シロルの闇のゲーム

 ラーチェさんの仲間の四人はみんなガルナラーヴァの声に取り憑かれていたみたい。邪気浄化用クリーンをかけたら、全員がピカッと眩しく光ってたし、本人たちからも直接聞いた。すっかり疲労していたから簡単に事情を尋ねたくらいだけどね。とりあえず身体を休めて貰って、体調を回復してから改めて話を聞こうと思う。


 ただ、彼等の話には聞き逃せない内容があった。


「特殊個体が大勢で押し寄せてきたって話、聞いたことありますか?」

「いや、少なくともギルドには報告が入ってないニャ」

「我が輩の方でも情報は集めているが聞いたことはないな」


 明らかに今までとは違った動きだ。パーティーまるごと洗脳しようという意図がありそうだね。グレイトバスターズが狙われたのか、それとも第三十階層まで来た手練れならば誰でも良かったのか。“声”は単純に魔物を狩れと言っていただけみたいだから、後者の気がするけど。


「魔物を狩らせて、どうするつもりだったんでしょうか?」

「ニャ~? またあのでっかい鳥みたいなのでも、作るつもりだったのかもしれないニャ」

「うむ。可能性はあるな。あやつら素材も集めていたようだからな」


 ザッハさんたちは、邪神の声に支配されているときに、魔物を倒すだけじゃなくて、せっせと素材も集めていたらしい。つまりは邪神側が素材を必要としているってことだ。邪神ならダンジョンの力を使って魔物くらい生み出せると思うんだけどね。ってことは、邪神が直接動いているわけじゃなくて、邪教徒たちの仕業ってことかな。ちょっと前に目撃証言があったきり消息も知れないゴドフィーが怪しいよね。いったいどこで何をしているのか。


「導師会に動きはないのか?」


 黙って横で話を聞いていたローウェルが口を挟んだ。

 たしかに統治組織であるグルナ導師会に動きがなさすぎるんだよね。大きな組織だと腰が重いから動き出すまでに時間がかかるっていうのはあるかもしれないけど、巨鳥騒ぎなんて大事件があったにしては動きが鈍すぎる。何らかの作戦前で邪教側に動きを悟らせないように情報統制しているのかと思ったけど……それにしても全然動きがない。


「導師会ニャ~? アイツラも胡散臭いニャ」

「うむ……」


 ラーチェさんはでっかいため息を吐いて首を振る。それに同意するかのように、マッソさんは苦々しい表情で頷いた。


「……もしかして、邪教徒側ってことですか?」

「その可能性はあるニャ」

「全員というわけではなかろうが、一部は影響下にあるかもしれん」


 アイングルナの人々の信頼は厚そうだったので口には出さなかったけど、その可能性はうっすらと考えていた。しかし、それがラーチェさんとマッソさんの口から語られるとは意外だったね。特にマッソさんは導師会を信頼してそうだったのに。


 二人が導師会を疑うに至った理由は、各々の口から語られた。


「巨鳥騒ぎのときに、無駄に騒ぎ立てるなと導師会から釘差しがあったニャ。何かそれらしいことを言ってたけど、あれは怪しいニャ。あと、実はトルトたちへの召喚要請があったニャ。怪しいので突っぱねておいたけどニャ」

「導師会と協力して邪教徒の捕縛に動いているが……少しあってな。下の者は協力的なのだが、横やりを入れてくる連中がいるのだ。そいつらが邪教徒に繋がっているのか、それとも更に上が繋がっているのか。あまり良い状況ではなさそうだな」


 導師会の上層部が邪教徒と繋がっているとなると厄介だね。しかも、僕たちに召喚要請まであったなんて。


 アイングルナで邪神の影響を受けている人を助けたいと思っているんだけど、導師会に目をつけられているとなると動きづらい。少なくとも飛行船で空から歌を届けるなんてことをしたら有無を言わさず捕らえられてしまうかも。


 僕らの間に重苦しい空気が漂う。それを吹き飛ばしたのは、台所スペースから顔をだしたハルファとスピラだった。


「はい、ご飯だよ!」

「難しい話は一旦おしまい!」


 二人はご飯を作ってくれていたんだ。作ったのはたこ焼きみたいだね。怖い物知らずの二人は、すっかりタコにも慣れていて、普通に調理してくれる。


「おーこれはなんニャ? 丸っこい食べ物だニャ」

「うむ。食欲を誘う臭いだな。ソースの香りか?」

『その爪楊枝をさして食べるんだぞ! ただ、油断するなよ。これはただのたこ焼きじゃない。闇のゲームのたこ焼きだ!』


 たこ焼き初心者の二人にシロルが食べ方を教えている。別に爪楊枝で食べる必要はないんだけどね。屋台で提供するわけでもないんだし。それよりも問題なのは、闇のゲームうんぬんって方かな。廉君から話を聞いてから、シロルはロシアンたこ焼きに興味津々だったんだよね。いつかやるとは思ったけど、このタイミングだなんて。


『みんな一つずつ選んだか? 一斉に食べるんだぞ?』


 シロルの音頭のもと、みんなで一斉にたこ焼きを頬張る。


 うん、美味しい!

 僕が食べたのは普通のたこ焼きだね。


 周囲を見渡しても、おかしな反応をしている人はいない。ラーチェさんとマッソさんの場合、普通のたこ焼きがどんなものかわかっていないだろうけど。外れは激辛たこ焼きらしいから、たぶんノーマルを食べたようだね。


『なんだ? 誰も外れを引かなかったのか? よしじゃあ、次――』


 シロルが言いかけたとき、ドスンと何か倒れる音がした。何事かとそちらに視線を向けると、ピノが足をばたばたさせてもがいている。そばには食べかけのたこ焼きが落ちてるから……つまみ食いをして見事に激辛たこ焼きを引き当ててしまったみたいだね。


『あはは、ピノが外れか! 食い意地が張ってるから、罰があたったな! むぐむぐ……ぎゃあっ!?』


 外れを引いてもがくピノを笑ったシロルだったけど、次に食べたたこ焼きが外れだったみたい。まあ食い意地で言ったら、人のこと言えないしね。


「あっ、ピノ! これ爪楊枝じゃなくて、杖じゃないか! 駄目だよ」


 とりあえず、ピノの食べかけのたこ焼きを片付けようとしたら、刺さっていたのが爪楊枝じゃなくて、僕があげた付与魔道具の杖だった。いくらサイズが同じだからってこの扱いは酷くない? たしかに先も尖っているし、よく似ているけど……。


 ん、爪楊枝……?

 爪楊枝の付与魔道具かぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る