タコパと食材ゲット

 たこ焼き器なんてあるわけがないから、まずは道具作りからだ。といっても、手間がかかるわけではない。鉄の塊をたこ焼き器型ゴーレムにするだけだ。形状が整ったあとは、ゴーレム化を解除すればいい。鉄は焦げ付きやすいから、油は使った方がいいかな。薬膳料理にしようかと思ったけど……タコ焼きに使えそうな素材はないか。普通に作ろう。


 たこ焼き器のくぼみに材料を流し込み、タコの切り身をセット。加熱しながら、たこ焼き返しを使ってくるくると回転させて、球体になるよう整える。


「わぁ、丸くなった!」

「おもしろいね!」


 女の子ふたりが見た目に反応する。そういえば、おもしろい作り方だよね、たこ焼きって。ローウェルも興味深そうに見ている。シロルは何も言わないけど、しっぽがぶんぶん振られて今にもよだれを垂らしそうだ。


『おお、これがタコだな! なかなか美味いぞ!』


 はふはふと息を漏らしながら、シロルがたこ焼きを頬張る。食材にすると言ったときにはちょっと嫌そうだったのに、そんなことなかったかのようにご満悦だ。シロル以外にもたこ焼きは大好評。やっぱり、タコの姿が見えないのがいいのかもしれないね。


 調味料としては、たこ焼きソースとマヨネーズも用意している。ソースは最近試しに作ったウスターソースに少し手を加えた程度だから、もうちょっと研究が必要かもしれない。ただ、まあ急に用意したわりには悪くない出来だ。




 みんなが満足したら、狩りの時間だ。いや、海だから漁かな? ともかく、魔物をガンガン引き寄せて、たくさんの魚介類を確保したいところだ。砂浜で遊んでいれば、魔物たちは結構な頻度で襲ってくる。なので、それを返り討ちにすればいい。


 海方面の主力はスピラとシロル。他のメンバーで陸の魔物に対処するという役割分担だ。


 スピラは氷属性の攻撃で大活躍。魔物の弱点属性というわけじゃないんだけど……環境面で猛威を振るった。精霊だからなのか、スピラの属性攻撃は強力だ。魔物たちが寄ってきたら、その周囲の海水ごと凍らせることができるんだよね。その攻撃で倒せるわけじゃないけど、海が凍っている以上、魔物は身動きがとれない。じわじわと生命力が削られて、そのまま消滅するんだ。


 また、海の魔物は一部を除いて雷属性が弱点であることが多い。だから、雷撃が得意技のシロルはタコだけじゃなくて、他の魔物にも有利に戦えるんだ。海水の中にも雷撃は届く。拡散するせいで威力は落ちるけど、それでも海の魔物には十分に有効。それどころか拡散した雷撃が周囲に広がるので、魔物の数が多いときには有利に働くくらいだ。


 問題は海だとドロップアイテムが拾いづらい点だよね。それに関しては、戦いが終わった後に海水で作ったゴーレムに回収させている。水のゴーレムは陸より海の方が動きがいいみたいで、意外なほど効率的に仕事をこなしてくれた。


 暗くなり始めるまで魔物を狩り続けたおかげで、食材もかなり集まってきた。襲ってきた中で一番多かったのはキラーフィッシュ。こいつは亜種っていえばいいのか、いろんなタイプがいるんだよね。サンマっぽいのとか、サバっぽいのとか。タイプごとにドロップする魚の種類も違うから、面白いよね。しかも、切り身の状態でドロップするから捌く手間がいらない。


 魚料理といえば、連想するのはお刺身。切り身はたぶん新鮮だけど、海中にドロップするから衛生面でいえばあんまりよくない。まあ、それはクリーンを使えばどうとでもなるけどね。問題は、みんなが生の魚を受け入れられるか、だよね。クリーンで除菌なんて考えがないので、この世界の人々も生食の習慣はほとんどない。まあ、出してみて不評だったら、僕が食べればいいから、試しに出してみればいいか。


 その他の成果といえば、海中に生えていた海藻の中に昆布らしきものを見つけた。当然、ゴーレムに回収してもらったよ。鑑定してみると、食べられるし出汁もとれるみたい。昆布そのものかどうかはわからないけど、少なくとも代用品としては使えるね。キラーフィッシュの中に鰹っぽいのがいたので、もしかしたら鰹節も作れるかもしれない。鰹節と昆布があれば、出汁がとれる。また色々と作れるもの幅が広がるね。


『そういえばトルト。ここでは、お店を開かないのか? 魚のご飯なら売れるぞ!』


 手に入れた食材で何を作ろうか考えていたら、シロルがそんなことを言い出した。


「うーん、さすがにお店を開くほど材料がないからなぁ」


 アイングルナでは魚介類がほとんど出回っていない。理由は単純で低階層に魚型の魔物がいないからだ。ダンジョン内で大量に食材を確保するなら、魔物を狩るのが一番。肉をドロップする魔物はたくさんいるから、わざわざ手に入りづらい魚を確保しようとは思わないんだろうね。


『ふぅん、そうなのか。でも、鍛冶屋に行くんだろ? 依頼料に料理がいるんじゃないか?』

「依頼料は料理じゃなくてもいいんだよ?」

『そうなのか?』


 シロルが変な勘違いをしている。間違いなく、ガロンドのザルダン親方の影響だね。


 たしかに、鉄を鋼に加工してもらうために、鍛冶屋さんに行こうとは思っていた。鍛冶屋の親方には鉱人が多いし、料理を報酬にすれば喜ばれるかもしれない。まあ、テリヤキバーガーならアイングルナの鉱人にも通用すると思うけど……せっかくだから、新メニューでも考えてみようかな? いや、手に入りづらい食材で作っちゃうと地獄を見そうな気もするなぁ。

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