21. 魔道具開発会議

「それじゃ緊急のパーティ会議を始めるよ。議題は新しい付与魔道具について。どんな魔法を付与すればいいか、みんなで考えよう!」

「「おー!」」『おー』


 マジックハウスに集まったのはいつものメンバー。ノリノリで声を上げたのはハルファとスピラ、シロルだ。ローウェルは戸惑った表情で、ガルナはちょっと呆れ気味かな。


 プチゴーレムズはいない。誰か来たときのために取り次ぎ役として外に出てるんだ。そもそも、彼らは会議で自発的に発言するタイプじゃないしね。例外は食べ物に関するときくらいかな。


「実はね。ローゼフさんから、これにクリーンを付与して欲しいって言われたんだ」


 お掃除……じゃなくて、浄化の魔道具用の器として用意するってローゼフさんが言ってたものだ。職員さんによって、今朝届けられたんだよね。


 僕が手にしているのは、錫杖って言えばいいのかな。僧侶の人が持ってるような短めの杖だ。先の方に金属の輪っかがついていて、振るとシャランと音が鳴る。


「うわぁ、凄い……」

「綺麗だね」

『ピッカピカだぞ』


 ノリノリな三人の感想が物語っている通り、錫杖はとても美しい。材質はよくわからないけど、金色でピカピカだ。きっと、美術品としての価値も高いんだと思う。


 一緒に届いた他の幾つかの器もこの金の錫杖に負けず劣らずの逸品揃いだ。見た目が大事と言っていたローゼフさんの本気を見た気がするね。


「でも、ここまで凄いとただのクリーンを付与するのが申し訳なく感じて……」


 だって、少し特殊な効果があるとはいえ、初歩的な生活魔法だよ。器に釣り合ってないと思うんだよね。


 僕の気持ちを伝えても、みんなの反応は悪い。ハルファとスピラは「そんなもの?」って感じのピンと来ていない表情。ローウェルは苦笑いで首をすくめるだけ。シロルは……あんまり興味がなさそうだね。これはご飯のことを考えているときの顔だ!


『いや、向こうがそれでいいと言っているんじゃから、それでいいじゃろうが』


 やっぱり呆れた様子のガルナが口を出した。


 確かにそういう見方もあるよね。でも、やっぱり心苦しいんだ。だって、こんなピカピカなのに量産型のお掃除道具と同じ扱いなんだよ。きっと、みんなガッカリするよ。


「まあまあ。トルトが気になるなら、考えてみればいいんじゃない?」

『それもそうじゃの。きっとまた誰かが振り回されることになると思うが、私が苦労するわけじゃないんじゃから』


 僕の思いが伝わった……わけじゃなさそうだけど、ハルファの取りなしでガルナも主張を引っ込めた。ちょっとだけ口ぶりが気になるけどね。何で、迷惑をかける前提なのさ。いいものを作れば、みんな喜んでくれるはずだよ。


「まあ、趣旨についてはわかった。とはいえ、俺たちは付与魔道具についての知識なんてないぞ」


 ローウェルが懸念を口にする。それはそうだろうけどね。


「実現できるかどうかは僕が考えるから、みんなにはそれを度外視してアイデアを出して欲しいんだ。きっと一人で考えるより、良いアイデアが浮かぶと思うから」

「それならば、まあやってみるか」

「あ、どんなアイデアでもいいけど、一応は銀の異形を退治する方向で考えてね」

「当然だな。依頼主が望んでいないものを作っても仕方がない」


 みんなが納得してくれたところで、改めて会議開始だ。


「すっごい強い火で、うねうねごと燃やすのはどうかな?」

「凍らせるのもいいんじゃない?」

『お菓子はどうだ? お菓子に変える魔法を作るんだ!』

「あ、それ、楽しそう!」

「お菓子はいいね!」


 積極的に発言するのはいつも通り、ハルファ、スピラ、シロルだ。今は敵をお菓子に変える魔法について考えてるみたい。なかなか面白い発想だね。


 存在そのものを変化させるなら、銀の異形も倒せるとは思う……けど、ちょっと実現させるイメージがわかないなぁ。あと、お菓子にしたあと、どうするつもりなんだろう? まさか食べるの? もとがあのうねうねだと思うと、ちょっと食欲が湧かないよね……。


「なかなか難しい。そもそも、何故ヤツらを消滅できているかがわからないからな……」

『そこは深く考えん方がいいじゃろうな。トルトの認識が揺らぐと効果が発現しなくなる恐れがある。異物を浄化しておるとでも思っておけばいいのじゃ』

「そういうものか」


 ローウェルは口数が少ない。どうも難しく考えすぎてるみたい。単純に思ったことを言ってくれればいいんだけどな。ガルナがアドバイスしてるけど、眉が下がったままだ。


 だいたい三十分くらい話してたかな。いろんなアイデアが出たけど、残念ながら実現できそうなものはなかった。僕自身が使うならどうにかなりそうなものもあったけれど、付与魔道具にするには難しいっていうのもある。付与するときのマナ消費がやっぱりネックだ。初歩的なクリーンだからこそどうにかなってるけど、中規模以上の魔法の付与はどうにもならない。まだ、使い捨て魔道具にするならどうにかなるんだけどね。


 とうとうハルファたちからもアイデアが出なくなったころ、ローウェルから方針転換の提案があった。


「やはり、全く新しい魔法にするのは難しいんじゃないか。今のクリーンを強化する方向で考えたらどうだ」

「うーん。例えば?」

「そうだな……範囲を広げたりはできないか?」


 範囲強化かぁ。実現できれば、喜ばれそうではあるよね。


「ちょっと難しいかな?」


 ただ、ちょっとイメージが湧かない。クリーンは対象を選んで発動するタイプの魔法だからなぁ。ゲームで言えば単体魔法だ。効果範囲とかがあるわけじゃないから、それを広げるっていうのが想像しにくいよね。


 理由を説明すると、ハルファがきょとんとした顔で首を傾げた。


「どうしたの?」

「だって……トルト、部屋の中を一瞬で綺麗にするよね?」

「ああ、うん。あれは“部屋”という対象に使ってるんだ」


 確かに、部屋の中に限定すればそれなりの範囲に影響を及ぼせるかも。とはいえ、室内限定だとあまり役に立たないかなぁ。最近問題になってる銀の異形は野生動物や魔物に寄生しているからね。この魔道具が使われるのは基本的に屋外だ。


『だったら、部屋を作ればいいんじゃないか?』

「そうだね。私なら、氷で壁が作れるし」


 シロルの意見をスピラが補足する。


 壁で仕切れば部屋と見立てることはできる気がするね。僕ならストーンウォールで石壁が作れる。準備さえすれば、範囲浄化は不可能じゃない。


 とはいえ、それは付与魔道具の機能拡張にはならないかな。ストーンウォールで壁を作って中にクリーンをかけるって工程だと、マナ消費が大きくて僕だと付与できない。もう少し軽減できれば、ギリギリいけそうなんだけどなぁ。


『ふむ。壁ではないが……〈ワイルドリペル〉はどうじゃ。効果は弱いが、その分、消費マナも少ない』


 ガルナが提案してくれたのは獣除けの結界だね。結界って言っても効果は弱くて、野生動物やごく弱い魔物を寄せ付けない程度。ゴブリンならギリギリ有効だけど、それ以上になると効果がないんだ。だから、冒険者にとってはほとんど意味がない。


 とはいえ、だよ。今回の場合、効果は関係ない。重要なのは、内と外とを隔てる概念だ。結界内部を室内と見立ててれば……むむむむむ。


 うん、できそう!

 みんなのおかげで範囲浄化魔法が作れそうだね!

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