠅いんだもの。それにズドンとお腹に響くような重低音がときおり聞こえてくる。砲撃もちゃんと使えるようだ。
「ええと……前方には悪魔の彫像があったはずだけど」
『さっき消えていくのを見たぞ! 笑い声を上げる暇も無かったみたいだ』
敵が見当たらなくて戸惑っていると、シロルが教えてくれる。どうやら、埴輪戦車に轢かれて消滅してしまっていたみたい。びっくりするほどの攻撃力だね。
とんでもないもの作っちゃったなぁと思っていると、キュラキュラという音が近づいてくる。埴輪戦車が戻ってきたみたい。
「どうしたの?」
尋ねても埴輪戦車は無言だ。だけど、意志はあるので、アレンが翻訳してくれる。
「前方はある程度制圧したので、指示を仰ぎに来たみたいですね」
「もう!?」
驚きの早さだ。でも、これなら階層の探索も捗るね。
「それなら、とにかくこのフロア全体を制圧してくれないかな。それで、怪しげな場所があったら連絡して。銀の異形とかはわかるよね?」
尋ねると、ブオオンと返事。これは了承ってことでいいのかな?
「それじゃあ、お願いね」
改めて頼むと、埴輪戦車はもう一度ブオンと鳴らしてから、キュラキュラと爆走していった。
「と、とんでもないゴーレムを作ったものだな」
「本当だよねぇ」
「何故、他人事なんだ……」
レイの言葉に心の底から頷くと、呆れられてしまった。いや、だって、ここまでとは思わなかったんだよ。
銀勢力を見つけたという連絡が入ったのは、およそ10分後のことだった。
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