新しいものが食べたい

『ハンバーグはうまいけど……ちょっと飽きてきたぞ』


 突然、シロルがそんなことを言い出した。


 ハンバーガーを開発してから、シロルはハンバーグばかり食べていた。別に僕がいじわるしてハンバーグしか食べさせていなかったわけじゃない。シロル自身が気に入って、好んで食べていたんだ。まあ、だからといって、毎日毎日ハンバーグばっかり食べてたら飽きるよね。


「何か他に食べたいもの、ある?」

『むぅ、そうだなぁ。せっかくだから、食べたことがないものを食べたいぞ!』


 食べたことがないものかぁ。なかなか難しいオーダーだ。


「食材が同じだと、料理としても同じになりがちなんだよね」


 もちろん、料理法や組み合わせる食材で変化はつけられるけどね。でも、僕が知ってる調理法は、結構試してるからなぁ。今更、新しさを感じさせる料理って言うのも難しい。


「新しい食材か……。たしか、十七層は海地形だったはずだ」

「魚介か! いいねえ。今まであんまり使ってないし」

『お、魚か! 食べてみたいぞ!」


 魚は鮮度の問題があるから、港町でもないとほとんど出回らないんだ。干物なんかは売ってたりするけど、高いわりにやたらと塩辛いだけであんまり美味しくもない。だから、これまであんまり扱ってこなかった。例外は、蟹くらいかな。キグニルのダンジョンには蟹の魔物が出たからね。


 今、僕たちがいるのは第七階層。十層分移動しないといけないから、結構大変だ。それでも反対意見は出なかったので、僕たちは第十七階層を目指すことになった。




 できるだけ寄り道せずに、五日。ようやく僕たちは第十七階層にたどり着いた。第十六階層からの下り階段は朽ちかけた遺跡みたいな建物に繋がっている。その建物を出れば、潮の香りが漂ってきた。建物周辺は熱帯雨林みたいにじめじめしていて樹木が多いけど、少し歩けば目の前は海だ。白い砂浜には波が緩やかに寄せては返している。


「すごーい! ひろーい!」


 ハルファとスピラが砂浜に向かって走り出した。「わふわふ」と吠えながら、シロルも続く。軽く周囲の探索くらいしようかなと思ってたけど、まあいいか。目的は魚介類だからね。


「じゃあ、プチゴーレムズは警戒をお願いね」


 敬礼のようなポーズで「ピコ!」と返事するプチ一号たち。今は採掘をするときの作業用ボディじゃなくて、警戒任務用の埴輪ボディだ。とはいっても、マナ補充機能もついている高機能版。まだ鉄じゃなくて土だから耐久性は低いけど、基本的に敵を発見して知らせるのが彼らの仕事なので問題はない。無魔法のレベルが上がった関係で移動速度はかなり早くなったから、警戒任務は安心して任せられる。


「じゃあ、僕たちはたくさん魚をゲットしよう!」

「そうだな」


 待ってくれていたローウェルと一緒に、僕も砂浜に向かう。

 突然決まったことだから、特に釣り道具なんて用意していないけど、たぶん問題はない。なんといっても、ただの魚ではなくて魔物だからね。近くにいれば勝手に寄ってくるはずだ。


『のわー! 何だコイツ! 魔物だー!』


 待つ時間すらなく、さっそく魔物が釣られてきたみたい。シロルが慌てている。海に気をとられてたのか、それとも陸と同じようには気配察知ができないのか、魔物の接近に気がつかなかったみたい。いや、この魔物の隠密性が特別高かったのかな。


 シロルに絡みつこうとしているのはハイドオクトパス。周囲の環境に擬態して奇襲するタコの魔物だ。物理攻撃に耐性があって、その上締め付ける力が強い。気付かずに絡みつかれると対処が難しい魔物だ。まあ、シロルとは相性がいいんだけど。


『ぬおー! これでも食らえー!』


 シロルが角から放つ雷撃を食らうと、ハイドオクトパスはそれだけでぐったりとしている。こいつは魔法攻撃が苦手で、特に雷属性が弱点なんだ。更に追加で雷撃を食らうと、それだけで消滅してしまった。


『ふぅ……、びっくりしたぞ!』

「あはは、お疲れ様。でも、さっそく食材ゲットだね!」


 ハイドオクトパスが消えたあたりでは、魔石とタコ足が落ちてる。一応、タコ足を鑑定してみると『ハイドオクトパスの足』というそのままの名前。きっちりと食用になってるから安心だね。砂まみれになっちゃってるけど、洗えば問題ない。


『食材って……そんなもの食べれるのか!? うねうねしてたぞ!』

「タコは食べれるんだよ。ハルファは知っているよね?」

「ううん、私も知らないよ」

「え、そうなの!?」


 廉君のことだから、絶対に翼人には伝えていると思ったのに。まあ、翼人の郷の場所にもよるか。海が遠かったらタコが手に入らないもんね。そういえば、ハルファの故郷について聞くのも忘れてたなぁ。


「そういうことなら、本日のお昼はアレだね!」


 タコといえば、タコ焼き! ハイドオクトパスの足は一本しかないけど、普通のタコ足よりは大きいので量は十分だ。たくさん焼くぞ!

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