狙われてる?
最近、妙なことがよく起こる。不思議だなぁと思ってたけど。
「僕たちって、邪教徒たちに狙われてるのかな」
「……それはそうだろうな」
「え? トルト君、いまさらなの?」
ちょっとした疑問を口にしただけなのに、ローウェルとスピラから呆れたような目で見られてしまった。いや、僕だってそうなんだろうとは思ってたんだよ。でも、今まで被害がなさ過ぎたから本当にそうなのかなって疑いが生じてたんだ。
「だって、この間の強制転移では貴重な素材がたくさん手に入っただけだったし」
数日前にダンジョン探索をしていたら、見知らぬ冒険者たちに囲まれたんだ。その冒険者たちが不思議なスクロールを使ったかと思うと、僕たちは見知らぬ場所にいた。たぶん、ダンジョンの深層だったんじゃないかと思う。それも誰も到達していないような。
水晶樹が乱立する幻想的な場所だった。ちょうど転移させられた場所が採掘スポットになっていたので試しに少しだけ採掘してみたけど、ミスリルやオリハルコンの混じった鉱石がごろごろと手に入った。宝石類や貴重な薬草も手に入ったので、素材入手という意味では大変有益だったね。
問題があるとすれば帰還のクリスタルが使えなかったこと。その階層の特徴なのか、それとも局地的な妨害があったのかはわからないけどね。深層なら魔物も強力なはずだから、そんな状態で帰還もできないとなれば普通は絶望的な状況だ。
だけど、偶然にも魔物に遭遇する前に妖精界へと繋がる場所を見つけちゃったんだよね。そこから妖精界へと転移した後、女王に事情を話して第二十階層のトレントの森に転移させて貰った。だから、貴重な素材を手に入れただけで特に何の問題も無かったんだ。
「狙撃もされていただろう?」
「あれだって、貴重なスキルの書が手に入っただけだよ?」
ローウェルが言っていたのは、別の日のこと。アイングルナの街で狙撃されたんじゃないかと思われる事件があった。はっきりしないのは、犯人が捕まってないのもあるけど、何の被害もなかったからだ。そのときは、突然大きな音がしたかと思えば、謎の叫び声が響いて驚いた。そのとき、すぐ傍に落ちていたのが、インビジブルウォーカーという魔物の魔石と【刃通し】というスキルの書だ。
インビジブルウォーカーというのは、透明で姿を観測するのはまず不可能と言われている魔物。行動原理は不明で、魔物にしては珍しく人間を見ても敵対行動を示さない不思議な存在だ。観測もできず被害もないので実在を疑う声もあるんだけど、ときどきこうやって魔石が見つかるので、おそらく実在するのではないかと言われている。
ちなみに【刃通し】は極めるとどんなに硬い物でも豆腐のように切れちゃうようになるスキルだ。これは後でローウェルに使って貰った。
そのあと、すぐにもう一度狙撃はあったんだけど、インビジブルウォーカーの断末魔に警戒して、咄嗟にクリエイトゴーレムで壁を作ったので特に被害もなく無事だった。
「呪いのナイフに刺されそうになったこともあったよね?」
「ああ、うん。あれはありがたかったね!」
「……そうだね」
スピラの言っている呪いのナイフというのは、刺した物をミイラ化させる呪物らしい。あのときは、ちょうど鰹節づくりをどうにかできないか試行錯誤しているときだった。不審な男が近づいてきて、突然ナイフを構えて突き刺そうとしてきたんだ。咄嗟だったから、手にした魚の切り身でガードするしかなかった。その結果……なんと鰹節ができたんだよね!
正直、鰹節づくりには難航していたからうれしくなっちゃって、その男の人と握手をしようと思ったんだ。でも、ちょっと薄汚れた格好をしていたからクリーンをかけたら……邪気が浄化されたみたいなんだよね。結局、その事件では男性一人を邪気の影響から救い、ついでに鰹節づくりのナイフを手に入れたという印象しかなかった。
「まあ、トルトだからね!」
『そうだぞ! トルトならピンチもチャンスに変わるんだからな!』
ハルファとシロルの信頼もよくわからないけどね。まあ、呆れられるよりはいいけど。
「でも、今回はどうにもならないね」
今回の襲撃は、宿屋の爆破だった。僕の借りている部屋が狙われたようで、その部屋だけはボロボロで原型を留めていない。僕らは別の部屋に展開したマジックハウスで寝起きしていたから無事だけど。被害は見張り要員の自我なしゴーレムだけだ。
爆発にともなう炎上はスピラの力で食い止めた。だから、他のお客も無事だ。少なくとも大けがを負った人はいないはず。それでも宿屋の建物への被害は相当に大きいんだ。一旦壊して立て直した方がいいくらい。僕らが巻き込んでしまった結果だと思うと申し訳ないよね。僕らにできるのは立て直し費用を寄付するくらいかな。あとは、目玉になるような料理を幾つか教えてあげよう。それで元のような人気の宿屋に戻るといいんだけど。
それにしても、邪教徒たちも手段を選ばなくなってきたな。もうこうなったら早期に決着をつけた方がいいのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます