40. 作戦の推移は順調

 カレーで華麗に浄化作戦は順調に推移してる。協力者のベエーレさんも上機嫌だ。作戦中は僕が運営指揮をとるけど、エルド・カルディア教団との件に決着がついたら権利を委譲することになってるからね。


 ここは、ベエーレカレーのグラバルド店の会議室。グラバルドはバンデルド組の本拠地がある街で、教団の本部もここにある。いわば敵の本丸だ。


 現在、バンデルド組の支配地域に続々とカレー店がオープンしている。建物はクリエイトゴーレムの魔導具を持ったプチゴーレムズがパパッと作っちゃう。従業員はベエーレさんから借りた。元山賊たちに加えて、レブウェールでの出店を見据えて教育中だった人たちにも協力して貰っているみたい。それでも足りない労働力はゴーレムで補っている。意志のないゴーレムでも単純作業ならこなせるからね。


「報告によれば、クリーングリーンカレーの浸透率は20%くらいだな。職人を中心に広がっているようだ」

「20%!? 思ったよりも普及してますね!」


 ベエーレさんの報告に驚く。


 カレー店展開の目的の一つに、銀化予備軍の人たちの浄化があるんだけど、それを為すための秘策が、クリーングリーンカレー。僕のクリーンを付与した魔法の調味料を使って作ったグリーンカレーなんだ。あえて普通のカレーと区別したのは、食べるとどうしても銀のデロンとしたものが出ちゃうから。元のカレーの評判が悪くならないように配慮したんだ。


 それにしても、この短期間で浸透率20%?

 さすがにおかしくない?


「無料提供と半額サービスが効いてるみたいだな。サービスを利用しようとして続々と新規客を増やしてくれてる。笑いが止まらんな!」


 ベエーレさんが「くくく」と悪人みたいに笑う。子供の見た目だからまだ微笑ましいけど、普人だったら通報案件かもしれない。


「教団の布教を妨害する方はどうですか?」

「そっちは、ソイツに聞いてくれ」


 ベエーレさんが顎をしゃくって指し示したのはラウヤだ。教団幹部だった彼は今、ベエーレさんの下で働いている。一時的な措置だけど、ベエーレさんのことだから、いつの間にか懐柔してそうだよね。


「具体的な数字はわかりませんが、順調ですよ」


 ドヤ顔でラウヤが報告する。その頭はキラリと輝いていた。


 デンデさんに整えられたモヒカンは綺麗さっぱりと消失している。さすがにバンデルド組の支配地に乗り込むのにモヒカンはまずいからね。デンデさんは「命よりも大切なモヒカンを切らせることになるとは……すまん」と申し訳なさそうにしてたけど、絶対にラウヤは気にしてないと思う。


 ラウヤの仕事は、とある噂を支配地のあちこちにばら撒くこと。その噂とは、教団が食べ物に謎の銀の粉を混ぜているという内容だ。まあ、事実なんだけどね。


 教団幹部だったラウヤはその辺りの事情に詳しい。一応、潜入工作員なので、噂を流したりするのも本人曰く得意みたい。忠誠心とかないタイプだから、少し不安だったけど、こちらが優位なときなら裏切る心配はないかと思って任せてみたんだ。お目付役にアレンはつけていたけどね。


 結果としてラウヤは期待以上の働きをしてくれた。


「こういうときはさりげない誘導が効果的なんですよ。人は自分で出した結論を信じるものです」


 ということらしい。その信憑性はともかく、効果はあったみたいで、カレー店のお客を中心にバンデルド組と教団への不信感が広がっている。


 彼自身がやったことは伝手を使って支配地の各街に教団が食料に銀の粉を混ぜていることを広めただけ。このとき、その銀の粉の有害性は伝えない。ただ、よくわからない粉が混ざっているという事実だけを広める。


 一方で、カレー店の方でも噂を広めた。それは、食べ物が汚染されているかもしれないという噂。こちらも原因については伝えない。代わりに伝えるタイミングは選ぶ。カレーを食べたお客さんが浄化され、寄生した銀の異形が逃げ出したときに伝えるんだ。


 銀の粉と銀の異形、加えてもともと燻っている教団とバンデルド組への不満が合わさって、彼らはひとつの結論を導き出す。教団が銀の粉を使って何か良からぬ企みをしている、と。


 ラウヤが流した噂に誘導された結果なのだけど、直接的に吹き込まれたわけじゃないから、人々は自分で考え出した結論だと思って疑わないみたい。まあ、言ってはなんだけど、ラウヤはちょっと胡散臭い感じがするものね。直接話すより成功率が高いのは本当だと思う。


「教団への不信感が高まっているなら、銀化の心配もなさそうだね」


 銀化が完了する条件は一定量の銀の粉と信仰心らしいから、教団が支持を失ったら、銀化のリスクはかなり低くなる。狙い通りだね。


「そうだな。むしろ、カレー屋に手を出してくるせいで、支持率が急落してる。馬鹿なヤツらだ。食べ物の恨みは恐ろしいってのに」


 ベエーレさんが笑う。


 浄化については隠してないから、バンデルド組も教団も営業を妨害しようとちょっかいをかけてきているんだ。ただ、お客さんはすっかりカレー好きになってるから、反発が凄い。僕らが何かする前に、お客さんが返り討ちにする勢いだ。一応、店内のテーブルや、お店の前の地面はこっそりゴーレム化してあるんだけどほとんど出る幕がないみたい。


 今のところ、お店に手を出してくるのはバンデルド組の戦闘員か、教団の下っ端くらい。ラウヤ以上の情報源にはなりそうにないので、適当に浄化して帰している。そろそろ、下っ端じゃどうにもならないと悟ってもいいはずだけど。


 そのとき、タタタという靴音が廊下から聞こえてきた。音はこの部屋の前で止まり、すぐに扉が開かれる。


「トルト!」


 飛び込んできたのはハルファだ。


「何かあった?」

「うん! 銀の傷を持った人が来たよ! そのせいでお店がぐちゃぐちゃになっちゃった!」


 どうやら、ついに幹部が来たみたいだ。

 よし、行こう!


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▼新作を投稿しました。

ゴブリンは大志を抱く!~異種族の襲撃や戦争に負けず、夢に見た文化的な生活を目指して邁進します~

https://kakuyomu.jp/works/16817330664229063555


こちらは能力的なチートはなく

知識による内政ブーストと戦闘力強化で勢力を伸ばしていく(予定)のお話

興味がある方は是非!

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